小中一貫教育推進事業・取組の成果と課題―道教委
(道・道教委 2017-11-08付)

 道教委は、文部科学省指定事業である「小中一貫教育推進事業」の協力市町の取組の概要を取りまとめた。十月十一日に札幌市内の道第二水産ビルで開かれた小中一貫教育推進事業運営会議で公表したもの。小中一貫教育推進事業は二十七年度に開始。三ヵ年計画で、協力地域の当別町、旭川市、白糠町、中標津町の各教委および協力校が小中一貫教育の取組を先導的に推進し、成果の発信に努めている。

 各協力市町の取組の概要はつぎのとおり。

◆当別町―当別小学校・当別中学校・西当別小学校・西当別中学校

▼取組のねらい

 域内全域での小中一貫教育の導入に向けて、義務教育を終える段階で身に付けておくべき姿として目指す子ども像を設定するとともに、目標達成のための手段として、義務教育九年間を見通し、系統性・連続性を確保した教育課程を編成する

▼主な具体の取組

▽「当別みらい学」カリキュラムモデルの作成に向けた取組

・目指す子ども像の実現を図るとともに、小・中学校が一貫して、地域の教育資源を十分に活用し、特色ある教育活動を推進するため「ふるさと教育」「国際理解教育」、「キャリア教育」を三本柱とした「当別みらい学」を設定した

・全体計画や各学年の指導計画を作成するに当たり、各小・中学校の教頭・教務主任、教委職員などで構成する「カリキュラム部会」を設置し、推進体制を整備した

・九年間で育てる子ども像や発達の段階に応じた目標を設定し、系統性のある指導ができるようにした

▼取組の成果と課題

▽学力向上にかかわる成果

・国語、社会、算数・数学、理科、外国語の五教科の系統図を作成した

・九年間のつながりを意識した家庭学習の習慣化を図るため、『家庭学習の手引き』を作成した

・学校段階間の円滑な接続を図るため、町費で各中学校区に「小中一貫教育推進講師」を配置し、小・中学校での指導を通じて共有したい情報などを「一貫教育便り」として発信したことによって、小・中学校の教職員間で小中一貫教育の意義などの共通理解が深まった

・アンケート調査の結果から、教員の基礎学力保障の必要性に対する意識、小・中学校の教職員間で互いの指導方法などのよさを取り入れる意識などが高まった

・全国学力・学習状況調査の児童生徒質問紙調査結果から、「学級やグループの中で自分たちで課題を立てて、その解決に向けて情報を集め、話し合いながら整理して、発表するなどの学習活動に取り組んでいたと思う」と回答する児童生徒の割合が小学校で六・六ポイント、中学校で一二・二ポイント高くなった

▽その他にみられた成果

・小学校第六学年の中学校登校を定期的に実施したことによって、中学校へ進学するに当たり、学習や生活に不安を抱える児童が減少した

・保護者、地域住民を対象とした教育講演会を開催したことによって、小中一貫教育導入の趣旨について理解が深まった

・先進地域への視察研修の内容を教職員の研修会などで報告したことによって、小中一貫教育導入の趣旨および取組の方策について理解が深まった

▽課題

・小・中学校の教職員が合同で打ち合わせなどを実施する時間の確保

・地域人材の活用など、地域と一体となった小中一貫教育の推進

▼今後の取組に向けて

▽各種アンケート結果に基づき、課題解決に向けた取組の重点化を図るとともに、小中一貫教育懇談会や町内教育研究団体と連携し、計画的に小・中学校間の円滑な接続に向けた取組を進める

▽「当別みらい学」の充実に向け、学習評価の検討を進める

▽小中一貫教育の効果を最大限に高めるため、一体型校舎の建設計画策定を進める 

▽各中学校区に学校運営協議会を設置し、地域とともにある学校づくりを推進する

◆旭川市―旭川小学校・旭川中学校

▼取組のねらい

 小中連携・一貫教育推進プランを策定するとともに、中学校の通学区域を単位とした小中連携・一貫教育を促進する

 また、協力校の旭川小学校・旭川中学校に小中連携コーディネーターを配置し、三十年度の施設一体型小中一貫教育の実施に向け、九年間を見通した教育課程の編成など系統性・連続性のある具体的な取組を進める

▼主な具体の取組

▽協力校における小中連携コーディネーターの役割

・本事業を活用して小中連携コーディネーターを市教委に配置し、協力校に定期的に派遣した

・小学校と中学校で共通に設定した年度の重点目標などに基づき、取組を具体化したロードマップを作成した。また、校内研修を一本化したことに伴い、互いの教育課程を整理して、キャリア教育に関する九年間を見通した教育課程を編成した

