道教委の29年度教育行政執行方針(道・道教委 2017-02-27付)
二十四日の一定道議会本会議で、道教委の柴田達夫教育長が説明した二十九年度教育行政執行方針の概要はつぎのとおり。
【はじめに】
来る二十九年度には、本道が「北海道」と命名されてから百五十年となる節目を迎える。このことを機に、道民一人ひとりが、先人が積み重ねてきた歴史を振り返りながら、これからの北海道の発展を支え、未来につなぐことが期待される。
こうした中、少子・高齢化や人口減少、グローバル化や高度情報化などによる社会の変化が、人々の予想を超えて進展しており、本道が将来にわたって発展していくためには、地域を支える人材の育成を担う教育の役割がますます重要となっている。
子どもたちが、ふるさと北海道に誇りと愛着をもち、互いに支え合いながら、たくましく生きていく力を身に付けていくために、「自立」と「共生」という北海道教育の理念のもと、道民の皆さんの理解と協力を得ながら、教育行政を推進していくことが必要である。
【教育行政に臨む基本姿勢】
このような認識のもと、子どもたちの確かな学力、豊かな心、健やかな体をバランスよく育むための教育と、その基盤となる教育環境づくりに向けた基本姿勢について申し上げる。
本道の子どもたちの学力・体力は、国の調査の結果から、全国との差が着実に縮まっているなど、改善の傾向がみられるものの、さらなる授業改善や望ましい生活習慣の定着などが、引き続き、課題となっている。
また、いじめの問題においては、日ごろから、子どもたちの些細な変化を見逃さないよう、緊張感をもち、未然防止、早期発見・早期対応を徹底することが求められている。
道教委としては、すべての子どもたちの可能性を最大限に伸ばし、これからの時代を生き抜く力を育成するとともに、いじめのない学校づくりなど、学校・家庭・地域・行政が連携し、教育環境の一層の充実が図られるよう、効果的な施策を講じていく。
【重点政策の展開】
つぎに、二十九年度において、重点的に取り組む政策について申し上げる。
▼社会で活きる実践的な力の育成
第一は、「社会で活きる実践的な力の育成」について。
子どもたちが変化の激しい時代を生きていくためには、基礎的・基本的な知識・技能、それらを活用して課題を解決するための思考力、判断力、表現力等に加え、学びを生かそうとする態度を身に付ける必要があり、各学校段階を通じて、主体的・対話的で深い学びを実現していくことが重要である。
このため、義務教育においては、全国学力・学習状況調査やチャレンジテスト等を活用しながら、学力や学習状況の把握・分析、指導方法の改善を検証改善サイクルとして確立し、学校全体で組織的な取組を推進する「ほっかいどう学力向上推進事業」を実施するほか、学校力向上に関する実践事業の成果の普及などを推進する。
高校教育においては、大学教育との接続を見直す国の教育改革を見据えながら、生徒の能力・進路に応じた教育を推進するため、教材やテストの開発、外部講師による講座等を実施する「高校学力向上実践事業」などに取り組む。
特別支援教育については、共生社会の形成に向けて、障がいのある子どもと障がいのない子どもがともに学ぶインクルーシブ教育システムの理念を踏まえ、すべての学校において、特別な支援を必要とする子ども一人ひとりの教育的ニーズに応じた指導や支援の充実を図るとともに、障がいの重度・重複化、多様化等が進む特別支援学校における教育環境の整備を進める。
幼児教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う上で大変重要なものであることから、知事部局と連携し、幼稚園・保育所・認定こども園における幼児教育の質のさらなる向上に向けた取組を進める。
小中一貫教育については、九年間の系統的・継続的な教育を行うための教育課程編成に向けた調査研究などによって、地域の実情に応じた導入への取組を支援する。
また、グローバル化が進展する中、子どもたちが、ふるさと北海道への誇りや愛着をもちながら、豊かな国際感覚を備え、具体的に行動できる力を身に付けることが重要である。
