【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.11算数科編③北海道算数数学教育会小学校部会(松村聡部会長)「評価を授業に生かすポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-19付)
◆子どもを見つめ、思いや考えを生かす
ポイント1 評価を積み重ね、授業をつくる
「今、『えっ、十二通りじゃないの』と言った人がいたんだけど、どういうことか、わかるかな」教師は、そう問い返した。六年「場合の数」での発問である。「順列」の考え方の子は十二通り、「組み合わせ」の考え方の子は六通りと考えていた。子どもの考え方のズレを浮き彫りにすることで、「はっきりさせたい」という思いをもてるようにした。
子どもの思いや考えを見取り、発問や指示、言葉がけなどに生かしていく「指導と評価の一体化」が大切である。
評価には、単元や本時の学習を通して、「どのような数学的な見方・考え方を高めることができたか」「知識・技能の習得状況はどうであるか」など、学びの実現状況を見る「絶対評価」がある。
教師は、「子どもにどのような力をつけたいのか」というねらいを明確にもつと、子どもの学びの状況を把握できる。また、その状況に応じた手立てを講じていくこともできる。教師は授業のねらいに迫るべく、評価を繰り返しながら授業を組み立てていく。
ポイント2 子どもの学びを評価し、授業に生かす
五年「小数のかけ算」の授業で、「一でないものを『一』と見る考え方ができる」というねらいを設定した。
①子どもの言葉を生かし、問題場面を把握できるようにする
「二mの重さが一・六㎏の棒があります。この棒五mの重さは何㎏ですか」という問題場面を提示した。
Aさんは、「先生、一mがないよ」という声を上げた。Aさんは、これまでに取り組んできた問題場面との違いに気付いたのである。
教師は、「Aさんの気持ち、わかる?」と、発問した。Aさんの気付きに焦点を当て、どういう思いや考えをもっているのかを探るようにした。「これまでは、問題文に一があったけど…」と、既習との違いを明らかにする発言がある。また、「一mがわかれば、答えを求められる」という考えも出る。これは、解決の見通しにつながる発言である。
教師は、本時のねらいに迫るうえでポイントになる子どもの言葉を板書に位置付け、考えを押さえるようにした。
②机間指導で、子どもの考えを見取る
自力解決の時間をとった。机間指導で、「誰が、どのように考えているのか」を把握していく。子どもの中に、二つの考え方があった。
一つ目は、1・6÷2×5。一mあたりの重さを求める考え方だ。これまで、一mや一本あたりの量が示されている問題場面に取り組んできた子どもにとって、自然な考え方である。二つ目は、1・6×2.5。二mあたりの重さを一とみる考え方である。
③机間指導での見取りを生かし、話し合いを組み立てる
全体交流では、まず、1・6÷2×5の式を取り上げる。自力解決の際、ノートに数直線を書いて考えていたBさんを指名。意図的な指名と言われる手立てだ。Bさんは、数直線を黒板に書き「1・6÷2をすると一mの重さが求まります。今、五mだから…」と説明。つなげて、ほかの子どもも、数直線と式を結び付け、「一mあたりの重さを求め、五倍した」という考えを明らかにした=図1=。
次に、1・6×2.5を取り上げた。すると、子どもから、「2・5なんてどこにもない」という声が上がった。「どう考えて、この式を立てたのかな?」と問い返した。ここでも、意図的な指名をする。指名されたCさんは黒板に数直線を表し、二mと五mの関係が見えるようにし、「五の半分は、2・5。二mの重さである1・6㎏をそのまま基にする量として考えて、五mの重さを求めた」と説明した。
Cさんの考えにつなげて、ほかの子も、「五mは、二mの二・五倍。二mを一と見た」などと説明した=図2=。
こうして、二mあたりの量を「基にする量」という見方、基にする量を「一」と見るという考え方を明らかにしていった。
ポイント3 子どもが自分の学びを見つめられるようにする
評価は、教師だけでなく、子どもが自分の学びを見つめていく「自己評価」と併せて行う。
算数では、授業や単元の終末に、「適用問題に取り組む」「学習感想を書く」という活動を組むことが多い。そうすることで、学びの成果やよさ、自分の変容などをとらえられるようにする。その際、「~が明らかになったんだね」と、教師は子どもの学びに対する積極的な言葉がけをしたい。
子どもの追究過程でも自己評価を促すことができる。
例えば、「~さんの考え方について隣の友達に説明してみましょう」と指示を出す。子どもは、友達の考えを自分の言葉に置き換えて説明していく。そして、ペアでの説明活動を終えたところで、「説明できた人?」と問いかける。ここで、「説明できた」という事実は、子どもの自信を高めることにつながる。もし、説明できない子がいた場合は、そこから授業を組み立てていく。
自己評価は、自己肯定感や自己課題設定力を高めるなど、子どもの資質・能力を育むうえで、欠かせない取組である。
(北海道算数数学教育会小学校部会研究部 山鼻小学校 教諭 中島慎)
※次回は「板書とノートづくりのポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-19付)
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