4種校長会28年新春インタビュー③北海道高等学校長協会会長・富田敏明氏 研究・研修を最重点に 課題解決に向け協働性発揮
(関係団体 2016-01-15付)

4種校長会インタ富田敏明
北海道高等学校長協会・富田敏明会長

 ―校長協会としての新年展望についてお聞かせ下さい。

 昨年末、本校において、「グローバルリーダーとは何か~新渡戸稲造〝武士道〟に学ぶ」という読書会がありました。北大文学部・ゆはず和順(ゆはず・かずより、「ゆはず」は弓偏に巾)教授を講師とする読書会ですが、その中で、新渡戸稲造が『武士道』を執筆した目的は何かというワークショップを行いました。読書会の最後に、『武士道』から学ぶグローバル・リーダーとして、①外国語の運用能力の習得に励むとともに、文化的背景の異なる人々と積極的に意思疎通を図ること②文化的背景を異にする人々に対して、日本の文化・歴史、日本人の精神を分かりやすく説明できる知識を身に付けること③「ノブレス・オブリージュ」を自ら意識するとともに、文化的背景を異にする人々との間で合意形成できるような資質を磨くこと―の三点が確認されました。

 急速に進行するグローバル化の中で、私たちが直面する課題に関して、百年以上前に真摯に考え、英語で発信した姿にあらためて感銘を受けます。と同時に、古典のもつ力を再確認する機会でもありました。

 新年に当たり、校長協会としても、国内はもとより、国際的な教育の動向も見据えながら研究・研修を進めていく時代が来ていることを、あらためて実感しているところです。

 教育改革にかかわり、現在、検討が進められているのは、高大接続システム改革会議における高校教育・大学教育・大学入学者選抜の一体的改革、中央教育審議会教育課程企画特別部会における学習指導要領改訂、中教審教員養成部会における教員の資質能力向上にかかわる検討、そして、中教審「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」における検討などです。

 このうち、高大接続にかかわっては、仮称である大学入学希望者学力評価テストについて、昨年末に英数国の問題イメージが公表されたものの、たたき台の段階であり、テストの全体像は明らかではありません。一番の主役である生徒が安心して、かつ、明確な目標をもって日々の学習に取り組むことができるよう、詳細な内容が早い時期に示されることを願うものです。

 大学入試センターの荒井克弘名誉教授は、この点について、「学力の高い、早熟な生徒は抽象的な教育目標や試験の形式の変更にもあまり惑わされず、柔軟に対応していけるだろう。だが、ボリュームゾーンである学力中下位層はそれほど器用ではない」という懸念を表明しています。生徒の混乱と動揺を避けること、そして、学力の二極分化がさらに進むような結果にならないことを保証しなければなりません。

 学習指導要領については、平成二十八年度中に中教審答申が公表され、高校については二十九年度中に告示、三十四年度から年次進行で実施される予定です。各学校では、教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づき、どのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかというカリキュラム・マネジメントの確立が求められています。カリキュラム・マネジメントとアクティブ・ラーニングは、授業改善をはじめ組織運営の改善など学校の全体的な改善への働きかけとして、車の両輪と位置付け、相互の連動を図り、機能させることが大切であり、このことは、現行の学習指導要領においても、しっかり取り組んでいかなければならないものと考えているところです。

◆長期継続できる社会貢献着手

 ―校長協会の抱える課題と対策について伺います。

 昨年四月の教育委員会制度改正によって、すべての地方公共団体に「総合教育会議」が設置されることとなりましたが、道におきましても、昨年十月に総合教育会議を受けて、知事によって「北海道総合教育大綱」が策定されました。大綱では、本道教育の基本方針と、二十三の施策項目から成る各分野における取組方針が示されました。

 現在、本協会では、新たな大綱を受けて、来年度以降の活動方針にどのように反映させるか検討中ですが、「北海道の未来を担う人を育む高等学校教育の創造」という本年度の活動方針は、大綱の目指す方向性と軌を一にするものと判断しているところです。

 大綱の施策項目2の「確かな学力を育む教育の推進」におきましては、「高校における学校ごと・学科ごとの目標を一層明確にし、創意工夫を生かした教育課程の編成・実施を通して、各学校における特色ある教育活動を推進」するという取組方針が示されています。先ほど言及したカリキュラム・マネジメントの確立と深いかかわりのある施策項目であり、今後、各学校においては、育成すべき資質・能力を踏まえた教育課程の構造化が一層求められており、校長協会においても、研究・研修の深化を図っていかなければならないと考えております。

