教育大附属旭川中の研究 単元の扉での工夫を検証 9教科10科目で教科の本質迫る
(学校 2015-08-25付)

 【旭川発】道教育大学附属旭川中学校(安藤秀俊校長)は、二十六年度から「学習指導要領から観る各教科の本質と役割」を主題とした研究を三年計画で進めている。本年度の副主題は「意味理解を促し各教科の本質に迫る単元の扉づくり」。導入場面において今後の単元における見通しをもたせるとともに、学習への意欲付けを図る「単元の扉」での、教師側の働きかけなどについて検証した。

 研究概要はつぎのとおり。

◆研究主題=学習指導要領から観る各教科の本質と役割

【教科の本質に迫るために】

 各教科の指導において、 教科の本質を求め、生徒にその教科独自の資質や能力を身に付けさせていくためには、教師側からの何らかのアプローチ(手立て)が必要である。

 各教科では、学習指導要領の解説の行間に込められている教科が求められている指導事項をとらえなおした。九教科十科目で各教科が担っていくべき役割と「教科の本質」をおさえることとした。

▼各教科の本質

▽国語=「正確な理解」「適切な表現」を通して、自ら考えをもつことできる能力を育む

▽数学=具体的な事象について問題や課題を解決する際に、推測しながら考察していく中で、根拠に基づいて筋道立てて関連付ける力を育む

▽社会=多様な観点から社会的事象をとらえることで、社会参画する態度と資質を養う

▽理科=科学的に探究する能力の基礎と態度を育む

・英語=コミュニケーションの手段として活用できる力を育む

▽音楽=音楽の表現および鑑賞活動を通して、感性を豊かにし、思いをもって表現する力を育む

▽体育=健康の保持増進と体力の向上を図る能力を育み、生涯にわたって運動に親しむ資質や能力を育てる

▽美術=美術の表現および鑑賞活動を通じて、感性や情操を養う

▽技術=生活や技術に関する課題について、複数の視点から客観的にとらえ、根拠をもとに最適解を求める能力と態度を育む

▽家庭=より良い生活を創造するために、自らの生活を振り返り、家族とのかかわりの中で衣食住などの生活を自立して営む能力と態度を育む

▼研究の目指す生徒像

▽自らをより高めたいという意欲をもち、既知の経験から新しい考えやものをつくりだそうとする生徒

▽身に付けた知識・技能等を生かし、根拠をもとに筋道立てて自分の考えを表現することができる生徒

▽新たな知識や技能を身に付けるために、これまで学んだことや実生活の事象と適切に関連付けて理解を深めようとする生徒

【研究の内容と方法】

▼「問題解決的な学習」の見通しと充実させるために指導方法の工夫

 提示する問題から学習課題を見いだすまでの段階における指導の工夫・改善、追究場面における教師の手立てについて研究を進める。各教科の指導では、「教科の本質」に向かう授業を構築する。

 加えて、①課題を見いだすためのきっかけとなる導入場面における「問題」の位置付けの工夫②自らが課題を自己決定し、自分なりの考えをもとに解決するために指導過程の工夫―の二点を焦点化した。

 ①では、生徒自ら課題を見いだし解決に向けて追究意欲を喚起できるよう導入場面を工夫する。「自分なりに課題を見いだすこと」「解決すべき課題を的確に把握すること」を重視。本時の課題設定する段階までの導入場面の工夫・改善の試みとして、全教科において「問題(問い)」を提示することから授業を構成することにした。

 ②については、指導過程の各段階に着目。自らの課題をより良く解決したり、高次な問題の解決に向けて、「教師の意図」に基づいた指導上の手立てのもと、追究意欲を高めたりしていく工夫をとることを重視した。

 研究では、展開部を二つの段階に分け、必要に応じてこれらの段階を行き来しながら、基本的な知識や技能を身に付けさせるだけでなく、発展・応用した学習に主体的に取り組めるよう指導の在り方を工夫した。

▼学ぶ意味理解を促し確かな学力を高めるための指導計画の工夫

 研究を進めるに当たって、問題解決的な学習にとどまることなく、新たな指導の切り口として「単元づくりの工夫」「読解力の育成」「道徳教育の推進」「生徒指導の機能」等の視点から、本時の学習にかかわる段階設定の工夫や指導計画の工夫を試みた。

 そこで、各教科の指導において、教科の本質に向かって、知識や技能を高めていくだけでなく、学校教育全体を通じて学力形成に向かっていけるよう、つぎの研究方法を講じた。

▽読解力の視点に着目し、単元の扉づくりを見直した授業構想と指導計画の工夫

 事象や内容を適切にとらえて課題を解決していくために、「読解力」を育成するプロセスに着目して、主体的に学習に取り組む態度や個性を伸ばし、育むことをねらいとしている。

