【新春インタビュー 4種校長会長に聞く④】共生社会形成へ相互理解を 道特別支援学校長会会長 宮崎真彰氏(関係団体 2018-01-15付)
道特支学校長会会長 宮崎真彰氏
―校長会として新年の展望をお聞かせください。
学習指導要領が改訂されました。各校においては、順次の実施に向けて、教育課程の整備を進めていますが、今改訂を特別支援教育の視点でとらえると、共生社会の形成に向けた第二弾とも言えます。
学習指導要領の変遷を振り返ると、前回の二十一年度改訂の背景には、学校教育法が一部改正され、特殊教育から特別支援教育への歴史的転換がありました。十九年に通知された特別支援教育の推進について(文科初第一二五号)には、つぎのことが記されています。「特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものであり、わが国の現在および将来の社会にとって重要な意味を持っている」。まさに、共生社会に向けた大きな一歩だったと思います。
このことによって、幼小中高の通常学級においても、特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対して特別支援教育を実施するとして制度化が図られるとともに、校内委員会の設置や特別支援教育コーディネーターの指名が進められ、計画的・組織的に取り組むことが重要とされました。学習指導要領には、特別支援学校等との連携や個別の指導計画の作成、個別の教育支援計画の策定が明示されています。
今改訂の背景には、中央教育審議会初等中等教育分科会「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育の推進」の報告や障害者差別解消法の策定、障害者権利条約の批准がうかがえます。
大きくは、学びの連続性を重視した対応があります。知的障がいのある児童生徒のための各教科等の目標や内容について、育成を目指す資質・能力の三つの柱に基づき整理されるとともに、幼小中の各教科等とのつながりが図られています。
改訂の視点を言い換えると、前回は「特別支援教育は、すべての学校、すべての教員の使命である」として幼小中高に意識改革を促し、今改訂では、特別支援学校に、学びのつながりを通して共生社会の形成に向けた改善・充実が求められていると理解しています。
三十年度からは、高校における通級指導の制度運用もスタートします。特別支援学校には、一層のセンター的機能が求められていくことになりますので、小中高の各校長会と連携するとともに、各校においては専門性の向上を図っていきたいと思います。
―校長会の抱える課題と対策を伺います。
二十九年度の本道の国公私立を合わせた特別支援学校は七十二校となりました。
幼児児童生徒数は前年度より百四十五人の増、本務教員数は百人ほどの増となっています。
これら就学者数も教員数も増え続ける中にあって、特別支援学校は定年退職に伴う大幅な交代期にあります。校長会としては、ミドルリーダー、管理職などの育成が大きな課題と認識しており、複数の支部において、各学校のミドルリーダー層を対象とした教育課程セミナーを主催しています。本年一月の石狩支部におけるセミナーでは百人ほどの参加が予定されるなど、参加者が年々増加しています。
専門性の継承・向上については、各障がい種を中心に、教育実践を通して進めています。
まず、視覚障がい教育についてですが、四校がそれぞれ道央、道南、道東、道北の各圏域における視覚障がい教育のセンターとしての役割を担っています。学習指導では、幼児児童生徒一人ひとりの見え方や発達段階等の実態に応じて拡大や触察などの教材教具の作成を工夫したり、学習環境の配慮やICT機器を活用したりして指導するなど、教職員の資質と専門性の向上が求められています。そのため、毎年開催している「道視覚障害教育研究大会(道視研)」では、各教科、自立活動、生活指導等にかかわる事例研究や協議を行い、本道の視覚障がい教育の発展、充実に努めています。また、年明け早々に、第五十九回弱視教育全国大会北海道大会が札幌において開催され、全国の視覚障がい教育(主に弱視教育)に携わる教育関係者が集い、研究発表と協議、情報交換などを通して、さらなる専門性の向上に努めます。
つぎに、聴覚障がい教育についてです。七校の在籍数は、現状維持から減少傾向にありますが、幼児児童生徒の進学や就労を見据え、学力向上に重点を置いて取り組んでいます。また、多様なコミュニケーション手段を活用した聴覚障がい教育の専門性や教科指導にかかわる教職員研修に力を入れています。近年急増している人工内耳装用児や重複障がいに対応した効果的な指導、乳幼児療育事業をはじめとする早期教育、地域の聴覚障がいに関する専門的な教育相談・支援センターとしての役割等を一層充実させていきます。
