【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.16数学科・中学校編④北海道算数数学教育会中学校部会(中山勝喜部会長)数学を学ぶことの良さを実感「授業デザインのポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-27付)

伝えたい16数学科中学校4
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◆「見方・考え方」を働かせ「深い学び」へ

【問題解決型の授業とは】

 生徒が直面した問題に対し、「なぜ、どうして~なのだろうか」という課題をつかみ、数学的活動を通して本時のねらいを達成(課題を解決)すること、これが授業づくりの基本として第一義に問われるべきものである。

 本稿では、授業づくりの基本の上に立って、生徒が学びを「主体的・対話的な」ものとして創造し、かつその学びが「深い」ものになるためのポイントを述べていく。

 その大前提として、問題解決型の授業づくりに取り組む。問題解決型の授業とは、生徒が問題から《課題》を見いだし、課題解決のために数学的活動に取り組み、その過程で〝関心・意欲・態度〟〝見方・考え方〟〝技能〟〝知識・理解〟を身に付けていく(=本時のねらいを達成する)授業である。

ポイント1 課題をつかむ(問題づくりのポイント)

 問題解決型の授業では、どのような問題を授業で扱うかが重要である。問題は課題が明確になり、生徒全員がその課題を共有できるものが理想である。問題づくりは重要であるが、特別な問題をつくる必要はなく、教科書にある問題から、生徒が課題を見いだしやすくする工夫をすることでクリアできる。

 例えば、【図1】のような問題が教科書にある。この問題を次の【図2】のように変えてみると、生徒の主体性が劇的に変化する。

 地球かピンポン玉か、根拠はともかく、生徒全員が結果を予想することができる。また、「どのように考えるといいのだろうか」という課題が自然発生的に見出され、その課題を全員で共有することができる。その過程で、「地球やピンポン玉の半径がわからないから解決できない」「半径の長さが知りたい」「いや、わからなくても解決できる」など、生徒同士のやりとりが見られ、「主体的・対話的な学び」が創造できるのである。

ポイント2 数学的活動の在り方(指導の工夫や手立てのポイント)

 本時のねらいは「赤道と赤道上空に巻いたロープの長さの差は球体の半径には関係しないことを、文字式を使って説明することができる」である。

 このねらいを達成できるように、教師がどのような数学的活動を生徒に仕掛けるかがポイントである。ここでは、先述した生徒同士のやり取りの中で、半径の長さを伝えて問題解決を図った生徒と、半径の長さを伝えずに問題解決を図った生徒の交流がある。半径の長さを伝えた生徒群は具体的な数値から差を求めることができるが、半径の長さを伝えない生徒群も同じ差を求めることができるのである。どうやって差を求めることができたのか、半径の長さを伝えた生徒群はその根拠を知りたくなるのである。

ポイント3 本時のねらいの達成(評価のポイント)

 交流の中で、地球の半径を六千四百㌔㍍、ピンポン玉の半径を二㌢㍍とした生徒群は、単位の異なる十㍍の扱いに苦労したことをもう一方の生徒群に話しながら、どちらも差は変わらないという結論を導き出したことを説明した。

 一方、地球の半径をR、ピンポン玉の半径をrにした生徒群は、単位について苦労することなく(なぜ、苦労しなかったのかも含め)どちらも差は変わらないという説明ができた。ねらいの達成がどうであったかは、課題追究時の姿や生徒の発表等から評価ができる。

 ここでのポイントは半径の長さを伝えた生徒群が、文字を使った生徒群の説明をどのようにとらえたか、発表やワークシート等の記述から見取ることである。特に、文字の有用性をどのように感じたのか、具体的な数値を用いた問題解決の方法がどうであったかを振り返るよう促し、問題解決に向けた取組の評価を生徒自身に表出させることが大切である。

ポイント4 「深い学び」を目指して(授業づくりのポイント)

 本時における「深い学び」とは、文字式を使って説明できることにとどまらず、文字の有用性を実感し、文字式で表現したり、その意味を読み取ったりする「見方・考え方」を働かせながら、今後の学びに向けて文字を積極的に使っていこうとする態度が育まれたかである。

 このように、ねらいの達成は当然のことながら、本時で生徒のどのような資質・能力が育まれるのか、そこまで踏み込んだ授業のトータルデザイン(「何を学ぶか:授業のねらいも含めた三年間の教育課程づくり」「どのように学ぶか:数学的活動を含めた授業や指導の改善・充実」「何ができるようになるか:目指す資質・能力」等)を考えていくことが、数学の「深い学び」に向けた授業づくりにつながっていく。

(北海道算数数学教育会中学校部会第五ブロック 札幌市立向陵中学校 主幹教諭 斉藤康夫)

※次回は北海道学校体育研究連盟「課題解決授業のポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2017-12-27付)

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