このため、本道の自然や文化、観光などの教育資源を活用した学習や、北方領土やアイヌの人たちの歴史や文化などに関する学習などの充実に加え、地域に伝わる民俗芸能に親しむ機会を提供する「ほっかいどう子ども民俗芸能振興事業」や、各学校段階を通して取り組む「小中高一貫ふるさとキャリア教育推進事業」などの実施によって、子どもたち一人ひとりの社会的・職業的自立に向けた教育の充実に努める。
併せて、子どもたちが、英語で、日常的なコミュニケーションができる力を身に付けられるよう、高校において、実践的な調査研究に取り組むとともに、地域の外国人等の協力を得て、英会話にチャレンジする中学生向けの英語検定事業に取り組む。
さらに、グローバル・リーダーを養成するため、イングリッシュキャンプの実施や、ICTを活用し海外の高校生等との意見交換を行う「U―18未来フォーラム」を開催する。
教育の情報化については、道教委が策定する指針に基づき、子どもたちの情報活用能力を育むとともに、ICTを活用した分かる授業づくりを進めるほか、遠隔授業や教職員を対象とした遠隔研修の拡充を図る。
このほか、いわゆる教育機会確保法の成立を踏まえ、不登校の子どもや義務教育段階の教育を十分に受けていない方々に対する教育機会の確保に向けた取組を進める。
▼豊かな心と健やかな体の育成
第二は、「豊かな心と健やかな体の育成」について。
子どもたちの健やかな成長のためには、基本的な倫理観や規範意識を身に付け、思いやりをもち、美しいものに感動するなど、豊かな人間性を育むとともに、自らの生き方を主体的に考えることができる力を育成することが重要である。
このため、三十年度から道徳が特別の教科となることを踏まえ、指導方法に関する研修会の開催や、本道にゆかりのある偉人を題材とした教材の作成などに取り組む。
読書活動を推進するため、学校図書館を活用した効果的な授業づくりに関する研修会の開催などによって、子どもたちの読書環境の充実に取り組む。
いじめの対応については、子どもたち同士の望ましい人間関係を醸成する学校経営・学級経営を通して未然防止に取り組むとともに、各学校が実施する定期的な調査や教育相談の実施等によって早期発見に努め、いじめの疑いがある場合には、特定の教職員が抱え込むことなく、組織的かつ速やかに対応するよう、各学校等への指導を徹底する。
また、学校における相談体制の充実を図るため、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置を拡充する。
さらに、子どもたちをネットトラブルの被害者にも加害者にもさせないよう、学校における情報モラル教育の一層の充実を図るほか、保護者向けの啓発資料を作成するなど、インターネットの安全・安心な利用に向けた家庭のルールづくりなどを促進する。
体力は、あらゆる活動の源として、健康の維持のほか、意欲や気力の充実にも大きくかかわっており、生涯にわたって心身ともに健やかに生きるための基盤となるものである。
このため、子どもたちの体力向上に向けて、体育授業の改善と併せ、運動プログラムの開発やその普及促進に取り組むとともに、「どさん子体力アップ強調月間」における集中的な取組を通じて、子どもたちの運動機会の充実に努める。
また、食に関する正しい知識や望ましい食習慣の定着を図る食育の充実を含め、健康教育の推進に取り組むとともに、子どもたちが安心して学校生活を送ることができるよう、食物アレルギーへの対応の一層の充実を図る。
このほか、昨年の自然災害の多発を踏まえ、子どもたちが、自ら身を守ることができるよう、地域と連携した防災教育の一層の充実に努める。
▼信頼される学校づくりの推進
第三は、「信頼される学校づくりの推進」について。
学校が、保護者や地域住民の期待に応えるためには、管理職がリーダーシップを発揮して学校運営に当たるとともに、教職員がそれぞれの力を発揮できる環境づくりを進める必要がある。
特に、広域分散型で小規模校が多い本道においては、教職員一人ひとりの果たす役割が大きく、教職員の資質・能力の維持・向上が極めて重要である。
このため、教員養成を担う大学等との協力体制の整備に加え、教員採用の段階や採用後に教員が身に付けるべき資質・能力を明らかにした教員育成指標を示すとともに、管理職を含めてキャリアステージに応じた体系的かつ効果的な教員研修計画を策定するなど、教員の養成・採用・研修を通じた一体的な改革を進める。
