本道支えるたくましい人材を 道教委の30年度教育行政執行方針
(道・道教委 2018-02-22付)

 二十一日の一定道議会本会議で、道教委の柴田達夫教育長が説明した三十年度教育行政執行方針の概要はつぎのとおり。

【はじめに】

 本道が「北海道」と命名されて百五十年という節目の中、この地に生きる私たちには、先人が積み重ねた歴史を振り返り、その偉業に感謝しながら、託された貴重な財産を受け継ぐとともに、新しい価値を創造し、この先の未来に引き継いでいく責務がある。

 一方で、これからの社会は、IoTやビッグデータ、人工知能をはじめとする急速な技術革新や、グローバル化の一層の進展などによって、大きく変化することが予想されている。次代を担う子どもたちには、こうした社会の変化に主体的に向き合いながら、自らの可能性を発揮し、未来を切り拓く力を身に付けていくことが求められている。

 道教委は、子どもたちがふるさとへの誇りと愛着をもち、世界に視野を広げ、多様性を尊重し、ともに支え合いながら、将来の北海道を支えるたくましい人材に育っていくことができるよう、本道教育の基本理念や目標、施策の方向性等を定めた新しい教育計画のもとで、道民の皆さんの理解と協力を得ながら、本道教育の充実・発展に向けて取り組んでいく。

【教育行政に臨む基本姿勢】

 こうした認識のもと、教育行政の執行に臨む基本姿勢を申し上げる。

 本道教育においては、社会の変化に対応し、子どもたちの学力・体力の向上、望ましい生活習慣の定着、いじめや不登校への対応、安全・安心な教育環境の整備、さらには、北海道百五十年を踏まえ、本道の歴史や文化、芸術等への理解を深める取組を推進することが重要である。

 道教委は、その実現に向けて、学校・家庭・地域との緊密な連携を図りながら、効果的な施策を展開していく。

【重点政策の展開】

 三十年度において、重点的に取り組む政策を申し上げる。

▼社会で活きる力の育成

 第一は「社会で活きる力の育成」について。

 子どもたちが、これからの時代を生き抜く力を身に付けるためには、各学校がよりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという目標を社会と共有し、必要な資質や能力を、社会との連携・協働によって育成する「社会に開かれた教育課程」の理念を踏まえ、「主体的・対話的で深い学び」の視点に基づく授業改善を進めるとともに、教育効果を高める「カリキュラム・マネジメント」を実践することが重要である。

 このため、義務教育においては、全国学力・学習状況調査やチャレンジテストなどを活用しながら、学力や学習状況の把握・分析と、指導方法の改善を検証改善サイクルとして確立し、学校全体で組織的な取組を推進する「ほっかいどう学力向上推進事業」を実施するほか、学校力向上に関する総合実践事業などによる成果の普及を図る。

 高校教育においては、国の高大接続改革の方向性を見据え、教科等横断的な視点からの教育課程の編成・実施のほか、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた実践研究の成果の普及や教員研修の一層の充実を図る。

 特別支援教育においては、共生社会の形成に向けて、障がいのある子どもと障がいのない子どもがともに学ぶインクルーシブ教育システムの理念を踏まえ、特別な支援を必要とする子どもたちに、切れ目のない一貫した教育が行われるよう、一人ひとりの教育的ニーズに応じた指導や支援の充実を図るとともに、学校と家庭、地域、関係機関などによる連携体制の整備を進める。

 幼児教育においては、幼稚園・保育所・認定こども園における教育のさらなる質の向上や、小学校教育との円滑な接続を進めるため、知事部局や関係団体と連携しながら、研修機会の拡充や専門家による助言など必要な施策や体制整備の在り方について検討を進め、本道における幼児教育の一層の充実を図る。

 英語教育については、小学校における英語の教科化に向けて、英語担当教員の巡回指導に加え、留学生や外国語指導助手との英会話を体験する「小学校英語力向上支援事業」を実施するとともに、中学生が地域の外国人などとの英会話にチャレンジする取組の拡大を図るほか、高校における活用場面を想定した実践的な調査研究に取り組むなど、子どもたちが英語で日常的なコミュニケーションができる力を身に付けることができるよう施策の充実を図る。

 併せて、高校生を対象とした「グローバル人材育成キャンプ」や、ICTを活用し海外の高校生などと交流を行う「U―18未来フォーラム」を開催するほか、カナダ・アルバータ州に加え、新たにアメリカ・ハワイ州との交換留学を実施するとともに、道内大学の留学生と高校生との相互交流を促進する。

