道教育大学附属札幌小の28年度研究提言 「たい」を引き出す方法模索
(学校 2016-07-13付)

道教育大学附属札幌小の28年度研究提言

 道教育大学附属札幌小学校(戸田まり校長)の二十八年度教育研究大会(十二日付8面既報)の研究提言では、研究主任の中村珠世教諭が研究概要について発表した。概要はつぎのとおり。

▼研究主題「想創の学び」

 本校は「想創の学びを築く学校」という研究主題を掲げ、三年目になる。この数年、ビジネス書をはじめ多くの分野の書籍等で、社会の変化の速さや激しさに対する予測を見かけるようになった。

 働くということにおいては、言われたことをやるのではなく、自分で考え、新たなものや価値を創り出していくことがより強く求められるようになり、これからもますます加速していくことが予測される。

 このような変化の激しい社会で子どもたちがたくましく生きていくために、私たちは二つの〝ソウゾウリョク〟を育むことが大切と考えた。

 一つは、「様々な経験を通し、知識を用いて応用したり推測したりする中で新たなものを生み出す〝創造力〟」。もう一つは「自分のイメージを膨らませたり広げたりする〝想像力〟」だ。

 これらの〝ソウゾウリョク〟の育成を重視し、私たちは「想創の学びを築く学校」という研究主題を設定した。

▼研究副主題および仮説について

▽副主題設定の理由

 研究主題の解明に向け本年度は、「創造的態度・思考からのアプローチ」という副主題を設定した。これは、「想創の学び」の中の、つくり出す方の「創」をより高めるべく、創造力の育成に焦点を当てた研究を意味する。

 とはいえ、「新たなものを生み出していく力」という創造力は漠然としたもの。そこで、子どもの「創造力」を具体的にとらえ、確かに育んでいくための窓口として、「態度」と「思考」という具体性を伴った二つの側面に着目し、研究を進めることにした。

 まず、私たちは各教科の学びにおける「新たなもの」をつぎのように考えた。一つは、「学びの対象へ働きかけたり、友だちの考えと自分の考えを合わせたりすることで創られた“自分なりの見方や考え方”」。もう一つは、「学びはじめの状態と比べ、内容や質が変容した“新たな見方や考え方”」だ。

 そのような見方や考え方を創り出していく過程で「思考する」ことが大切なのは言うまでもない。思考は学びの羅針盤だ。

 自分の内にある知識や経験を総動員し、ときに他者の考えにふれ、ときに試行錯誤を繰り返しながら、自分の学びの方向を決めていく。また、思うようにいったときもそうでないときも、常に学びの結果に対して思考を働かせ、つぎの方向を決めていく。そこに「前に向かって踏み出していこうとする」態度をセットにしていく。子どもの心に火を点け、「~したい」「したくなる」という思いを引き出す。

 子どもがそのような思いに支えられ、自分から踏み出し、学び続けていこうとする態度を育んでいく。これは学ぶ上でのエネルギーとなる。

 今次研究ではこのような見方や考え方を創り出すことに向かう思考と態度を創造的思考および創造的態度とし、副主題を「創造的態度・思考からのアプローチ」と設定した。

 この中で創造的態度が思考の前に来ているのは、私たちが主体的な学びを大切にしているため。創造力とは、他者から与えられるものではなく、自分で考え、自分の手で、自分の感じ方で学びに向き合いながら育まれていく。

 自ら前に向かいたい、考えてみたいという「たい」をまず引き出す。このことを踏まえ、つぎの仮説を立てて研究を進めてきた。

▽創造的思考について 

 創造的思考と態度について詳しく説明する。まず明らかにしてきたのは創造的思考。私たちは、創造的思考を「問題の解決やよりよい価値に向かい、自分の見方や考え方を構築する思考」として定義した。「何とかこの問題を解決したい・はっきりさせたい」「どうにかして願いを実現したい」といった問題意識が生まれたとき、子どもは本気で自分ごととして学びに向かう。