 さらには、単元や題材の指導計画の工夫・改善に努め、単元や題材のスタートの在り方について、各教科から具体的な手立てを明らかにすることを考えている。

▽道徳の推進や生徒指導の機能等を生かすことを視点とした指導過程の工夫

 人間形成の視点から授業の在り方を見直し、道徳的価値に基づいた生徒の心情の育みや発達段階を考慮した生徒指導の機能等を生かした授業づくりを工夫する。ここでは、生徒理解を深め、生徒が自主的に判断・行動し、学習の中で積極的に事故を生かしていくことができるようにしていく。

【二年次研究について】

▼研究副主題=意味理解を促し各教科の本質に迫る単元の扉づくり

▼二年次研究の主たる内容

 学問の成り立ちに目を向け、日常や事象を解き明かすために生まれた学びそのものを追究することとした。日常と学問が最も接続しているのは、単元の冒頭である。この冒頭の時間を「単元の扉」と位置付け、各教科において、単元の学びを貫く学習課題に対して、一人ひとりに自覚をうながす場とした。

▽単元の扉

 各単元と題材の学習に対する見通しをもたせるとともに、各単元および題材の学びの意味や学ぶ意義について理解を深め、意欲や関心を引き出す最初の授業。

▼事象や内容から情報を取り出すための教師の手立て

▽国語

・問題解決に向けた豊かなイメージをもたせられるよう、問題を精選する

・提示された問題から学習課題を発掘するための働きかけを工夫する

▽数学

・決定問題のタイプで問題を提示する

・問題の提示方法として外的工夫と内的工夫を行う

・直観的な予想と論理的な予想を取り入れる

▽社会

・単元を貫く課題に結びつく社会的事象を提示する

・資料から読み取った内容と社会的事象を関連付けさせる

・生徒の予想の根拠となったり、異なる傾向を示したりする資料を提示する

▽理科

・単元を貫く課題に結び付く科学的事象を提示する

・学習と日常を結ぶ問題設定を工夫する

・単元の目標に迫るためのヒントとなるような実験、観察を工夫して実施する

▽英語

・内容についての背景知識を活性化する

・手がかりとなる語句や表現をヒントとして与える

・事前に内容を尋ねる質問をしたり、設問の仕方を工夫したりする

▽体育

・技能のポイントを意識した模範演技を示す

・ICTを利用して自分の働きを分析させる

▽美術

・良さや美しさの価値が表現に結び付く観賞場面を設定する

・表現に必要な技能を体験的な学習で習得させる

・生徒の思考過程や表現の活動から生まれた疑問や新たな価値を取り上げる

▽技術

・同じ材料から制作した二つの作品の違いを比較させ、その意図を予想させる

・教師の構想図を見本として読み取る練習をさせる

▽家庭

・題材の課題に結び付く生活とかかわりの深い事例を提示する

・学習と生活を結び、生活を振り返る問題設定を行う

▼単元の学習の確かな見通しをもたせるために

 課題の解決段階において、「思考活動した結果をどのように表出するのか」「他者にどのように発信すれば良いのか」に着目しながら、授業後半から終盤にかけての学習活動の活性化を意図した研究を行った。

 特に、単元の学習の確かな見通しをもたせるため、単元のスタートとなる「扉の役割」を各教科で明らかにすることとした。

 つぎに、一斉指導における「学びの共有」の強化を重視した。具体的には、集団での思考・解決の場面における教師の役割を確かなものとすることである。

▽学びを共有するための教師側の方策

・国語=双方向的な言語活動を意図的に仕掛ける

・数学=集団思考の場面におけるやりとりを通じて、数学的活動を充実させ、課題解決をうながしていく

・社会=地図や新聞記事、統計資料などから読み取れることを根拠に、意見の発信や交流をする

・理科=日常の事象、体験、既有の知識や科学的な概念を根拠とし、観察、実験の結果を分析し表出させる

・英語=聞いたり読んだりしたことについて、個人や集団でコミュニケーションを図りながら、自らの考えを話したり書いたりする活動を単元に位置付ける

・体育=技能にかかわる課題の解決の様子を、助け合ったり教え合ったりして評価させる

・美術=鑑賞や体験的な学習を通して、感じ取った良さや美しさを発表したり、話し合ったり、記述したりする活動を充実させ、必要な価値を内面に深化させる

・技術=作品の工夫展や技術の評価結果を交流し、問題を解決させる

・家庭=自分の考えや調べた結果を交流し、家庭や社会とのかかわりをもとにして問題を解決させる

▼単元の扉づくりを通じて、アクティブな単元学習へ

 単元の扉でおさえたい内容と方法として、単元を学ぶ意義を理解するとともに、単元への興味や関心を引き出すこと、単元の概要把握などを定めた。

 また、単元や題材を指導する上で重視すべき事項として、学習指導要領で求められている教科の本質や役割や、学習の系列(既習内容)や領域とのかかわり、単元や題材を学ぶ意味や必要性に迫れる単元(題材)指導計画に留意した。