・小・中学校合同のボランティア活動や部活動交流などの企画や乗り入れ授業の日程などを調整した。また、取組の記録や児童生徒アンケート調査を集約し、教職員に周知した

・それぞれの学校における学校評価と合わせて、「小中連携・一貫教育」にかかわる教職員アンケートの実施・結果分析するとともに、分析結果をまとめ、全教職員に配布するなどして、次年度の取組につなげた

▼取組の成果と課題

▽学力向上にかかわる成果

 協力校では、合同で校内研修を実施してキャリア教育を推進したことによって、全国学力・学習状況調査において、つぎのような成果がみられた

・旭川中学校では、国語で目標を達成し、数学で目標を達成できなかったものの、昨年度の結果を上回った。また、家庭学習を全くしない生徒が減少するなど、学習習慣の定着が図られるとともに、自分にはよいところがあると回答する生徒が増えるなど、自己肯定感の高まりがみられた

・旭川小学校では、将来の夢や目標をもっていると回答した児童が増えた

▽その他にみられた成果

・全国学力・学習状況調査における学校質問紙調査において、「教科の指導内容や指導方法について近隣の中学校・小学校と連携を行っている」の項目に対して肯定的な回答をした学校の割合は、三十年度の目標(中学校六七%、小学校六八%以上)に対して、中学校は七五%で目標を達成し、小学校は五六・九%で達成できなかったものの、前年度の五一・五%を上回った。なお、協力校は小・中学校ともに肯定的な回答であった

・「旭川市小中連携・一貫教育推進プラン」を策定し、「推進Note」をもとに現状把握や課題の特定をするとともに、「プラン実践シート」を活用して目標を共有するなど、取組のPDCAのマネジメントサイクルを確立したことによって、各小・中学校が共通理解のもと、中学校区の課題の解決を図る取組を進めることができた

・特別支援教育に関しては、道教委作成の資料などを活用し、市内すべての小・中学校が授業参観交流や教育相談などの取組を実施したことによって、児童生徒の円滑な接続を行うことができた。市内のある中学校区では、小学校6年生と中学生との交流活動を実施し、児童や保護者の中学校生活への不安感を解消するとともに、期待感を醸成することができた。また、中学生にとっては、リーダーシップを発揮する活動となった

▽課題

・各学校において、教職員の負担感を解消することや取組を行う時間を確保すること

・小中一貫教育の推進に関する小・中学校間の意識の差を解消すること

▼今後の取組に向けて

▽全小・中学校が「プラン実践シート」を活用し「緊密な連携から小中一貫教育へ」を目指して取組を促進する

▽小中連携コーディネーターが学校訪問を通して、つぎの視点で学校を支援していく

・各学校が自校の教育重点目標に中学校区の目標を位置付け、学校体制を整備して取組を促進することができるようにする

・目標に数値目標を位置付け、教職員が取組の成果を実感できるようにする

▽新学習指導要領に対応した教育課程編成の手引を作成し、九年間を見通した教育活動を展開する

◆白糠町―庶路中学校・庶路小学校、白糠中学校・白糠小学校、茶路中学校・茶路小学校

▼取組のねらい

 「ふるさと教育」の充実および児童生徒の学力・体力向上や語学力(日本語と英語・中国語)の向上を図るため、より系統的な学習が展開されるよう、小学校段階・中学校段階の指導方法の交流や九年間を通したカリキュラムの編成・実施などを行い、全町で小中一貫教育に取り組む

▼主な具体の取組

▽白糠町の小中一貫に関する組織の役割

・庶路地区は義務教育学校、白糠地区は併設型小学校・中学校(校舎分離型)、茶路地区は併設型小学校・中学校(校舎一体型)と、地区ごとに三つのタイプで推進している

▽小中一貫に関する組織の役割

・各地区において、全教職員がかかわる委員会(庶路地区の「夢・未来創造委員会」など)を組織し、毎月、合同研修会などを開催。小中一貫教育の導入に向けて、ステップアップシートを作成し、カリキュラムの作成や試行に取り組むとともに、地区ごとに乗り入れ授業や小学校第六学年の中学校への登校、児童生徒の交流などの取組を推進している

・保護者や地域住民も参加しての開校(開設)準備委員会を組織し、校歌、校訓、校章などについて協議している。また、全町でカリキュラム編成会議を組織し、九年間の基軸となるカリキュラムについて検討を重ねている

▼取組の成果と課題

▽学力向上にかかわる成果

・小中合同研修会の定期的な実施によって、各地区において、児童生徒の実態や学習規律、授業スタイルについて共通理解を図るとともに、各教科の年間指導計画の基盤となる系統図などを作成した