 そして、「もし、これがなかったとしたらどうだろう」「違う条件にしてみたらはっきりするかもしれない」というような思考を働かせ、自分の見方や考え方を創っていく。そのように働く思考が創造的思考の基本的なおさえとなっている。

 国語を例に説明する。国語科では「クリティカルに言葉をとらえ、用いる力」を教科の学習で育む創造力として考えている。言葉を表面的にとらえて終わりにするのではなく、多面的に意味を吟味していく力と言い換えることができる。

 これは言葉を通して「分かる」ことを越え、言葉の価値を自ら見いだし用いていく、つまり言葉を「生きて働く」ものにしていくことが国語科で大切だと考えているため。このようなクリティカルに言葉をとらえようとするとき、国語科では「比較」「分類・整理」「関連付け」「推論」の四つの創造的思考が働くとしている。

 例えば五年生の「まんがを読もう」の学習では、「まんがの方法」と「鳥獣戯画を読む」という、二つのテキストを取り上げた。筆者の主張を合わせてとらえる中で自分の考えを創る読み方を創造的思考とし、学習を展開した。

 「まんがの方法」を読む中で、まんがには様々な表現方法、クールポイントがあることを確かめた子どもたちに、鳥獣戯画を提示した。一見、まんがとは思えないが、「鳥獣戯画を読む」というテキストでは「漫画の祖」「日本最古の漫画」と位置付けられていることに驚く。

 鳥獣戯画にどのようなクールポイントがあるのか、それを発信できるかどうか、子どもたちは二つのテキストにおけるクールポイントのとらえ方や筆者の主張を、比較したり関連付けたりして読みながら自分なりに結びつきを見いだしていった。そして、複数の視点からまんがやその面白さということに対して考えを創っていくことができた。

 このような創造的思考は、その教科性が色濃く表れるものもあれば、複数の教科で横断的に用いることのできるものもある。私たちは各教科・領域で育みたい創造力をもとに、それがどのような思考に表れるのかを考え、創造的思考を整理してきた。

▽創造的態度について

 つぎに創造的態度について説明する。私たちは創造的態度を「問題の解決やよりよい価値に向かい、見方や考え方を創り出そうとして一歩踏み出し、アプローチし続ける態度」と定義し、これを「創造的思考につながる『たい』」という言葉で表している。

 子どもが学びに向かうとき、その過程に入ろうとするはじめの一歩が必ず必要となる。また、そこに創造性を求めるほど常に順調とは限らず、困難を感じたり試行錯誤したりすることもしばしばだ。

 その中では対象や仲間に働きかけながら解決や達成を目指そうと、アプローチし続ける態度が求められる。そのような態度を授業の中で引き出しながら創造的思考を発揮させることが、見方や考え方を創り出す学びに必要だ。

 四年生の社会の学習「雪に負けない新千歳空港」の一コマについて。飛行機が一日に着陸する回数が夏は六分に一回であることを提示したあと、冬は何分に一回になるのかを予想させた。ほとんどの子どもたちは「冬は雪がふるから大変」という経験や知識をもとに、着陸回数は少なくなるはずだと予想した。

 しかし、夏も冬も同じ着陸回数であるという事実が子どもたちの心に火を点ける。「え?どうして?」と強く感じることにより、その理由と自分とをつなぐ接点が生まれ、「どういうことか調べたい」という「たい」が引き出された。

 このあと、子どもたちは資料を調べたり友達と考えを話したりして主体的に思考を働かせていった。

 創造的思考につながる「たい」とは、思考の対象と自分とをつなぐ接点ができるときの心の動きを指す。未知のことでも「知りたい」「こうしたい」という「たい」が引き出されることで子どもは本気に、そして真剣に思考を働かせる。

 そのような「たい」を引き出すため、私たちは二つの観点に基づいて手立てを考えている。

 一つ目の観点は「動機付け」である。創造的態度とは子どもの主体的な態度なので、子どもの内面から「~したい」という思いを引き出すことが大切だ。そこで、内面にある心の状態に気づかせたり、そのような状態を生んだりすることで子どもの心にプラス方向に向かう火を点け、「たい」を引き出すという動機付けを行う。

