北海道総合教育大綱の概要(道・道教委 2017-11-07付)
道が決定した「北海道総合教育大綱~〝その先の道を切り拓く北海道人〟を育む」の概要はつぎのとおり。
【基本理念】
▼「その先の道を切り拓く北海道人」を地域で大切に育みます
ふるさと北海道をつぎの世代にしっかりと引き継いでいくためには、教育の果たすべき役割がこれまで以上に重要となっており、今後、目指すべき人材を、「その先の道を切り拓く北海道人」とし、北海道で生まれ育つ喜びや暮らし続けたいという思いをもつことができるよう、北海道の総力を挙げて育んでいきます。
▼「その先の道を切り拓く北海道人」
▽「北海道に思いを寄せる」
グローバル化が進む中、世界を意識しながら、道内、道外、国外のいずれの場所で暮らしていても、常にふるさと北海道への誇りと愛着をもつ
▽「社会で自立し共に支え合う」
予測困難で変化が激しく、多様性が高まる社会において、自立して生きる力を高めながら、お互いを思いやり、共に支え合う
▽「未来を切り拓く」
北海道の優れた自然環境や潜在力のある地域資源など、北海道が有する可能性を信じ、人々の多様性を受けとめ、協働しながら、新たな価値の創出や活力ある北海道の創造にチャレンジする
【基本方針】
基本理念の実現に向け、知事と教育委員会が緊密に連携しながら、つぎの基本方針によって教育施策を推進します。
▼ふるさと北海道への愛を育む
世界を意識し、ふるさと北海道に誇りと愛着をもちながら、地域づくりに主体的に取り組む人材を育成できるよう、以下の取組を推進します。
▽ふるさとの歴史や産業への理解を深めるキャリア教育・職業教育
▽地域の関係者が一体となって社会総がかりの教育を実現するコミュニティ・スクール
▽世界を意識しながら、地域で活躍するグローバル人材の育成
▽地域の豊かな自然や歴史、伝統、文化、産業等の理解を深める教育など
▼力強く生き抜く力を育む
北海道で育つすべての子どもたちが、予測困難で変化が激しく、多様性が高まる社会において、自立して生き抜く力や共に支え合う心をもてるよう、以下の取組を推進します。
▽幼児期からの質の高い教育
▽学力・体力の向上
▽自主性を高める主体的・対話的で深い学び
▽豊かな心を育む教育やいじめ防止等の取組
▽互いを思いやる共生社会の形成に向けた特別支援教育
▽高度なICT社会に対応できる力の育成
▽本道の広域性や自然特性などを踏まえた教育など
▼子どもの学びの環境を整える
北海道で育つすべての子どもたちが、質の高い教育を受け、自らの可能性を最大限に伸ばしていけるよう、以下の取組を推進します。
▽教員が子どもに向き合う時間を確保するための取組
▽教員の資質向上
▽広域性を踏まえた学びの場や地域と連携した魅力ある学びの場の確保
▽家庭の教育力向上に向けた支援や家庭環境に影響されない学びのセーフティネットの構築
▽多様化する道民ニーズに応じた特色ある教育を展開している私学教育への支援など
▼社会で活躍し続けられる人を育む
すべての道民が夢を描き、互いの多様性を活かしながら、社会で広く活躍し、生涯を通して自らの夢にチャレンジし続けられるよう、以下の取組を推進します。
▽北海道の地域を支える農林水産業や食・観光産業などの産業人材の育成
▽グローバル人材や高度なICT社会を担う人材、地域医療を担う人材の育成
▽本道の新たな価値や産業を創出する起業家の育成
▽人生百年時代に対応した、多様なキャリア形成のための学び直し
▽地域活性化につながる大学・短期大学・専修学校等の高等教育機関と連携・協働した人材の育成など
▼北の大地で輝き続ける人を育む
すべての道民が生涯を通じて健康で生き生きと暮らし、生きがいをもちながら能力を発揮するとともに、地域の担い手として活躍することができるよう、以下の取組を推進します。
▽縄文文化やアイヌの人たちが伝承する文化などの北海道らしい文化・芸術活動
▽スポーツ王国北海道の実現に向け、地域が一体となって取り組むスポーツ活動の振興
▽本道の気候特性を生かしたウィンタースポーツの振興
▽公民館活動などを通じた地域の多様な担い手を育成する社会教育など
【施策体系】
この大綱を踏まえ、知事と教育委員会では教育推進計画をはじめ関連計画に基づき、様々な取組を進めます。
▼関連施策の推進~知事部局と教育委員会の連携