・教職員の指導方法の改善意欲や、小・中学校の教職員間で互いの良さを取り入れる意識、指導内容の系統性に対する理解が高まった

▽その他にみられた成果

・教育関係者、保護者、地域住民を対象とした小中一貫教育フォーラムの開催や、小中合同研修会における先進地域への視察研修の内容の還元によって、小中一貫教育導入の趣旨および取組の具体について共通理解が深まった

・小中の校舎が離れている白糠地区では、小学校第六学年の児童が週に一日中学校へ登校する取組を行い、中学校へ引率している小学校教員が中学生の実態を理解し、小学校での指導に生かしたり、中学校教員が登校してくる児童とかかわったりしたことで、中学校への進学にかかる児童の学習や生活に関する不安が減少するなど、中1ギャップの未然防止に効果があった

▼今後に向けて

▽町内全域での小中一貫教育の導入に向けて、目指す子ども像に基づき、九年間を見通した教育課程を実施し、評価・改善を図る

▽義務教育学校、併設型小学校・中学校それぞれの特色を生かした小中一貫教育を実践し、町の目標とする「ふるさと教育の一層の充実」を目指す。特に、九年間を通して英語・中国語を学習する「ECタイム」の内容や指導方法について、一層の充実を図る

◆中標津町―計根別学園

▼取組のねらい

 義務教育九年間を見通した連続性・系統性のある学習指導などの充実を図るための体制整備や指導方法などについて実践研究を通して、二十八年四月から義務教育学校として開校した計根別学園と併せ、町内全小・中学校への小中一貫教育の導入に向けた取組を推進する

 また、地域とともにある学校づくりの観点から、コミュニティ・スクールの導入も含めた研究・協議を行い、保護者や地域住民と「目指すべき子ども像」や指導の方針などを共有し、義務教育九年間の学びを支える仕組を構築する

▼主な具体の取組

▽施設一体型の校舎の特徴を生かした取組

・計根別学園において、校舎一体型の特徴を生かし、第一学年から第九学年までの縦割り班活動など定期的な異学年交流を行っている

・日課表を工夫し、全校五十分授業とすることで、第一学年から第九学年までの様々な取組を円滑に実施できるようにしている

▼取組の成果と課題

▽学力向上にかかわる成果

・第一学年から第九学年までの一貫した取組の充実によって、第六~七学年でみられる、いわゆる「中一ギャップ」が解消され学習に対しての不安や戸惑いが軽減し、学力向上にかかわる成果がみられた

①乗り入れ授業による教科担任制の段階的導入

②計根別スタンダード(学習用具やルールなど第一学年から第九学年まで共通して取り組む事項をまとめたもの)の浸透

・学習支援の充実によって、学習への意欲化を図ることができた

①第三学年から第九学年の算数・数学科をチーム・ティーチングで実施し、個々に応じたきめ細かな指導によって、学力で課題のみられる児童生徒に対しての学習意欲の向上

②DSPタイム(家庭学習ノートを活用し、家庭学習担任が二~三人の生徒に対し指導を行う時間)による家庭学習への取組に向けた意欲の向上

▽その他にみられた成果

・縦割り清掃や全校で実施する学校行事など、縦のつながりを意識した活動の工夫を図ることで、上級生が下級生に対して優しく接したり、下級生は上級生にあこがれを抱いたりするなど、お互いに成長する場面が多くみられるようになった

・四―三―二の学年の区切りを生かすことができる学校行事の工夫と、児童生徒会の機構改革によって、第四学年、第七学年が活躍する場が増加し、リーダーとしての自覚を培うことができた

▽課題

・前期課程(第一~六学年)のきめ細やかな指導を生かし、後期課程(第七~九学年)の学習内容や量の差を解消するための教育課程の工夫を図る必要がある

・第六~七学年における「中一ギャップ」の解消だけではなく、それぞれの発達の段階で生じるギャップに対応できるような取組の充実を図る必要がある

▼今後の取組に向けて

▽九年間の発達の段階に応じた「課題・身に付けさせたい力」を検証し、適切な目標のもと、児童生徒を育てる

▽新学習指導要領に基づき、算数・数学科および外国語活動・英語科を重点教科とし、系統性のある指導計画の整備を進める。委員会を組織し、毎月、合同研修会などを開催して、小中一貫教育の導入に向けて、カリキュラムの作成や試行に取り組むとともに、乗り入れ授業や小学校第六学年の中学校への登校、児童生徒の交流などの取組を推進している

(道・道教委 2017-11-08付)

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