【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.47小学校家庭科編①北海道小学校家庭科教育連盟(新岡惠会長)「新しい家庭科学習指導のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-26付)
スーパーのチラシから子どもたちが自分の作りたい料理の食材を考える場面
◆課題探究型学習で深い学びへ
ポイント1 改訂の内容をおさえる
今回の改訂では、家族や家庭生活の多様化をふまえ、これからの社会の変化に子どもたちが主体的に対応できるように、目標や内容の改善が図られている。各教科等の「ものの見方・考え方」については、家庭科では「衣食住などの営みに関するものの見方・考え方」である。健康・快適・安全、協力・協働、生活文化の継承・創造、持続可能な社会の構築などの視点である。内容の改善を次に示す。
(1)小・中学校の系統性の明確化 小・中学校共に「A家族や家庭生活」「B衣食住の生活」「C消費生活・環境」に関する三つの枠組みに整理し、各内容及び各項目の指導が系統的に行うことができるようにした。
(2)空間軸と時間軸の視点からの学習対象の明確化 空間軸の視点では、家庭、地域、社会という空間的な広がり、時間軸の視点では、これまでの生活、現在の生活、これからの生活を見通した時間的な広がりを小・中・高等学校の学校段階で整理した。小学校は、空間軸が主に自己及び家族・地域を、時間軸は、現在及びこれまでの生活を視点としている。
注目すべき1点目は小中の枠組みである。小・中学校が同じになったことで、より強い連携が求められていることが分かる。指導者は、2年間・5年間を見通した教育課程を編成する必要がある。
(3)一部の題材指定 ①加熱調理が適切にできるようにするために、ゆでる食材として青菜とジャガイモなどを扱う。②布を用いた製作において大切なゆとりや縫いしろの必要性を理解するために、袋物の製作を扱う。
(4)新たな内容項目を設置、内容の見直し 「A家族や家庭生活」では、「家族・家庭生活についての課題と実践」が新設され、地域の人々との関わりが重視され、幼児又は低学年の児童、高齢者など異なる世代の人々との関わりについても扱うことにしている。「B衣食住の生活」では「住まいの働き」、「季節に合わせた住まい方」では新たに「音」を扱うこととした。「C消費生活・環境」では消費者の役割を新たな内容として扱う。
大切にしたいことは、「この題材で何を身に付けさせるのか」という事である。例えば、ほうれん草をゆでる時、指導者が「ほうれん草のおひたしのレシピを教えるのだ」ととらえてしまうと、ものの見方・考え方を広げるのは難しい。ゆでることによって、温かくなったり、柔らかくなったり、色鮮やかになったり、かさが減ったり、あくが出たりする。調理によって食品がどのように変化をし、健康やおいしさや団らん等にどのように生かせるのか、という生活に生かすまでを考えさせたい。
ポイント2 課題探究的学習の展開をはかる
平成25年、国立教育政策研究所の学習指導要領実施状況調査「問題解決的学習を取り入れた授業を実施」に肯定的な回答をした教師は5割。算数の9割実施回答に比較し、低い回答である。調理、布を使った製作、身の回りの片付け、物の選び方・買い物。そこに課題意識をもたせないまま活動させることもあるのではないか。算数の指導と同じように家庭科でも課題探究型の学習を展開することで、主体的・対話的で深い学びへと転換できる。
好みのゆで卵をつくるには、何分ゆでたらいいのだろうか、ミシン縫いと手縫いそれぞれにどんな良さがあるだろうか、家庭学習で使用するならどのノートを購入するといいだろうか等、多くの実践例がある。次回以降3回は、課題探究的学習の実践を通して提案する。
家庭科での課題探究は、自分や家族の生活をより快適に豊かにしたいという思いを出発点にする。子どもに強くその願いを抱かせるところが教科指導の難しさであり深さでもある。生活を科学的に見る目をもって豊かなものにしていくのである。
ポイント3 内容を組み合わせた題材計画を構成する
子どもの生活経験が乏しくレディネスが低い実態にもかかわらず、家庭科は指導時数が少ない。小学校5年生60時間、6年生55時間、中学校1・2年生が各35時間、3年生は、技術分野と合わせて35時間である。これまで以上に効率の良い指導が望まれる。
そのために、A、B、Cの内容を組み合わせた題材構成をすることを提案する。「調理と買い物」「家族・家庭生活と片付け」「布を用いた製作と家族・家庭生活」など内容を重ねて指導した例がある。組み合わせて題材を構成することは、効率が良くなるばかりでなく、生活を複合的にとらえられるという点で、ものの見方・考え方を広げることや実生活に生かしやすくなるという良さがある。
ポイント4 留意点のおさえ
①ガイダンスの機を逃さずに
5年生最初の題材に「自分の成長と家族・家庭生活」がある。家庭生活を振り返り家庭や家族の大切さに気付いたり、これから学ぶ家庭科学習を見通してなりたい自分を思い描いたりする学習である。2年間の学習の見通しや振り返りに活用する「ガイダンスシート」を用いるが、機を逃すと意義が半減するため、ぜひ実施したい。
②新学習指導要領への対応
新学習指導要領では、「生活の中の音」に関する学習をする。各学校、騒音計の購入が必要である。児童用タブレット導入校では、騒音計アプリを活用することもできる。
(北海道小学校家庭科教育連盟 研究部長 札幌市立共栄小学校 教諭 渡部まどか)
※次回は、北海道小学校家庭科教育連盟②を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-26付)
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