競争主義の転換求める 全国学力調査結果公表で見解―道教組・道高教組(関係団体 2017-09-01付)
道教組(川村安浩執行委員長)と道高教組(國田昌男中央執行委員長)は八月三十日、全国学力・学習状況調査結果公表に対して「〝全国一斉学力テスト〟による競争教育・順位争いを改め、子どもたちの豊かな成長・発達を保障する教育を大切にしよう」と呼びかける「見解」を発表した。「見解」では、調査が「人間的成長が期待される学校を息苦しい競争社会に変えている」などと批判。文部科学省・道教委に対して「競争主義的な教育政策を根本的に転換する」ことを求めている。
見解の内容はつぎのとおり。
1 子ども・教員を「学力」競争に追い込む文科省・道教委は、人間的成長が期待される学校を息苦しい競争社会に変えている
文科省は八月二十八日、全国の小学校六年生と中学校三年生を対象に実施した「全国学力・学習状況調査」(学力テスト)の結果を公表した。今回で十回目になるが、都道府県別の結果公表に加え、初めて政令指定都市の結果も公表した。文科省は「地域間格差の縮小傾向が続く一方、知識の活用力は引き続き課題」などとしている。
道教委は今回の結果を受け「二十九年度全国学力・学習状況の本道の状況については、小・中学校のすべての教科で全国を下回っている。昨年度と比べて、全国との差が、小学校国語A、国語B、算数A、算数B、中学校国語Bの五教科で縮まり、中学校国語A、数学A、数学Bの三教科で広がった。小学校はすべての教科で全国との差が二・四ポイント、中学校は、すべての教科で一・二ポイント以内。中学校国語Aおよび国語Bの二教科は全国と同じ」とする結果の概要を公表した。
文科省・道教委による「学力テスト」体制は、子どもや教員ばかりでなく、家庭までも過度な点数競争に巻き込み、教員や子どもたちを追い込み、本来、人間的成長の場である学校という空間を息苦しい競争社会に変えてきた。
また、「学力テスト」と同時に行われる質問紙調査(学習状況調査)によって、子ども個々の日常生活を詳細に質問し、肯定的な回答が「子どものあるべき姿」として生活目標に刷り込まれる仕組みになっている。大人が子どもの時間の使い方を「管理」することにもなり、子どもの自立を促す教育本来の姿からかけ離れたものになる。
2 道教委は、学校・教員・子どもたちを点数競争に追い込み、本来楽しいはずの授業を「学力テスト」対策にゆがめてはならない
文科省・道教委による「学力テスト」競争が苛烈になり、全道でチャレンジテストによる反復練習や過去問対策が増え、生徒の知的好奇心を刺激する授業本来の楽しい授業が「学力テスト」対策のために、つまらない授業になっていないだろうか。子どもや保護者、そして、教員も「学力テスト」対策に追い込まれ、学ぶこと自体を楽しみ、人間的かかわりを紡ぐ、生き生きとした学校生活に陰りが生じていると言っても過言ではない。
道教委も「二十九年度には、すべての教科で全国平均以上となるよう目標の実現に向けて取り組む」という方針を掲げ、全道の子ども、教員、保護者をさらに追い込んできた。
道教委は、二〇一一年以降の「平均正答率で全国平均以上にする」という方針の具体化として、各学校にチャレンジテストを強制し、春休みの宿題を促し、新学期に過去問や類似問題の繰り返し、日常的に宿題を増やすなどの指示が行われている。一方、家庭に対しては、家庭学習時間を増やすことや早寝・早起き・朝ごはん、テレビの時間を減らすことなど、家庭の事情などお構いなしに、一方的な生活習慣を押し付けている。
子どもの権利条約三一条では「休憩および余暇についての児童の権利」「文化的および芸術的な生活に十分参加する権利」をうたっているが、日本の子どもたちには保障されていないのだろうか。日本の過度な競争主義に対し、国連子どもの権利委員会は、数度にわたり問題点を指摘しているのは周知のとおりである。
このような文科省や道教委の姿勢のもと、ことしも全道の子どもや家庭、教師たちは「学力テスト」に臨まなければならなかった。
3 ことしからは政令市別の結果公表、回を重ねるごとに点数競争を激化させ、教育をゆがめている
文科省は都道府県別の結果を公表しつつ、二〇一四年度からは、自治体判断によって学校別成績の公表を認めた。
北海道でも、いくつかの教育委員会が公表し、まさに学校間の序列化と言える。今回からは政令市別の結果を公表し、回を重ねるごとに点数競争を激化させ、教育をゆがめている。そして、「学力テスト」体制重視によって、自主的に創意工夫した授業をする自由を教師から奪うものとなっている。
私たちは、真に平和で民主的な社会を築くためには、何よりもすべての子ども・青年に、市民として主体的に行動する「生きる力」「確かな学力」を身に付けることが必要と考えている。
「学力テスト」は本来、子どもの理解やつまずきを指導者が把握し、指導法の改善に役立てるべきもので、まして、数値で計れるものと、そうでないものがあることは周知であり、数値で計測可能な結果の順位が子どもたちの人間的成長を表すものでないことは教育の原理に基づいて考えれば明らかである。
「学力テスト」の順位を意識した学校生活は、子どもと子ども、子どもと教師、教師と教師、そして家庭との豊かなかかわりを奪うばかりでなく、学校行事や総合的な学習の時間の削減など豊かな学びを創造する学習の機会をも奪うことになりかねない。子どもや保護者、教師と地域社会までも巻き込んで、果てしない競争教育に駆り立てる「学力テスト」の在り方は直ちに見直されるべきである。
4 財界の求めるグローバル人材育成、競争主義、「学力テスト」の弊害を改め、子どもたちの豊かな成長・発達を保障する教育を大切にしよう
政府は「世界で企業が一番活躍しやすい国」を支えるグローバル人材を求める財界の根強い要請に沿って、競争主義社会を勝ち抜いた一部のエリートを中心とした社会、弱者冷遇の新自由主義的社会の固定化を目指し躍起になっている。
こうした社会だからこそ「学力テスト」は、学校と教員を点数偏重主義に一層駆り立てるシステムとなり、早期に「エリート」を選別するために機能していると言える。こうした過度な競争主義によって、子どもたちの学ぶ意欲ばかりか個性や発達にまでゆがみが生じてきていることは、多々指摘されているとおりである。
文科省は二〇一五年、全教(全日本教職員組合)の申し入れに対し「全国的な学力の把握は数パーセントの実施で可能」と回答している。
毎年五十~六十億円も使い、同じような傾向を把握するため、全員参加の「学力テスト」は直ちに中止すべきである。そして、この予算は、三十五人学級の拡充や長時間過密労働で日夜働いている教師の負担軽減など教育条件整備に使うべきである。
文科省・道教委には、子どもと教師、保護者に過度のストレスをかける政策から、子どもたちの豊かな成長・発達を保障する教育という憲法や子どもの権利条約の基本に立ち返って、その競争主義的な教育政策を根本的に転換することを求める。
(関係団体 2017-09-01付)
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