4種校長会28年新春インタビュー④北海道特別支援学校長会会長・五十嵐利裕氏 ミドルリーダーを育成 活動活性化目指し組織改編
(関係団体 2016-01-18付)

校長会インタビュー五十嵐利裕
北海道特別支援学校長会・五十嵐利裕会長

 ―校長会として、新年の展望をお聞かせ下さい。

 昨年夏のインタビューでは、共生社会の形成に向けてということで、障害者権利条約に基づくインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の着実な推進や、本年四月に施行される「障害者差別解消法」についてふれ、これらは、学校教育だけではなく、社会全体での取組であるという話をさせていただきました。

 特に、合理的配慮については、新しい概念であり個への配慮であることから、今後、実際的場面を通して考え方を整理し、適切に取り組まなければならないと考えています。

 国の動きをみると、昨年十一月に「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」が告示され、事業者が適切に対応するための指針が定められました。また、内閣府のホームページには、十二月に「合理的配慮等具体例データベース(合理的配慮サーチ)」が開設され、障がい別、生活場面別に該当する事例を検索できるようになっています。

 特別支援学校は、障がいのある幼児児童生徒の教育に当たる専門機関として、これらの動向を的確に把握し、その有する専門性を教育だけではなく、広く社会に還元する役割があることから、家庭とともに、教育、福祉、医療、労働等との一層の連携が必要であると考えています。

 道特長会では、ことし二月に道特別支援教育関係PTA連絡協議会の役員の方々と、この「合理的配慮」について、協議の場を設ける予定です。

 さて、あらためて特別支援教育にかかる国の動向について、気になるところをいくつか挙げたいと思います。

 昨年八月、中央教育審議会教育課程企画特別部会から論点整理が報告されました。この中で、特別支援教育に関しては、すべての学校や学級に、発達障がいを含めた障がいのある子どもたちが在籍する可能性があるとしています。

 特別な教育的支援を必要とする子どもたちに、連続性のある「多様な学びの場」で十分な学びを確保するために、幼稚園、小学校、中学校、高校、特別支援学校等の教育課程の円滑な接続が重要です。

 そのための連携ツールとして、「個別の教育支援計画」の重要性をあらためて認識し、すべての学校種、すべての必要な子どもに作成されるような取組が必要だと思います。

 十月に中教審教員養成部会から報告された「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」(答申案)では、特別支援教育の推進など近年の教育改革の方向に合わせた教職課程の改善を図ることが重要であるとしています。

 文科省が平成二十四年度に行った調査によれば、発達障がいの可能性のある児童生徒の在籍率は六・五%です。加えて特別支援学校、特別支援学級、通級による指導を合わせると三・三三%で、特別支援教育が対象とすべき児童生徒は約一〇%となります。対象の子どもの量的拡大を踏まえ、特別支援教育の基礎・基本は、すべての教員が備えておくべき中身だと考えています。

 また、同答申案では「改革の具体的な方向性」として、三十二年度という目途を示し、「当分の間、特別支援学校教諭免許状を保有しなくても特別支援学校教員となることができる」という免許法附則第一六項の廃止を打ち出しました。趣旨としては大きく評価できるものですが、特別支援教育の専門性とともに、特別支援学校の現状として教科の専門性を維持する上での教科バランスに課題があることから、採用・研修、人事異動において、教育委員会における対応が必要です。

 事務職員については、昨年十二月に中教審「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」から報告された答申案で、事務体制の強化として学校の事務を効率化し、事務職員が副校長・教頭等の補佐を行うことによって、副校長・教頭等が人材育成や専門スタッフの調整等の業務に、より注力できるようにしていくことが重要としています。

 教育行政として、事務職員がより学校運営にかかわることに異論はありませんが、現場である特別支援学校には職員数が百人、百五十人を超す大規模校もあり、ほかの学校種にはない業務も多々あることから、事務職員の資質向上の取組とともに、定数改善を期待するところです。

 ―道内の特別支援学校の展望について伺います。

 二十七年度の本道の国公立を合わせた特別支援学校は、視覚障がい教育校が四校、聴覚障がい教育校が七校、知的障がい教育校が四十三校で、うち、二十校は高等部単置校、肢体不自由教育校が十校、病弱教育校が四校の計六十五校で、このうちの三校は複数障がいに対応しています。新年度は、新たに高等部単置校三校、義務校一校の知的障がい教育校が開校します。