 教育の情報化については、「北海道における教育の情報化推進指針」を踏まえ、先進的な実践事例の普及など、ICTを活用した学習活動等の促進を通して、情報活用能力を育むとともに、小学校でのプログラミング教育の円滑な導入に向けた研修会を開催し、教員の指導力の向上を図る。

 産業教育やキャリア教育について、小・中学校では、望ましい勤労観や職業観を育む教育の充実を図るほか、高校では、知事部局と連携し、技術革新が進む基幹産業等の体験的な学習機会を提供するとともに、GAP認証の取得といった実践的な教育活動や、地域課題の解決をテーマとする実践研究などに取り組む「北海道ふるさと・みらい創生推進事業」を実施する。

▼豊かな人間性と健やかな体の育成

 第二は「豊かな人間性と健やかな体の育成」について。

 子どもたちの健やかな成長のためには、豊かな情操や道徳心、正義感、責任感、規範意識、他者への思いやりや自己肯定感などを育むとともに、充実した人生を送るための基盤となる健康の保持増進や体力の向上が重要である。

 このため、ふるさとへの理解と、その発展に貢献しようとする意欲や態度の育成に向けて、本道の自然や文化、観光、産業などの教育資源を活用した学習や、北方領土やアイヌの人たちの歴史や文化等に関する学習の充実を図るとともに、地域に伝わる民俗芸能に親しむ機会を提供する「ほっかいどう民俗芸能振興事業」を実施する。

 特に、七月には「北海道みんなの日」を中心に、本道にゆかりのある偉人を題材とした北海道版道徳教材『きた ものがたり』などを活用し、地域の歴史や文化等を学ぶ授業を実施するなど、各学校において、ふるさと教育が積極的に展開されるよう、市町村やPTA団体などとも連携しながら取組を進める。

 また、特別の教科となる「道徳」が各学校で円滑に実施されるよう、指導方法等に関する研修会を開催するとともに、道徳教材『きた ものがたり』の効果的な活用を促進する。

 読書活動については、あらゆる機会と場所において自主的に取り組むことができるよう、「北海道子どもの読書活動推進計画」を策定し、社会全体で子どもの読書活動の推進を図るとともに、そのための環境整備を進める。

 いじめの防止や不登校児童生徒への支援については、改定した「北海道いじめ防止基本方針」の周知徹底を図り、各学校において、望ましい人間関係の醸成はもとより、いじめ等の未然防止と適切な実態把握による早期発見を基本として、組織的かつ迅速な対応が図られるよう取り組む。

 併せて、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーのほか、弁護士や医師などの専門家を派遣するなど、学校を支援する体制の充実を図る。

 子どもたちがネットトラブルの被害者や加害者にならないよう、保護者用啓発資料の作成などを通して、インターネット利用についての家庭のルールづくりを促進するほか、SNSを活用した新たな相談体制の構築に取り組む。

 子どもたちの体力向上に向けて、体育の授業改善や運動プログラムの開発に加え、学校・家庭・地域・行政の連携によって、運動意欲の向上に向けた実践研究などを行う「運動習慣形成プロジェクト」を実施し、成果の普及を図る。

 食に関する正しい知識と望ましい食習慣の定着に向けて食育の推進に取り組むとともに、安心して学校生活を送ることができるよう、食物アレルギーへの対応の一層の充実を図る。

▼学びを支える家庭・地域との連携・協働

 第三は「学びを支える家庭・地域との連携・協働」について。

 子どもたちが様々な人々とかかわり、多様な経験を重ねながら、たくましく成長していくためには、学校はもとより、家庭や地域社会が教育の場として十分な機能を発揮することが重要である。

 このため、子育てや家庭教育については、それぞれの地域で保護者が相談や交流を行うことができるよう、関係機関による相談体制の充実・強化を図る。

 また、PTAや関係機関等と協働し、「どさんこアウトメディアプロジェクト」など、インターネット利用も含めた望ましい生活習慣の定着に向けた取組を展開することによって、家庭や地域の教育力の向上に取り組む。

 地域全体で子どもたちの成長を支えることができるよう、学校運営の改善・充実や、地域づくりにも有効な「コミュニティ・スクール」の導入を促進するとともに、地域の方々の幅広い参画による「地域学校協働活動」を推進するなど、学校と地域の連携・協働を促進する。