道と道教委は、多様化する教育課題への柔軟な対応を目的とした「知事部局と教育委員会の連携チーム」などを活用し、地域における学校づくりや幼児教育など個別具体的な検討課題について、着実に取組を進めていきます。
※私立学校(幼稚園・小学校・中学校・高校・特別支援学校・専修学校・各種学校・短期大学・大学)については、国や道の支援の充実を図るほか、教育委員会や関係機関、団体との連携を図りながら基本方針に関連する施策を推進します。
※教育委員会では「道教育推進計画(策定中)」を教育振興のための施策に関する基本的な計画としており、施策別につぎの方針等を策定し、施策を推進しています。
・生涯学習―第三次生涯学習推進基本構想
・高校教育―新たな高校教育に関する指針
・特別支援教育―特別支援教育に関する基本方針
・いじめ防止―道いじめ防止基本方針
・読書推進―道子どもの読書推進計画
・情報化推進―北海道における教育の情報化推進指針(策定中)
方針等の名称は二十九年十月現在のもの。
※大綱については、各種計画の見直し時期などにおいて、環境が大きく変化した場合には、必要に応じて改定することを視野に入れています。
【北海道の現状と展望】
▼人口減少・高齢化
日本をはじめ先進国においては、少子高齢化が進展しています。国連推計では、二〇五〇年には六十五歳以上の人口が二七%を占めると予測されています。
そうした中、日本は二十年をピークに人口が減少しており、世界において最も少子高齢化が進んでいる国となっています。中でも、北海道は全国を上回るスピードで人口減少、少子高齢化が進んでいます。
また、労働力人口の減少も顕著にみられ、北海道では十三年の約二百八十九万人をピークに減少に転じています。
人口動態についてみると、札幌への人口集中が進んでおり、特に、若者については、進学・就職を機に、道内各地から札幌への転入が続いている一方で、札幌から本州への流出という傾向が長年続いており、全国に比べて若年者の減少が格段に進んでいます。
こうした状況を危機として捉えるだけではなく、北海道全体で課題意識を共有し、地域創生を進め課題を解決していくことが、日本、そして世界のモデルケースになり得るとの認識のもと、北海道の将来を担う子どもたちや地域を支える担い手に対する地域一体となった教育の推進が必要となっています。
特に、北海道に住み続けたい、道外に転出しても戻ってきたい、道外にいても北海道を応援したいという思いをもってもらうためには、それぞれの地域へのふるさと愛を育むことが重要です。
また、地域の担い手が減少する中、広大な北海道を維持していくためには、道民一人ひとりが支え合い、力を発揮することが必要であり、学び直しなども含め、ライフステージを通した教育機会の確保が求められています。
▼近づく世界との距離
世界的な貿易自由化やアジア経済の発展による観光客の増加、インターネットをはじめとしたICTの進展などによって、情報や人的交流、ビジネスなどの面で、国際社会とのかかわりが増えるなど、世界との距離が近くなっています。日本、北海道を訪れる外国人観光客数は増加しており、北海道の外国人延べ宿泊者数は対前年比一六・二%の増となっているほか、在留外国人も増加しています。
海外に留学する学生数は増加傾向にありますが、道内の学生が占める割合は全国の二・一%に留まっています。また、原則として交換留学等の短期留学を含まないOECD等による統計では、全国の留学生は十六年をピークに減少傾向となっています。
経済の面では、アジアを中心に海外進出を展開している企業や、海外をマーケットに製品を輸出する優良企業が輩出されており、アンケート調査では道内の一一・一%の会社が直接輸出をしています。
スポーツの分野でも、冬季競技を中心に国際大会で活躍する選手が多く輩出されており、冬季オリンピック・パラリンピックの出場選手は本道出身選手が約五割を占めています。
こうした状況の中、海外を意識しながら学び、働き、暮らすことがより身近になることが予想されることから、世界の歴史、地理、政治、文化などを理解し、世界の中の日本、北海道を意識し、国際協力などの視点も踏まえながら、日本、北海道を深く学ぶことが必要となっています。
国においては、小・中・高校を通じて一貫した英語教育の推進を図ることとしており、外国語教育のための教員の英語力の向上が急務となっていますが、道、全国とも、国が目標として示している「英検準一級等以上を取得した教員の割合:中学校教員五〇%、高校教員七五%」には、まだ達していない状況です。