 また、学校の管理職の後継者をどのように確保するのかも重い課題です。高校の教員は、基本的に自分の担当教科が好きで、自分が好きなことと職業が結び付く幸せな職業です。何年もかけて身に付けてきた教科指導力、生徒指導力を発揮して、生徒の成長にかかわることができる、管理職適齢期にはそういう先生が多いわけです。そういう生きがい、働きがいを全部ではないにしても捨てて飛び込むほど、管理職は魅力のある仕事なのか。そのことを校長である私たちが伝え切れていない反省はあります。

 しかし、学校が取り組むべき課題は複雑化・多様化し、管理職の責任の増大と業務の困難度が増している中、なかなか精神論のみでは説得できない状況もあります。文教施策要望では、管理職の待遇改善を継続して要望してきていますが、今後も、後継者育成に向けて、総合的な見地から対策を講ずる必要があると思います。

 ―新年度の重点的取組についてお聞かせ下さい。

 校長協会の最重点事項は常に研究・研修の充実です。本年度も、調査研究部の校長先生方の努力によって、『研究報告書第四十四号』が完成しました。調査研究においては、継続性を意識しつつも常に新たな視点で、課題発見、課題発掘に努めています。そして、正解のない問いに対して、校長同士が議論し合い、最終的に提言型の研究成果につなげてきています。今回の研修成果を学校経営の充実に活用したいと考えています。

 学習指導要領の改訂、三位一体改革を目指す高大接続などの流れの中で、高校における授業改善は、新年も大きなテーマになります。アクティブ・ラーニングの意義や導入の理由等の議論はすでに終えて、具体的に生徒の学習意欲、学びの深化に結びつけるための授業研究や、授業改善を学校全体のものとするための組織づくりの在り方など、取り組むべきテーマが多くあります。

 また、地方公務員法改正に伴う学校職員制度見直しも、学校にとっての重要課題です。新制度の方向性である、学校教育目標の達成に向けた協働促進の観点、意欲や資質能力の向上促進の観点等を、実際の人事評価の中でどう生かしていくか。知恵を出し合っていくべきテーマです。

 人と人とのつながりには集団の同質性を高める「結束型」と異なるグループをつなげる「橋渡し型」があるそうです。同質性を高める結束型から一歩進んで、異なる意見、文化などをもった人や集団がどうつながっていくか、つまり、協働的学習が生徒集団にも、教職員集団にも求められると考えています。

 つぎに、本年度から新たな取組として、「道高校長協会社会貢献プロジェクト」を企画・実施しました。

 理念としては、社会貢献という志を高く掲げつつ、個人の負担を軽くするとともに、いい意味で遊び心も加え、長期的に継続できる取組を目指しています。日本には、寄付文化がないとよく言われます。大震災などの自然災害のときは一時的に寄付額が増えても、一過性で長く続かないという指摘です。校長協会のこのささやかな取組が、日本の寄付文化の定着に、いくばくかでも貢献するという大げさな願いをことしの初夢としました。

 会長を拝命したこの二年間は、「協会運営に当たっての基本的な考え方として、研究・研修の充実は本協会の中核であり生命線であるということ」。そして、「会員相互の自由闊達な議論によって、課題の解決方策を見いだすことが、歴代の校長先生方が守り育ててきた本協会の伝統であり強みでもあるということ」を、ことあるごとに、申し上げてきたような気がします。「議論なくして活力なし」「納得なくして意欲なし」というのは、私たちが預かる学校にも当てはまることですが、本協会においても、お互いに意見やアイデアを出し合い、課題解決に向けて協働性を発揮することが大切だと考えています。

 ―ありがとうございました。

(とみた・としあき)

 昭和53年北海道大卒。平成13年空知教育局高校班主査、15年岩見沢西高教頭、17年新しい高校づくり推進室主幹、19年紋別高校長、21年静内高校長、23年恵庭北高校長を経て、25年から札幌南高校長。

 昭和31年3月9日生まれ、59歳。倶知安町出身。

(関係団体 2016-01-15付)

その他の記事( 関係団体)

北音教が冬季音楽実技講習会開く 楽しい授業の工夫学ぶ 子の感性、歌う心を大切に

北音教冬季音楽実技講習会開催  道音楽教育連盟(=北音教、会長・梶田邦昭札幌市立新琴似北中学校長)は七日から二日間、札幌市立二条小学校で冬季音楽実技講習会を開催した。全道から小・中学校の音楽教諭約百三十人が参加。小学校歌...