 教師が各教科で具体的な手立てを講ずることで、学んだことをもとにしながら思考力・判断力・表現力を伸ばし、目標達成に向けて積極的に学習に向き合っていく生徒を育成するよう努めていくことにした。

▽各教科における単元の扉づくりの具体的な改善と修正の視点

・国語=単元の一時間目で、単元を貫く言語活動を題材として扱うことで、本単元を学ぶ意味をつかませる

・社会=新聞記事や投稿文などを活用することで、単元の学習内容と具体的な社会的事象をつなげる。単元全体を通じた課題などを提示することで、単元の学習への見通しをもたせる

・数学=具体的な事象にかかわる問題や、単元の配列を変えて問題を提示することで、単元を学ぶ意味、単元の全体像をつかませる

・理科=単元を貫く目標に迫る課題を提示することで、本単元の学習に見通しをもたせる。日常生活との結び付きを実感できる問題、および観察、実験を配置することで、単元の学習に対する有用感をもたせる

・体育=ICTの活用や模範演技などを通じて、単元の目標や目指す姿をとらえやすくする。既習事項と新たな学習との関連を図ることで、運動技能にかかわる自己の課題を明確にさせる

・美術=全体で鑑賞教材を用いることで、題材で育みたい価値を培う。また、素材や技法の体験的な学習を取り入れるとともに、グループ活動などで多様な価値から、生徒の疑問や意欲を引き出す段階設定を行う

・技術=社会で流通している製品や過去の生徒の作品を比較、評価する活動を題材の最初に設定し、生徒の「良い作品」と考えている概念を覆すように意図的に授業を構成する

・家庭=自分の生活を振り返り課題を明らかにするために、実物や写真を比較したり、評価したりする活動を取り入れる。課題に対して、評価する視点をいくつか与えることで、題材への見通しをもたせる

・英語=既習事項を活用させる即興的な表現活動をメーンの課題とする。本物の教材や現実のデータを取り入れる。CAN―DO形式で最後の課題を提示する

【本次研究の成果と課題および今後の研究の方向性】

▼二年次研究の成果と課題

▽研究の成果

・単元の扉づくりに焦点を当てた研究を通じて、単元で身に付けるべき資質や能力が明らかとなったことは、教師と生徒の双方にとって学習を進める上で効果的だった

・問題解決的な学習の段階の中に、思考する場面を適時取り入れることで、生徒の主体的な活動が明らかとなり、課題の把握や追究意欲の喚起に良い影響を与えていたこと

・自分が知らないことや単元の課題を追究するために知りたい知識に気づくことができ、既習事項を生かして考えようとする態度が高まった

・他者からの視点を取り入れ評価されることによって、より良くつくりあげようとする意識や目標をもって自ら高めようとする姿があった

・これまでの学びでの知識や技能を活用し、提示された事象を理解しながら自分で考え表現する生徒の姿がみられた

・思いつきではなく、既習内容との関連をもとにしながら、筋道立てて考え表現しようとすることの大切さを理解している生徒が増加した

・日常生活や社会と学習内容を教師が上手に結び付けることで、もっと知りたい、もっと考えたいと追究する姿勢が高まった

・生徒だけでなく教師側も日常生活との関連性への意識がより高まり、この相乗効果で、学習の場面に日常が色濃く映し出され、学習に対する有用感を高めることができた

▽研究の課題

・教科の特性を考慮しながら、意味理解が一層深まったり、追究意欲がより喚起されたりするような単元の扉の在り方を模索すること

・生徒がもつ資質や能力をさらに表出させるために、各教科の本質に迫る活動を具体化して提案していくこと

・既知の経験を生徒自身が活用できる状態にするための手立ての工夫が、さらに必要

・十分な知識や技能が身に付いていない生徒への対応や、適切に助言するなどの机間指導の在り方を充実させる必要がある

・自分の考えを表現することに苦手意識がある。知識の不足から自信のなさを引き起こしているように感じられる

・自らの立てた根拠が、他者に適切に伝わるものであるかどうかの検証場面を適切に設定する必要がある

・「学習への意欲」と「理解を深めること」との相互作用について、今一度検証する必要がある

・三年間での成長をみると、単元や題材ごとの結び付きやそれぞれの成長に即した段階的な単元・題材の設定が一層必要である

▼今後の研究の方向性

 最終年次となる次年度研究においては、新たな視点の切り口として、教科のみならず生徒の学習全体を通じて確かな学力の育みや、生きる力への助長を目指した指導の工夫・改善を図っていくことをねらいとする。その例として、一つは道徳の推進が挙げられる。これは、各教科の解決過程に道徳的な視点を盛り込むことで、課題解決への方向性を高めることを意図している。

 つぎに、教科教育の役割を再確認し、教科の本質への学びを育むための学びの在り方を明らかにし、生徒の学習を大きな枠組みからとらえ、教科指導の中に生かしていくことを目指した研究を推進していく。

(学校 2015-08-25付)

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