 家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが安心して学習を進められるよう、高校等の授業料などの負担軽減や、地域で学習支援を行う「子ども未来塾」の拡充に取り組むとともに、知事部局と連携し、各種支援情報の提供に努める。

 併せて、義務教育段階の教育を十分に受けていない方々などに対する教育機会の確保に向け、知事部局や市町村、民間団体などによる協議会において、本道における夜間中学の在り方などを検討する。

▼学びをつなぐ学校づくりの実現

 第四は「学びをつなぐ学校づくりの実現」について。

 学校が保護者や地域住民の期待に応え、子どもたち一人ひとりの力を最大限に伸ばすためには、幼稚園・小学校・中学校・高校の各学校段階間の連携・接続を図りながら、管理職がリーダーシップを発揮して学校運営に当たるとともに、教職員がそれぞれの力を発揮できる環境づくりが重要である。

 このため、教員が子どもと向き合う時間の確保に向けて、学校における働き方改革を推進するためのアクションプランを策定し、業務改善の推進や管理職のマネジメント研修の充実に加え、新たに部活動指導員やスクール・サポート・スタッフを配置するなどして、持続可能な学校運営体制の整備を進める。

 教員の指導力の向上については、採用段階や採用後の各キャリアステージに応じて身に付けるべき資質・能力を明らかにした「教員育成指標」に基づき、体系的かつ効果的な教員研修を実施するなど、教員養成大学と連携しながら、養成・採用・研修を通じた一体的な改革を進める。

 教職員の不祥事の根絶に向けて、服務に関する研修資料を効果的に活用し、職場研修や個人面談の一層の充実を図る。

 また、特色ある高校づくりについては、社会の急速な変化や、生徒の興味・関心、進路希望等の多様化、中学校卒業者数の減少などに対応し、教育機能の維持向上を図るため、これからの高校づくりに関する指針を策定し、適切な高校配置に努めるとともに、地域の特性を生かした活力と魅力のある高校づくりを進める。

 併せて、広域な本道の地理的特性を踏まえ、ICT機器を活用した遠隔授業や遠隔研修を実施し、小規模校の教育環境の充実や教職員の資質・能力の向上を図る。

 小中一貫教育については、九年間の系統的・継続的な教育を行うための教育課程の編成・実施に向けた調査研究や、導入校における実践事例の普及などを通して、地域の実情に応じた導入への取組を支援する。

 学校の安全確保については、地震や津波、豪雨による河川の氾濫など、自然災害から身を守るために必要な知識や能力等の育成に向けて、地域と連携した防災教育の一層の充実を図る。

▼学びを活かす地域社会の実現

 第五は「学びを活かす地域社会の実現」について。

 道民の潤いのある生活と活力ある地域づくりを推進するためには、生涯を通じて積極的に学び、その成果を生かせる環境をつくることが重要である。

 このため、公民館等の機能を活用し、学生や地域住民、地元市町村、関係機関が協働して主体的に地域課題の解決を図る取組を支援するとともに、道民に様々な学習機会を提供する「道民カレッジ」の充実を図る。

 また、本道の歴史や文化、アイヌの人たちの生活などを記録したデジタル映像資料を、学校におけるふるさと教育や、市町村等における地域講座などに広く活用する取組を進める。

 文化の振興については、アイヌ民俗文化財の保存・伝承活動の支援や北東北と連携した縄文遺跡群の世界遺産登録に向けた取組など、文化財の保存と活用を進めるとともに、日本遺産の認定に向けた取組を促進する。

 併せて、道立美術館と地域の美術館や文化施設などとのネットワーク化を進め、相互に作品を紹介する展覧会等の開催やそれぞれの施設の魅力を発信することによって、本道全体をアートの舞台とする「アートギャラリー北海道」の取組を展開する。

 以上、三十年度に取り組む重点政策を申し上げた。

【むすび】

 北海道が人口減少等の課題を乗り越え、地域創生を実現するためには、人材育成を担う教育の役割が重要である。

 道教委としては、次代を担う子どもたちが様々な社会変化にも果敢に挑戦し、北海道の輝く未来を築き、幸福な人生を歩んでいくことができるよう、学校・家庭・地域・行政との緊密な連携のもと、一丸となって本道教育の充実・発展に取り組んでいく。

 道民の皆さん、道議会議員の皆さんの理解と協力を心からお願い申し上げる。

(道・道教委 2018-02-22付)

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