4種校長会長インタビュー④道特別支援学校長会・五十嵐利裕氏 本道の新たな実践構築 専門性とセンター的機能を(関係団体 2016-07-22付)
道特別支援学校長会・五十嵐利裕会長
―本道の特別支援教育の歴史と課題
昨年度に引き続き、道特別支援学校長会会長の任をいただいた。本年度は、十九年に特殊教育から特別支援教育となり十年目を迎えた。先達が築いてきた特別支援教育の実践の歴史を受け継ぎ、道教委との連携を深め、特別支援教育にかかる本道の新たな実践を主体的に築いていくことが道特長会としての大きな役割と思っている。
本道の特別支援教育は、現在の函館盲学校、函館聾学校の前身が明治の時代に設立されてから百二十年を超える歴史をもっている。本会が設立された昭和三十八年は、道内の特別支援学校は公立、私立合わせて十七校という状況だった。それが特別支援教育元年ともいわれる平成十九年には、視覚障がい校五校、聴覚障がい校八校、知的障がい校三十六校、肢体不自由校十校、病弱校三校の計六十二校に増加した。その後も増えて本年度は計六十九校となっており、そのうち三校は複数障がいに対応している。
広域の北海道で、道教委は、身近な地域で専門的な教育を受けられるように条件整備に取り組んでいる。道特長会では、特別支援学校配置の在り方など本道の特別支援教育に関する基本方針について協議を深め、道教委に対して積極的に意見を具申するとともに、障がいの重複化・多様化への対応など社会の期待に応える専門性の維持向上とセンター的機能の発揮が重要な課題と認識している。
―国の特別支援教育をめぐる動向
特別支援教育は、国の障害者施策と密接にかかわりながら進められている。大きくみると、二十六年一月の障害者権利条約の批准に至る一連の取組である。その取組の中に、ことし四月に施行された障害者差別解消法もあり、新聞等のメディアでも差別的取扱いや合理的配慮の不提供についての話題を目にすることが増えたと思う。
教育面では、二十四年に中教審初等中等教育分科会から報告された「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」で、障害者権利条約に基づくインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の着実な推進、就学相談・就学先決定の在り方、合理的配慮と基礎的環境整備、多様な学びの場の整備と学校間連携などが示され、これが現在取り組まれている様々な施策の根拠となっている。
文部科学省がことし四月に公表した「次世代の学校指導体制の在り方について」中間まとめでは、次世代の学校像の一つとして、「特別な配慮を必要とする子どもたちの自立と社会参加を目指し、多様な子どもたち一人ひとりの状況に応じ、それぞれがもつ能力を最大限に伸長」が示され、通級指導担当教員の充実、特別支援教育コーディネーターの定数拡充などが「具体的な課題への対応」として挙げられている。
文科省では、高校における通級による指導の三十年度運用開始を目指し、パブリックコメントを実施するなど取組を進めている。また、教育再生実行会議第九次提言では発達障がいなど障がいのある子どもたちへの教育が取り上げられ、特別支援教育コーディネーターの専任化について述べられており、定数配置が進むよう着目している。
―本道の特別支援教育をめぐる動向
二十年度からおおむね十年間の基本的な考え方と施策の方向性を示した「特別支援教育に関する基本方針」が終盤となり、次期改訂に向けた取組が始まっている。道特長会としても検証・評価を行い、道教委に対し、学校現場としての意見をしっかりと伝え、本道の特別支援教育の一層の充実に努めたい。
そこで、障がい種別の現状や課題について要点を絞って紹介する。
視覚障がい教育では、昨年開校した札幌視覚支援学校が視覚障がい教育の拠点となり、函館・旭川・帯広の各盲学校との密接な連携のもと、小・中学校等に在籍する視覚障がいや見え方に不自由を感じている幼児児童生徒に対する教育的支援をしている。
