【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.10算数科編②北海道算数数学教育会小学校部会(松村聡部会長)「問いの連続 実践のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-18付)
◆疑問から深い学びの経験を積み重ねる
ポイント1 脱「発表会」のカギは「問い」
子どもにとって必要感のある交流とはどのようなものだろうか。日々の授業の中で、本当に子どもは「友達に伝えたい」「友達の考えを聞きたい」と思っているのだろうか。
一人が自分の解決方法を説明し、「いいです」と周りが反応。「他の方法で考えた人はいるかな?」と教師が問い、次の子が同様に自分の解決方法を説明する。まるで、「発表会」のような授業である。しかし、そこには子どもにとって本当の意味での話し合う必要感はほとんどない。
交流を子どもにとって必要感のあるものにするためには、一人一人が「はっきりさせたい」「すっきりしたい」という思いをもてるようにすることが大切だ。そのためには、「問い」の存在が欠かせない。
ポイント2 「問い」は子どもの内面で生まれるもの
ここで言う「問い」は、「~の計算の仕方を考えよう」「~の面積の求め方を考えよう」などと、教師から提示されるものとは違う。授業の中で子どもが抱く、「あれっ?」「どうしてそうなるの?」「この数字はどういう意味だろう?」などという思いや考えから始まるものである。
教師は子どもの思いや考えに寄り添い、その時間で子どもが何をはっきりさせたいのかを明らかにしなくてはならない。つまり、「問い」は、教師が与えるものではなく、子どもの内面で生まれるものなのだ。
ポイント3 ズレを仕組む
本実践は六学年「比」の単元の八時間目。「めんつゆの原液を三倍に薄めて、六十㍉㍑のそばつゆを作るためには、原液は何㍉㍑必要でしょうか」という課題から本時は始まる。
「三倍ということは、比で表すと一対三だ」「原液と水を混ぜて六十㍉㍑になればいいんだ」子どもたちは、見方・考え方を働かせながら自力解決に臨む。
教師が、自力解決を終えた子どもに結果を問う。すると、結果が二つに割れた。二十㍉㍑と、十五㍉㍑。その瞬間、子どもの頭にハテナが生まれた。「あれっ、なんで十五㍉㍑になるの?」「二十㍉㍑って、どうやって考えたの?」「どっちが本当の答えなの?」…。
自力解決を終えるまでは、自信をもっていた子も、自分の考えを見直したくなったり、友達の考えを聞いてみたくなったりして、ウズウズしてきた。これらの思いや考えを引き出し、束ねていくことで、「三倍に薄めるってどういうことなのか」という「問い」が共有化され、学びの方向性を定めていくことができる。
このように、「問い」を生むためには、ズレを仕組むことが大切だ。今回は、「三倍」のとらえ方によって答えが変わる題材をあえて扱うことにより、友達との結果のズレが現れるようにし、「問い」を生んだ。友達との結果のズレ以外にも、予想と結果のズレや、処理にかかる時間のズレなどを仕組むこともできる。そうすることにより、子どもは、「Aだと思っていたのに、どうしてBになるの?」「どうしたらもっと素早く答えを出せるの?」と、「問い」をもって追究を進めることができる。
ポイント4 「問い」の連続を生む
「やっぱり十五㍉㍑に変える!」一人の子が声を上げた。「だって、原液:水が一対三になっているんだもん」すかさず、「でも、全体が六十㍉㍑なんだから、原液はその三分の一の二十㍉㍑でいいんじゃない?」と反論する子が現れる。「でもさ…」「いいんだよ、だって…」クラス全体が二つの答えの間で大きく揺れ、交流が活気づく。そこで、相手の考えがどうやって導き出されたのかについて考える時間を設けた。すると、「確かにこっちも三倍と言えるかも」「あ、そうか。二つの違いが分かった」とつぶやき、液量図を使って二つの考えを整理する子が現れた。「十五㍉㍑の方は、水が原液の三倍だから、原液対水が一対三と考えて、二十㍉㍑の方は、全体が原液の三倍と考えたんじゃないかな?」と、その子が発言した。「でも、二十㍉㍑の方は、一対二になっちゃうんじゃないかな?」と、疑問を投げかける子が出てきた。すると、他の子が、「いや、二十㍉㍑も原液対全体が一対三になっているよ」と液量図で説明した。「どちらも一対三だけど、部分対部分なのか、部分対全体なのかが違う」という、答えのズレの背景にある捉え方の違いが見えてきた=図=。
実際の「三倍に薄める」の意味は、「全体が原液の三倍の量になるように薄めること」である。つまり、二十㍉㍑が正解だ。早い段階で、正解を示し、他方を誤答として扱うこともできる。しかし、あえて二つの考えを同等に扱うことで、「どうして?になるのだろう?」「二つの考えの違いはなんだろう?」「三倍に薄めるってどういうことなんだろう?」と、子どもは「問い」を連続させていく。それらの「問い」を解決していく過程を通して、子どもは単に「三倍に薄めるというのは、全体が原液の三倍になるように薄めることなんだ。」と理解するだけではなく、「部分対全体も比で表せるんだ」「一つのものでも、いろんな比を表すことができるんだ」と比に対する見方を広げ、比の面白さに気付いていったのである。
自分が抱いた疑問から学びを深めていく経験を積み重ねることで、主体的に学ぼうとする子どもを育てていくことにもつながる。「問い」のある授業が、活気のある深い学びを実現させていくのである。
(北海道算数数学教育会小学校部会研究部 札幌市立伏見小学校 教諭 在原晴子)
※次回は「評価を授業に生かすポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-18付)
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