【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.8国語科・小学校編④北海道国語教育連盟(齋藤昇一委員長)「対話的に学ぶ授業のポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-13付)

伝えたい・国語連盟第4回
視点を明確にして話し合いを進める子どもたち

ポイント1 対話への必要感

 新学習指導要領第1章総則に位置付けられた「主体的・対話的で深い学び」は、児童生徒が資質・能力を偏り無く身に付けられるようにするための「授業改善の視点」である。その中で、「対話的な学び」には、①子ども同士の協働②教職員や地域の人との対話③先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、④自己の考えを広げ深めるという四つの要素が示されている。

 一読して分かる通り、④「自己の考えを広げ深める」という目的に向かって、①~③を手がかりにして考えることをきっかけとするという構造になっている。

 さて、この①~③はいわゆる「他者」だが、他者との対話がなぜ「自分の考えを広げ深める」ことにつながるのだろう。また、何のために「自己の考えを広げたり深めたり」するのだろう。

 国語科の授業で単元を構想する際には、これらの問いに教師自身が明確な解をもっている必要がある。実際の学習活動においても、子ども自身に「話し合いたい」「○○さんの考えを聞いてみたい」という対話への必要感が湧くような学習展開を期待したい。

ポイント2 見方・考え方に気付く

 授業場面を例に考えてみよう。

 第5学年「大造じいさんとがん」の単元の目標は「人物の心情の変化を読みとろう」と設定され、「学習の手引き」には、「この物語の『山場』はどこか」という課題に対して、二人の児童が話し合う場面が言語活動として例示されている。

 これらは、単元の目標に対し「山場はどこか」という課題を設定し、子ども同士の協働による「自己の考え方を広げたり深めたりする学び」を想定している。

          ◇          ◇          ◇

A わたしは、大造じいさんが、きずついた残雪に手をのばしたところだと考えました。理由は…

B ぼくは、大造じいさんがじゅうを下ろしたところだと思います。なぜかというと…

          ◇          ◇          ◇

 教科書では、「物語の山場」を「中心人物の心情や行動などが大きく変わるところ」と定義している。A児は大造じいさんの変化を「心情面でも行動面でもはっきりと変化が分かる叙述」に注目し、B児は「残雪を撃つか撃たないかという、決定的な行動の選択」がなされた描写から山場を決めた。

 この二人が話し合ったとしよう。その際、教師は話し合いを始める前に「山場はどこかを決めることが目的なのではありません。話し合いを通して、互いに大造じいさんのどんなところに注目して読んでいたのかをはっきりさせることが大切です」と付け加え、対話の目的を明確に示しておく。

 そうすることで、互いに「こんな読み方もあるんだ」「こういうところに注目すると、大造じいさんの違った側面が見えてくるんだ」といった読みの共有が促され、自分の読みを広げたり深めたりしていく学びにつながっていく。

 このように教材の特質を踏まえ、教材文における言葉の意味や働き、使い方に着目して自分の読みをもう一度問い直したり、互いの読みを共有したりする場を設定することが、「言葉による見方・考え方」を働かせて「対話的に言葉を学ぶ」授業づくりのポイントといえるだろう。

ポイント3 評価や共有を生む学び

 他者と多様な読みの観点を共有することは、自分の読みを形成したり交流したりする際の「参照データベース」を増やすことにつながる。A児のように「心情・行動ともに変化が明確に分かるところ」という観点、B児の「決定的な行動を選択するところ」という観点の他にも「残雪への評価が変わったところ」や「残雪とはやぶさとの戦いをただ黙って見ているところ」を選ぶ場合も想定される。

 大切なことは、そこを山場とする理由付けが明確で、対話的な学びを通して価値付けされていくことである。他者との読みを共有する中で、「そういう風にも読めるのか!」という気付きを得た子どもたちは改めて自分の読みを見つめ直し、「自分はこういうところに惹かれたのだな」という自己評価を加えながら読みを深化させていく。また、それぞれに価値付けされた多様な読みは、次に別の物語を読むときの「方略」として活用していくことが可能になる。

(北海道国語教育連盟函館地区 函館市立万年橋小学校 教諭 藤原友和)

※次回は、北海道算数数学教育会小学校部会「思考が深まる交流のポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-13付)

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