また、八月二十三~二十五日、はまなす国体記念石狩市スポーツ広場ソフトボール場において、「第三十一回全国盲学校野球(グランドソフトボール)大会北海道大会」を開催する。全国各地区で予選会を勝ち抜いてきた盲学校の選手たちが感動と勇気あふれる熱いプレーを行う。
聴覚障がい教育では、各校において、学習形態や指導内容を工夫・充実し、従来から学力の向上に重点を置いて取り組んでいる。また、手話活用能力や聴覚障がい教育の専門性向上、増加する人工内耳や重複障がい幼児児童生徒への効果的な指導等、多様な教育的ニーズへの対応を行っている。また、乳幼児療育事業をはじめとする教育相談・支援、進学・就職指導を含めたキャリア教育等の充実にも引き続き、力を入れている。
知的障がい教育では、これまでの「比較的軽い・比較的重い」学科が二十九年度から解消され、「学ぶ内容・学び方」で学科を選択する入選に切り替わる。このため、高等部を擁する学校では、昨年度から教育課程の改善に取り組んできた。本年度は、新設の札幌あいの里高等支援学校に「普通科Ⅰ」が開設されている。今後の後期中等教育の在り方等について、校長会として道教委と連携、協議しながら進めていきたいと考えている。
肢体不自由教育では、北海道肢体不自由教育専門性向上セミナーを通じてICTの効果的な活用や教材・教具の工夫等、教員の実践的指導力の向上と授業改善の取組を推進している。また、知的障がいを併せ有する児童生徒の場合や自立活動を主として指導する場合の教育課程における各教科等の目標や内容とのつながりや、L字型学習構造を踏まえた授業づくりの視覚化、主権者教育への対応など、教育課程の一層の改善・充実が求められており、道肢体不自由教育研究協議会を通じて実践研究に努めている。
病弱教育では、小児慢性特定疾病事業対策として、慢性疾患のある子どもの自立支援を進めるための教育的支援が学校に期待されている。また、国立八雲病院の移転に伴い、道内の病弱教育校の再編が必要となっているが、学校が変わるということだけではなく、病院の在り方によって、学校に通う児童生徒の状態像が変わることも課題として挙げられている。さらに、病気で入院する高校生への対応に関して、通級や遠隔教育、単位認定の在り方が検討されている。
―適切な学校経営
学校は様々な危機管理が必要であるが、特に、幼児児童生徒の人権尊重について、あらためて意識を高めたい。ことしの二月に道特長会として緊急アピールを発信したが、春の総会で、再度、このことについて確認を行った。すべての学校で、「人権尊重は特別支援教育の生命線」という認識のもと、信頼される安全・安心の学校経営に当たる決意である。
また、新たに始まった道立学校職員人事評価制度、そして、教職員のメンタルヘルスや時間外勤務の縮減など、校長としての適切な判断が求められる課題が山積している。
そのような中で、特別支援学校の校長はこれからの三年間で半数以上が定年退職するなど、管理職の大幅な交代期を迎えている。管理職の後継、そして、学校の活性化のために、複数の支部で、「教育課程セミナー」を開催するなど、ミドルリーダーの育成に本年度も取り組んでいく。
―最後に
次期学習指導要領の改訂に向けた動きをみると、五月三十日の中教審初等中等教育分科会教育課程部会特別支援教育部会で議論の取りまとめ(案)が示された。詳しく紹介はできないが、「2.幼稚園、小学校、中学校及び高等学校における特別支援教育」「3.特別支援学校」「4.幼稚園、小学校、中学校及び高等学校と特別支援学校との連続性」と続く構成となっており、この趣旨をかんがみ、特別支援学校として各校種との連携を一層深め、障がいのある幼児児童生徒の教育をさらに充実していきたい。
(いがらし・としひろ)
昭和54年道教育大旭川分校卒業。平成21年小樽高等支援学校長、24年教育指導監を経て、26年星置養護学校長。
昭和31年4月19日生まれ、60歳。当麻町出身。
(関係団体 2016-07-22付)
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