【新春インタビュー 4種校長会長に聞く③】「協働」に重点置き活動推進 道高校長協会会長 川口淳氏(関係団体 2018-01-12付)
道高校長協会会長 川口淳氏
―道高校長協会としての新年展望をお聞かせください。
最近、毎日のように新聞やテレビなどで「AI」という言葉を目にします。技術も日々進歩し、様々な分野で研究や開発が進められており、フィクションの世界であったことが徐々にリアルになってきているように感じられます。また、インターネットの普及によって、情報伝達の媒体は一層多様化し、得られる情報の種類や量は確実に増加しています。さらに、少子化や人口減少が急速に進むことに伴い、生産年齢人口の減少や高齢化が進行しており、将来どのような社会になるのかを見通すことが難しくなってきているように思います。
こうした中、よりよい社会の創造に向けて、子どもたちが、社会での役割を担い、社会の中で活躍し、社会に貢献していけるよう支援していくことが教育に求められている使命であると考えています。二〇三〇年を見据え、子どもたちがそのために必要な資質・能力を身に付けることが重要であり、その基盤となる「学力の三要素」を、これまで学校教育が重視してきた知・徳・体のバランスのとれた教育活動の中で育むことが大切です。
必要な資質・能力の一つとして「情報活用能力」が挙げられます。今日の情報化社会においては、ICTの活用によってプログラミングなどのスキルを習得するほか、数多くの情報の中から必要な情報を選択し、主体的にそれらの情報を活用し、問題を発見し解決したり、新たな価値を生み出したりすることが重要になってくると考えています。また、AIについても、データの客観的な処理・分析や様々な分野での最適化問題の解決など、多様な活用が期待されており、情報技術の進化への対応のほか、人間が世界や未来を見据え、どのような目的で、どのように活用して、どのような社会をつくっていくのかを、必要な情報をもとにして考えていくことが重要になってくると考えています。
もう一つ、知識基盤社会で必要とされる「言語能力の育成」が挙げられます。言語能力は、本年度中に改訂される高校学習指導要領におけるキーワードの一つであり、学校教育におけるすべての教育活動で共通することとして、言語の果たす役割は大きいと感じています。学習活動において、学ぶことに興味・関心をもって主体的に学習し、様々な価値観をもつ人との対話や自己の思考によって視野を広げ、探究的な活動によって自己の理解や考えを深めるなど、「主体的・対話的で深い学び」が推進されるためには必要な能力です。また、読書活動の推進においても、物事を様々な視点から考え、信じることと疑うことを判断していく、批判的思考力を養うためには必要です。道教委が実施した「二十八年度道高校学習状況等調査」の結果では、高校一年生で平日に、全くあるいはほとんど読書をしない割合が五割を超えており、読書活動の推進が大きな課題となっています。
今後、各学校においてカリキュラム・マネジメントを考えていくことになります。その三つの側面である、教科等横断的な視点での教育内容の組織的な配列、教育内容の質の向上に向けたPDCAサイクルの確立、教育内容と教育活動に必要な人的・物的資源等の活用が重要です。その上で大切なことは、学習指導の工夫改善を図ることです。そのために、例えば、言語能力の育成に向けて、「言語活動の充実」を共通テーマとして、各教科等の月別の指導計画を立てたり、教科を超えた授業参観や研究授業を行ったりすることが考えられます。また、学習評価について、観点別学習状況の評価のほか、パフォーマンス評価やポートフォリオ評価などによって適切に行うことが大切です。
―道高校長協会の抱える課題と対策についてお伺いします。
来年度から「北海道総合教育大綱」や「これからの高校づくりに関する指針」に基づく施策等が実施されます。どちらも地域との連携は重要な柱の一つになっています。学校と地域が連携を図ることによって、子どもたちが社会とのつながりの中で成長していくことが重要です。各学校では、ホームページや学校だよりなどによる教育活動の紹介、地域の行事やボランティア活動への参加、学校外の評価の実施など、地域との連携を図っています。今後も、学校が、教育活動における地域の教育力の活用や地域への積極的な貢献、地域の関係機関などとのネットワークによる子どもたちの教育活動の支援、人々が学び人々をつなぐ地域の教育機関の場などの役割を担い、地域との双方向による関係づくりをしていく必要があります。その際、地域の活性化や将来を担う人材の育成という観点のほか、教育的な効果という観点に立って、子どもたちが社会とかかわりながら様々な教育活動に取り組めるよう、支えていくことが大切であると考えています。