つぎに、知的障がい教育です。新学習指導要領への対応として、各校の現状や課題、動向等を意識した取組・実践、今後の展望などについて情報の共有を図っています。また、高等部入学者選考検査の在り方が変わることから、生徒一人ひとりの学びの内容や学び方に対応していくための教育課程の改訂も引き続き進めているところです。次年度には「普通科Ⅰ型」が道北圏の高等支援学校にも設置されることから、その特長を生かした教育課程の充実を図るとともに、今後の学科展開の在り方を検証していくことが重要になります。これらのためにも、カリキュラム・マネジメントを促進させ、専門性の向上を図っていきたいと考えています。
つぎに、肢体不自由教育です。二つの研修会を行っており、道肢体不自由教育研究大会(北肢研)では、各校の校内研究のポスター発表や分科会協議、講演を通じて新学習指導要領のもとでの教育課程改善・充実の方向性を学び、その理解を広げることに取り組んでいます。肢体不自由教育専門性向上セミナーでは、昨年に続き、各教科等の基礎となる認知学習の演習を通して授業づくりを支援するとともに、摂食指導についての講演も行い好評でした。在籍生の障がいが重度・重複化、多様化していることから、高度な医療的ケアに対応する校内体制の整備や摂食指導技術の向上、食環境の整備等が課題となっており、今後も二つの研修会を核に学校力と教員個々の実践力の向上に努めていきます。また、肢体不自由・病弱校長会は年二回、副校長・教頭会と合同の研究協議会を開催しており、各校の課題の共有化を図るとともに病弱教育校の再編と管理職の大幅交代期を踏まえ、つぎの時代につなぐ「肢体不自由教育および病弱教育ビジョン」の策定に取り組んでいます。
つぎに、病弱教育です。全国病弱虚弱教育研究連盟が中心となり「病類調査」を隔年で実施しております。本年度がその調査の年に当たっており、年度末には調査結果がまとめられます。前回調査では、小学(部)校二百十七人、中学(部)校百二十九人、高等部六十五人が受けており、小・中学校においては、そのほとんどが特別支援学級で、高等部においては、全道で四つある病弱教育校(現在は三校)で学んでいます。北海道という広域性を考え、ICT機器、TV会議、WEB等の活用を視野に入れ、病弱虚弱教育を主とする特別支援学校のセンター的機能のますますの充実に努めていきます。
―新年度の重点的取組をお聞かせください。
共生社会の形成を志向した児童生徒の地域活動が着実に広がっています。特別支援学校と高校との実習を通した交流や合同ボランティア、製品開発。校内食堂や喫茶スペースでの接客を通した地域交流。作業製品の受注や寄贈。ネット回線でつないだ全国各校との遠隔授業やラジオ放送による地域紹介など、学校のみならず、児童生徒が地域コミュニティを支える心強い存在になっています。全国高校写真選手権大会(写真甲子園)では、岩見沢高等養護学校が準優勝と「選手が選ぶ特別賞」に輝きました。生徒たちにとっては仲間たちに選ばれたことが何よりの喜びだったことと思います。
インクルーシブ教育システムや多様な学びの場の整備を進めていく上で、障がいのある子どもと障がいのない子どもが相互に理解を深めるための「障がい者理解(心のバリアフリー)」の促進は重要です。今後も、地域をつくる同世代の仲間や地域の人たちとともに、教育活動を充実させていきたいと思います。
また、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックの開催まで一千日を切りました。大会の機運が日ごとに高まっていくことと思います。交流および共同学習においても、パラリンピック競技を実施するなどして、レガシーにつなげていきたいと思います。
―最後に一言お願いします。
道教委から、三十年度からおおむね五年間の基本的な考え方と施策の方向性を示す「特別支援教育に関する基本方針」(改訂版)の素案が出されましたが、本会としても特別支援教育の質の向上に向け、道教委と一丸となって取組を進めていきたいと考えています。
(みやざき・まさあき)
昭和57年宮城教育大特殊教育特別専攻科修了。平成22年標津高校長、25年千歳高等支援校長を経て、27年から真駒内養護校長。
昭和33年11月8日生まれ、59歳。網走市出身。
(シリーズ終わり)
(関係団体 2018-01-15付)
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