また、北海道に暮らしていても外国人との接点が拡大し、観光業などにおいては外国語を習得した人材の確保が課題になっているほか、観光以外のビジネスにおいても、マーケットとして海外を意識する必要性が高まっており、海外へチャレンジする企業や人を育成することが必要となっています。
▼必要性が高まる学びの支援、多様性が高まる社会
日本では三世代世帯が減少しているほか、北海道では、ひとり親世帯の割合が継続して全国を上回っている状況にあり、子育てについての悩みや不安を多くの家庭が抱えながらも、身近に相談できる相手がいないといった課題が指摘されています。
また、日本は諸外国に比べ相対的貧困率が高く、とりわけ、ひとり親世帯の貧困率が高い状況となっている中、国の調査では、世帯年収が高いほど学力調査の正答率が高い傾向がみられること、北海道の調査では、世帯年収と子どもの学校の授業の理解度に関する自己評価との関連がみられることなど、負の連鎖が懸念される状況にあります。加えて北海道は大学等への進学率が全国に比べて低く、市部と町村部で差が出ています。
こうした状況の中、家庭教育の推進など子育て支援の充実のほか、世代を超えて貧困が連鎖することがないよう、家庭環境に影響されない学びの確保が課題となっています。
一方、社会の多様性がますます高まっています。「近づく世界との距離」に示したとおり、様々な国の方々が北海道を訪れ、在留しており、宗教や信条など様々な価値観を有する方々とのふれ合いが増加しています。また、「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律」が十五年に公布されたほか、自治体によっては同性パートナーシップ証明の発行が行われるなど、性的マイノリティに配慮した取組が進められています。
加えて、国は十九年に「障害者の権利に関する条約」に署名し、二十八年には「障害者差別解消法」を施行しており、障がい者に対するインクルーシブ教育システムの理念を踏まえた取組が進められています。
さらに、企業では個人や集団間に存在する多様性を活かした企業活動を目指して、ダイバーシティ・マネジメントが進められています。
こうした状況の中、多様な方々と共に支え合いながら、地域社会を形づくっていくことが求められており、国籍、価値観、性同一性障がい、障がいなどの多様性を認め、受け止めながら、個人個人の個性を活かすことができるよう、施策を展開することが必要となっています。
▼変わる教育、変わる仕事
北海道の子どもたちの学力・体力は改善傾向にあるものの、全国平均には届いていない状況にあり、テレビゲームを一日二時間以上すると答えた小中学生が全国を上回る水準で推移するなど、生活習慣についても課題がみられるほか、学校現場の複雑化、多様化に伴い、教員の役割が拡大しています。また、特別支援学校に通う生徒が増加してきています。
北海道の産業の状況をみると、産業別就業者数が変化しており、第一次・第二次産業とも就業者の減少が続き、第三次産業も十七年度以来、減少に転じているほか、非正規労働者割合が全国より高い水準にあります。
一方、開業率が全国に比べて高い傾向にあり、大学発ベンチャー数は全国七位という状況にあります。
また、二〇二五年から二〇三五年の間に、日本の労働人口の約四九%が就いている仕事がAIとロボットによって代替可能との予測や、二〇四五年にはシンギュラリティを迎えるとの予測もされており、仕事や働き方なども含め、社会システム自体が大きく変わることが予想されています。
こうした社会の大きな変化の中、国においては、新学習指導要領等で、子どもたちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを示しており、北海道においては、学力、体力の向上はもとより、子どもたちが自分の力で生涯を生き抜き、夢や希望をもてる教育を推進することが求められています。また、技術革新の基盤的知識としてSTEM(科学・技術・工学・数学)教育の重要性が高まっており、高度なICT社会に対応できる力を育む教育が必要となっています。
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