また、高大接続改革への対応が必要です。三十一年度から「高校生のための学びの基礎診断」が高校教育の質の確保・向上のため、基礎学力の確実な習得と学習意欲の喚起をねらいとして、試行実施されます。また、三十二年度から、現在のセンター試験に代わる「大学入学共通テスト」が実施されます。国語と数学で記述式が導入され、これまでの知識・技能を中心とした評価だけではなく、思考力・判断力・表現力の評価を重視することとしています。英語では、四技能が適切に評価されることになります。実施方針や試行調査などを参考にして、対策を講じていく必要があります。
本協会の喫緊の課題として、後継者の育成・養成が挙げられます。特に、教頭昇任候補者の確保は大きな課題ととらえています。各学校では、部長や主任の教諭を中心に、ミドルリーダーの育成に努めていますが、後継者の確保は年々厳しい状況になっています。今後、管理職を発掘するための環境の整備に努めていく必要があります。本協会としても、毎年三月に実施している採用校長研修に加え、本年から、教頭・副校長会と連携し、昇任教頭研修を実施することとしました。今後も、人材の発掘や育成に努めていきたいと考えています。
―新年度の重点事項をお聞かせください。
本年度、本協会では重点目標を設定し、教育課題、経営課題、協会運営の三つの視点でそれぞれ四項目を挙げています。新年度では、この重点目標の実現に向けて、様々な活動を推進していきたいと考えています。特に、その中の協会運営について取り上げてみます。
一つ目は、本協会の協働体制の構築です。各学校では、教育改革や学校が抱える個別の課題に適切に対応していかなければなりません。校内で組織的・計画的に取り組むことが重要ですが、校長先生方のネットワークを大切にし、様々な情報を共有することが解決の一助となる場合もあると考えています。本年度は、支部長研究協議会や各支部の校長会等の充実を図っていくように努めたところです。今後も、様々な情報を共有し、課題について協議を深めていくことができるよう、研究協議の一層の充実を図っていきたいと考えています。
二つ目は、調査・研究の充実です。本年度、調査研究部では組織を見直して、進路指導委員会の中に高大接続小委員会を設置し、高大接続システム改革に対応した学校経営の在り方について調査・研究を行いました。すべての高校を対象とした「高校生のための学びの基礎診断」や「大学入学共通テスト」に関するアンケート調査、約六百人の高校生を対象とした大学等の進路選択に関する意識調査のほか、道内の大学に協力いただき、高校と大学との意見交換会を実施しました。また、教育課程委員会では、カリキュラム・マネジメントの在り方に関する調査・研究を行っています。今後とも、教育改革の動向などに応じて、調査・研究を推進していきたいと考えています。
三つ目は、コンプライアンスの確立です。教職員による不祥事が依然としてなくならないことや、学校が抱える課題が複雑になり長期化する場合があることなどから、本年度、本協会にコンプライアンス推進委員会を設置しました。委員会では、不祥事の防止や危機管理能力の向上を図るため、学校における研修等の参考となる資料を作成しています。資料には、リスクマネジメントやクライシスマネジメントの在り方、事故等が発生したときの具体的な対応例などが盛り込まれています。演習形式にしていますので、各学校での研修等での参考にしていただきたいと考えています。
四つ目は、本協会の創立七十周年です。新年度、本協会が創立して七十年の節目を迎えます。これまで先輩の校長先生方が築いてこられた歴史を顧みながら、本協会が直面する様々な課題に向き合っていきたいと考えています。
社会が激しく変化し、教育を取り巻く環境が大きく変わってきている中、人々の価値観が多様化しており、人と人のつながりの大切さをあらためて感じています。本協会としては、今後も「協働」ということに重点を置いて、様々な活動に取り組んでまいります。
(かわぐち・じゅん)
昭和58年筑波大学大学院修了。平成19年野幌高教頭、21年道教委新しい高校づくり推進室主幹、22年道教委高校教育課主幹、23年美唄尚栄高校長、25年道立教育研究所研究・相談部長、27年岩見沢緑陵高校長を経て、28年から札幌南高校長。
昭和34年1月16日生まれ、58歳。旭川市出身。
(関係団体 2018-01-12付)
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