【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.18体育科・中学校編 北海道学校体育研究連盟(小野寺正委員長)「武道(柔道)授業のポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-01-12付)

伝えたい第18回体研連2回目①
右足を後方へ移動し、重心を左足へ

◆学びに見通しもち他者との協働を

ポイント1 保健体育科で身に付けさせる資質・能力を明確にする

 資質・能力を身に付けさせるための学習過程の質的改善の方法として、主体的・対話的で深い学びが、新学習指導要領において示された。

 保健体育科においても、これまでの教師からの一方的な教え込みによる授業スタイルから、生徒自身が学びに見通しをもったり、積極的に他者と協働して学習課題を解決したりすることを通して、資質・能力を身に付けることが求められている。

 今回は第二学年の武道(柔道)の実践から、主体的・対話的で深い学びを通して、思考力・判断力・表現力等の育成を目指す一例を紹介する。

第二学年の単元目標:男女共習 カッコ内は第1学年で取り上げた目標

【知識及び技能】(武道の特性や成り立ち、伝統的な考え方)技の名称や行い方(関連して高まる体力など)を理解するとともに、相手の動きに応じた基本動作や基本となる技を用いて投げたり抑えたりするなどの簡易な攻防を展開すること。

【思考力、判断力、表現力等】攻防などの自己の課題を発見し、合理的な解決に向けて運動の取り組み方を工夫するとともに、自己の考えたことを他者に伝えること。

【学びに向かう力、人間性等】(柔道に積極的に取り組むとともに、相手を尊重し、伝統的な行動の仕方を守ろうとすること)分担した役割を果たそうとすること、一人一人の違いに応じた課題や挑戦を認めようとすることなどや、禁じ技を用いないなど健康・安全に気を配ること。

(北海道教育大学附属札幌中学校の年間計画)

ポイント2 主体的な学びを生む学習課題の共有化

学習課題の共有化は、保健体育科における主体的な学びに不可欠である。

 学習課題の共有化とは、学級全員で学習課題を確認することではなく、生徒自らが「解決したい」と思う学習課題を教師が意図的に設定することであると考える。

 授業の例を紹介する。本時の目標を「重心を左足に移す受の動きに応じて、取は体落としに必要な動きを工夫することができる」(思考力、判断力、表現力等)としたとき、自ら(取)の進退動作により、相手(受)を真後ろや左後ろ隅に崩し、相手が体勢を立て直す動きに合わせて体さばきを行うという、相手の動きや力を利用した動きの工夫を目指すものである。

 本時までは基本となる技の習得のために、取は受の全面的な協力を得て技の精度を高めてきたが、本時は取が初めて受の協力しない状態を経験する。この受の動きは、自由練習やごく簡単な試合など、互いに組み合って共に技を掛け合う柔道の特質を考えると、柔道の本来の動きとなる。この経験を利用し、今までと条件や状況が変わることで、これまでできた技の困難性が高まり、どうにか解決したいという思いをもつこととなる。

具体的には、教師が受となり、生徒(取)が右組みで体落としをかける様子を学級全体で観察する。そして、生徒(取)が技をかけた瞬間に、教師(受)が体落としの支点である右足を後方へ移動し、重心を左足へ移動する。生徒はこのような動き(攻防)は、投げ技においてこれまでには全く経験していない。これまで自信をもって取り組んできた技が、条件が変わることでできなくなった状況から「左足に重心がある相手に技をかけるにはどうしたらよいか」という学習課題を生むことができる。

ポイント3 対話的で深い学びを生む仮説の設定と検証

 学習課題を解決するための仮設の設定と検証が、対話的で深い学びの一助となる。

 仮説の設定は単に想像的に生み出すものもあるが、ここで目指しているのは、これまでに身に付けた八方向の崩しの知識や、抑え込みでの攻防の知識、体落としの技能の活用である。加えて、受の立場の心理や動きを捉えることで、崩したい方向の反対に力を加えることで、体勢を立て直す相手の動きを利用することができるという仮説を立てることができる。

 本時では、これまでに身に付けた知識及び技能を活用して思考・判断・表現することを目指しているが、動き方の工夫という思考・判断・表現を通して、体落としに関する知識及び技能を深め、仲間と分担した役割を果たそうとする学びに向かう力、人間性等の育成も期待するものである。

 仮説の設定は個人で行うことが大切である。グループなど複数の生徒で検討すると、運動の得意な生徒の考えに頼ってしまい、主体的な考えを生み出すことができないことが多いからである。自らの考えを明確にするからこそ、他者と検証することができる。生徒は、自ら立てた仮説を一つずつ仲間と検証していく。この検証により、自分の考えに自信をもったり、新たな考えに気付いたりするなど、自らの考えを広げる対話的な学びとなる。

 仮説の検証は「取」「受」「観察」の役割を3人1組で行う。役割を交代しながら、相手の動きに応じた進退動作、崩しと体さばきの探究活動を協働的に行う。検証の結果、有効であると判断した方法を学級全体で共有し、有効性の検証を図り、個人で再検証を行う。これら、個人による仮説の設定、三人一組の取・受・観察の役割を交代しながらの協働的な探究活動、学級全体での有効性の検証による一連の学習活動により、知識及び技能を相互に関連付けて理解したり、学習課題の解決方法を考えたりするなどの深い学びへとつなげることができる。

(北海道学校体育研究連盟中学校研究部長 北海道教育大学附属札幌中学校 教諭 髙橋正年)

※次回は北海道特別活動研究会「学級活動 実践のポイント(上)」を掲載します。

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伝えたい第18回体研連2回目②
受が協力した場合

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-01-12付)

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