 私たちが引き出す「たい」とはあくまでも創造的思考につながるものなので、「思考したくなる」心の状態を子どもの認知面と関連させて考えると、つぎの五つに整理できることが明らかになった。

 例えば期待感。「こういうきれいさもいいな」「こうしたらもっとよい感じになりそうだ」というような、良さや価値への期待感を抱いたとき、「もっとこうしてみたい」という思いをもつことが多くある。授業の中でもそのような期待を感じている子どもたちに光を当てる。

 また、「何か足りないな」というような不足感が動き出すきっかけとなることもある。「こういうことができるようになりたい」と目標をもっているけれど、なかなかうまくできない。そのような時には「何とかしたい。どうやったらできるようになるかな」と必要な手立てを考え始める。

 このような子どもの心の内にある思いや心の状態に目を向け、そこに光を当てる。二つ目の観点は、どのように「たい」へ向けさせていくのかという意図に着目するもの。つまり手立ての意図を明らかにして用いることで、創造的思考へより効果的につなげたいと考えている。考えられるのはつぎの二つ。

 一つは子どもの意識に直接働きかけ、強く「たい」という思いを引き出す場合だ。教材や資料を提示したり、問いかけたり、反応を広げたりするなど、授業の中で直接子どもの意識へ働きかける手立てといえる。

 もう一つは子どもの意識を緩やかに方向付け、子どもが気づいたり、感じ取ったり考えたりする中で「たい」という思いを引き出す場合。例えば単元や題材の枠組み、環境構成など、授業の時間以外に行う教師の手立ても含めて考えている。

 動機付けと「たい」へ向かわせる意図、これら二つの観点を合わせて考えることで創造的思考につながる「たい」を引き出す手立てをより具体的に、明確に考えることができる。

 一年生の体育「ころがしドッジボール」の学習を例に紹介する。本単元では、「ねらった所にボールを転がすこと」と「ボールが転がってくるコースに入ること」、の二つの動き方を知り、攻め方をみつけていくことを目指す。

 しかし、分かったからといってすぐできるようになるとは限らない。また、できているようで実はできたつもり、ということもある。そのようなときにもう一歩踏み出し、どうすればできるのかを自ら考え工夫し続けようとする、創造的思考やそれにつながる「たい」を引き出したいと考えた。

 前時までボールの転がし方を工夫してきた子どもたちに対し、本時にボールをもっていない時にもコースへの入り方が大事であることに気づき、工夫しようとする姿を引き出すため、二つの手立てを行った。

 まず一つ目では、授業のはじめに前時のゲームでころころと後ろにボールが転がっている様子を映像で見せた。たくさん得点をしようと素早く転がすのを頑張っていたつもりが、実はあまり得点につながっていなかったことに気づく。

 子どもたちの意識と実態のズレに働きかけることで、「もっと得点するには後ろに転がるのをどうにかしなくちゃ!」という「たい」を引き出した。

 二つ目では、転がってくるコースに入る大切さに気づいた子どもたちに、キャッチゲームを行わせた。その中で、入ろうとしても思うようにコースに入れない不足感を動きながら実感させていくことで、子どもから「もっとできるようになりたい!練習したい!」という思いを引き出し、動きながら工夫を考え続けようとする「たい」を引き出していくことができた。

▼終わりに

 三年目を迎えた「想創の学び」。答えが前提にあるのだとしたら、そこに思考する必要性はない。誰かが常に教えてくれるとしたら、そこにも思考する必要性もない。

 答えや道筋は分からない。しかし、時には不確実であること自体を楽しみながら、自分にとっての答えを見いだそうと歩み続けるのが、子どもにとって本当の学びなのだと私たちは考える。それが、私たちの目指す「想創の学び」だ。

(学校 2016-07-13付)

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