また、教職員の時間外勤務等を縮減するため、勤務時間の割り振り等に関する制度を見直すほか、部活動休養日の設定をより一層推進するとともに、業務管理に対する管理職の意識改革を進める。
このほか、高校における教育環境の充実については、地域の教育機能の維持向上などの課題を踏まえた新しい指針を作成していく。
児童生徒の教育活動に直接携わる教職員には、高い倫理観が求められ、服務規律の保持を徹底する必要がある。
このため、教職員の不祥事の根絶に向けて、服務に関する研修資料を効果的に活用しながら、職場研修や個人面談の一層の充実を図る。
▼地域全体で子どもたちを守り育てる体制づくりの推進
第四は、「地域全体で子どもたちを守り育てる体制づくりの推進」について。
社会が急激に変化する中、関係機関が連携して、子どもたちを守り育てていくためには、家庭や地域など社会の幅広い教育機能を活性化していくことが重要である。
このため、子育てや家庭教育については、それぞれの地域で保護者が相談や交流をすることができる「学びカフェ」の設置を促すなど、家庭教育に関する学びのセーフティネットの構築を図る。
家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが安心して学習を進められるよう、授業料等の負担軽減を図るとともに、地域で学習支援を行う「子ども未来塾」の取組を拡充する。
コミュニティ・スクールについては、学校運営の改善・充実はもとより、地域づくりの推進にも有効な手立てであり、知事部局とも連携し、その導入を促進するため、地域の関係者による協議会やコーディネーター養成のための研修会を開催する。
また、PTAや関係機関等と協働し、「どさんこアウトメディアプロジェクト」など、ネット利用も含めた望ましい生活習慣の定着に向けた取組を展開することによって、家庭や地域の教育力の向上に取り組む。
▼北海道らしい生涯学習社会の実現
第五は、「北海道らしい生涯学習社会の実現」について。
道民の潤いのある生活と活力ある地域づくりを推進するためには、道民が生涯を通じて積極的に学び、その成果を生かせる環境をつくることが重要である。
このため、道民に様々な学習機会を提供する「道民カレッジ」の充実を図るほか、公民館等における住民の学びを実践につなげる仕組みづくりや社会教育の取組を生かした人材育成を支援する。
文化の振興については、アイヌ民俗文化財の保存・伝承活動の支援や、北東北と連携した縄文遺跡群の世界遺産登録に向けた取組など、文化財の保存と活用を進めるとともに、日本遺産の認定に向けた取組を促進する。
地域の美術館や文化施設が、連携や協定によるネットワーク化を進め、相互に作品を紹介・発信することによって、北海道全体がアートの舞台となる「アートギャラリー北海道構想」の策定に取り組む。
また、本道の歴史や文化、アイヌの人たちの生活などを記録した映像資料をデジタル化し、学校におけるふるさと教育に利用するとともに、知事部局と連携し、北海道百五十年記念事業に活用するなどして、道民が活力ある未来を創造する気運の醸成に努める。
以上、二十九年度に取り組む重点政策について申し上げた。
このほか、本道の教育行政を体系的かつ計画的に推進するため、二十九年度を終期とする現行の「北海道教育推進計画」について、これまでの取組の成果と課題を分析し、三十年度からの新たな計画づくりを進める。
【むすび】
子どもたちには、複雑で予想することの難しい未来が待ち受けているが、こうした変化を前向きに受け止め、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していく力を身に付けさせることが、教育の使命である。
道教委としては、こうした使命を果たすべく、学校・家庭・地域・行政の緊密な連携のもとで、一丸となって本道教育の充実・発展に取り組んでいく。
道民の皆さん、道議会議員の皆さんの理解と協力を心からお願い申し上げる。
(道・道教委 2017-02-27付)
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