 まず、視覚障がい教育についてですが、昨年四月に札幌盲学校と高等盲学校を移転、統合し、札幌市中央区の旧有朋高校跡に札幌視覚支援学校が開校しました。幼稚部から小・中・高等部普通科・高等部専攻科および附属理療研修センターを設置する、他都府県に類のない視覚特別支援学校となりました。本道における視覚障がい教育の拠点校として、創立百二十一年目の函館盲学校、創立九十四年目の旭川盲学校、創立七十九年目の帯広盲学校とともに、弱視特別支援学級や通級指導教室との連携を一層深めながら、目の不自由な子どもたちの教育の専門性向上に努めることとしています。

 つぎに、聴覚障がい教育についてですが、全道六校の聾学校と教育部門が設置されている一校を合わせ七校で行われています。各校の在籍数は、現状維持か若干減少する見込みですが、幼児児童生徒の社会自立を見据え、従来より学力向上に重点を置いて取り組んでいます。

 また、多様なコミュニケーション手段を活用した聴覚障がい教育の専門性や教科指導にかかわる研修、増加する人工内耳装用児や重複障がいに対応した効果的な指導、乳幼児療育事業をはじめとする早期教育、教育相談・支援、キャリア教育等の充実にも引き続き取り組んでいきます。

 つぎに、知的障がい教育ですが、いわゆる障がい程度の「重い、軽い」の解消に伴って、高等部入学者選考検査の在り方が変わることから、各校では、教育課程の改訂に向け、検討および作業を進めています。生徒個々の学びの内容や学びの仕方に対応するため、高等部単置校のみならず、義務校においても検討を進めているところです。

 次期学習指導要領における特別支援教育の方向性は二十八年度中に示されるとのことですが、それも視野に入れていく必要があります。一方、ことし四月に道央圏に新設される高等支援学校に新しく「普通科Ⅰ」が開設となり、今後の学科展開が注目されています。

 つぎに、肢体不自由教育ですが、昨年も、夏季休業中に肢体不自由教育に関する専門性向上セミナーと、十一月末の課業日に北海道肢体不自由教育研究会「北肢研」を開催しました。特に、昨年の北肢研では、各校の研究部・教務部の担当者らが自校の研究内容や教育課程改善に向けた取組についてポスター発表をすることで情報交換するなど、自らの専門性を高める場を設定しました。今後も、これらの研究会を肢体不自由教育を支える大切な研究会と位置付け、さらに充実した研究会となるよう継続していきたいと考えています。

 つぎに、病弱教育ですが、近年、慢性疾患の医療が進展し、長期の入院児童生徒が激減しています。それに代わって、心身症、神経症や小児がんの児童生徒の教育が病弱教育の中心となってきています。病弱特別支援学校は、病院に併設している学校であり、これまでも小児科等の様々な状況に対応してきているところですが、ここに来て、特別支援学校の在り方が見直される状況にあります。

 病弱教育は、病気療養児の教育であり、この先も教育を必要としている児童生徒が現存しています。病弱教育の火を消すことなく、今後の広がりが予想される小・中学校での対応にも、市町村教委との一層の連携のもとに、病弱特別支援学校が培ってきた専門性の発揮に努めたいと考えています。

 ―新年度の重点をお聞かせ下さい。

 道特長会では、定年退職による大幅な交代期を迎え、支部活動の活性化と多様な課題に対する迅速な対応、研究・研修の集約化を図ることなどを目的として、組織を改編しました。二十七年度は移行期とし、新年度から本格実施とします。

 また、道教委に施策提言しました「ミドルリーダー、管理職等の育成に向けた計画的、継続的な取組」については、道特長会としても力を入れています。複数の支部において、各学校の教務主任などミドルリーダー層を対象とした教育課程セミナーを開催し、ことし一月の石狩支部におけるセミナーでは、昨年を上回る六十人以上の参加者が予定されています。

 ―最後に一言。

 道特長会では、昨年十二月に特別支援学校副校長・教頭会、公立学校事務長会とともに、道教委と文教施策に関する施策懇談会をもちました。現状と課題解決に向けた方策を共有する有意義な懇談でした。

 私たちは現場を預かる者として、学校の現状等を的確に発信し、本道における「特別支援教育に関する基本方針」の具体的な施策の実現に向け、道教委と一丸となって取組を進めていきたいと考えています。

 ―ありがとうございました。

(いがらし としひろ)

 昭和54年道教育大旭川分校卒。平成21年小樽高等支援学校長、24年道教委教育指導監を経て、26年から星置養護学校長。

 昭和31年4月19日生まれ、59歳。当麻町出身。

(関係団体 2016-01-18付)

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