(2016-01-20)  全て読む

道公立小中事務職員協議会が冬季セミナー 担い手意識の向上図る 経験年数少ない会員対象に

公立小中事務職冬季セミナー  道公立小中学校事務職員協議会(常陸敏男会長)は八日、札幌市内のホテルユニオンで「二〇一五年度経験年数の少ない事務職員のための冬季セミナー」を開催。概ね採用五年未満の会員ら二十六人が参加し、...

(2016-01-20)  全て読む

教育展望札幌セミナー開く 活動の見直しと実践を アクティブ・ラーニングの視点で

教育展望セミナー  一般財団法人教育調査研究所(新井郁男理事長)は九日、ホテルポールスター札幌で第二十二回教育展望札幌セミナーを開いた=写真=。研究主題「これからの社会に求められる資質・能力~グローバル化社会...

(2016-01-19)  全て読む

釧路市小中校長会と教頭会が学校経営研 課題に対応できる管理職に 講演、分科会で力量高める

釧路市学校経営研究協議会  【釧路発】釧路市小中学校校長会(大場和典会長)と釧路市小中学校教頭会(千葉徹会長)は八日、釧路教育研究センターで第五十九回釧路市学校経営研究協議会を開催した。附属学校を含めた市内小・中学校...

(2016-01-19)  全て読む

4種校長会28年新春インタビュー④北海道特別支援学校長会会長・五十嵐利裕氏 ミドルリーダーを育成 活動活性化目指し組織改編

校長会インタビュー五十嵐利裕  ―校長会として、新年の展望をお聞かせ下さい。  昨年夏のインタビューでは、共生社会の形成に向けてということで、障害者権利条約に基づくインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の着...

(2016-01-18)  全て読む

札幌市学級経営研究会が冬の研修会 120人が講演通し研鑚 明治大・諸富教授招く

札幌学級経営研冬の研修会  札幌市学級経営研究会(藤島健志会長)は七日、札幌市教育文化会館で冬の研修会を開催した=写真=。約百二十人が参加。よりよい学級経営に向け、講演を通して研鑚を積んだ。  開会式では藤島会長が...

(2016-01-15)  全て読む

北理研が第10回冬季研究大会開く 向上心もつ新たな1年に 初のパネルディスカッションも

北理研冬季研究大会  道小学校理科研究会(=北理研、村上力成会長)は八日、札幌市立北野小学校で第十回冬季研究大会を開催した=写真=。札幌市内をはじめ、旭川、道南、釧路など各支部から約百四十人が参加。大会主題「科...

(2016-01-15)  全て読む

特選8人、奨励賞12人たたえる 第46回道教職員美術展表彰式

道教職員美術展表彰式  第四十六回道教職員美術展表彰式が九日、ホテルライフォート札幌で開かれた。千葉俊文公立学校共済組合北海道支部副支部長が受賞者に賞状を手渡し、「子どもたちが文化や芸術に親しむ機会を数多くつくり...

(2016-01-15)  全て読む

北専各連札幌支部新年研修会 役割をしっかり見据え 現職教員が危機管理学ぶ

北専各連札幌支部新年研修会  道私立専修学校各種学校連合会札幌支部は十二日、札幌ガーデンパレスで二十七年度現職教員新年研修会を開催した=写真=。専修学校・各種学校の設置者、校長や副校長・教頭、教職員など約百十人が参加。...

(2016-01-15)  全て読む

4種校長会長28年新春インタビュー②北海道小学校長会会長・小西俊之氏 学びの力を一人ひとりに 豊かな心の育成、一層の充実を

校長会インタ小西俊之  ―校長会としての新年展望についてお聞かせ下さい。  早いもので二十七年度も新たな年を迎え、本会の活動も二月の理事研修会などを残すばかりとなりました。本年度は、本会の歴史と伝統を受け継ぎ、...

(2016-01-14)  全て読む