【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.42道徳科小学校編②北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「道徳科 評価のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-19付)
◆時間軸、考えの広がり・深まりの視点で
◎学校が直面している課題
文部科学省教科調査官等を歴任した赤堀博行氏は、著書「『特別の教科 道徳』で大切なこと」の中で「体もそうであったように、心も一朝一夕に養えるものではありません。けれども、不思議なことに心も体も崩れるのは速いのです。それを、健やかに育んでいくということは、とても難しいのです」と述べている。これは、私たち教員も日々子どもたちに接している中で実感しており、ここに道徳教育や道徳の授業の難しさを感じているところでもある。道徳教科化が迫っている今、子どもたちの人格の基盤となる道徳性は、一朝一夕に養えるものではないからこそ、赤堀氏が述べているように「意図的、計画的、発展的に養うことが必要」であり、その実現のために各学校で準備を進めているはずである。しかし、教科化にあたり、多くの学校が直面している課題が「評価」についてではないだろうか。
◎評価の視点
道徳の評価については、新学習指導要領の「第3章 特別の教科 道徳」に、次のように示されている。
「児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう努める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする」
指導した以上評価は必要だが、子どもの道徳性そのものを評価することはできない。だから、子どもの道徳科の時間における学習の様子を把握し、そこから評価をしようというねらいが読み取れる。評価の視点としては、次の2点がポイントである。
ポイント1 児童の学習状況を把握する
子どもたちの「学習」の「状況」を評価するので、授業中の具体的な姿をもとに評価することであると考えられる。注意したいのは、学習状況とは、目標に対する実現状況や達成状況のことではない。子どもたちがどのように道徳科の示す目標に向かっていこうとしているかである。「道徳的価値がどれくらい定着しているか」ではなく「道徳的価値をどのように習得しようとしているか」という視点をもつことが前提である。
ポイント2 児童の道徳性に係る成長の様子を評価する
子どもの道徳性に関係する成長の様子を見取ることは、一度の授業の中では難しい。子どもがどのような成長の道を歩んでいるかは、過去の様子を参考にするほかない。道徳科の学習を積み重ねることによって、人格の基盤を養う学びにどんな成長が見られるかをとらえ、評価するのである。
このように、評価の際には「授業の中で」「授業を積み重ねる中で」という、2つの時間軸の中で子どもを見つめることができる。道徳科の目標と照らし合わせて、評価のポイントを焦点化したい。
ポイント3 2つの視点の掛け合わせで行う
「第1章総則の第1の2に示す道徳教育の目標に基づき、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」
道徳教育の目標は、子どもたちの道徳性を養うことであり、「道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度」は、道徳性の諸様相である。そのため授業の中で、①道徳的諸価値についての理解を深めること②自己を見つめること③物事を多面的・多角的に考えること④自己の生き方についての考えを深めることをねらうのである。すなわち、この4つが子どもの姿として表れているかが評価の視点となると考えられる。道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議の報告(平成29年7月)のまとめによると、「児童生徒が一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか」「道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか」という2点を重視することが求められている。つまり、子どもの考えに「広がり」や「深まり」が見られるかどうかが、評価の視点になると思われる。
以上のことから、道徳科の評価は「時間軸」と「考えの広がりや深まり」という2つの視点の掛け合わせで行うことができると考えている。
例えば、小学2年生が、「友情、信頼」の授業後のワークシートに、このように書いていた。
「体が小さくても大きくても、なかよくなれたらいいきもちだね。せいちゃんも、ともだちに入れてもらえてほっとしたね。すうちゃんとひいちゃんも、どきどきしたけどがんばったね」
これは、図中のAに当てはまり、多面的・多角的な考えの広がりが授業中の姿に表れていたとして、
「〝きょうから ともだち〟では、新しい友達ができるとどんな素敵なことがあるかを様々な立場で考え、友達と仲良くすることの大切さについて、いろいろな人の考え方や感じ方を理解しようとしていました」
と評価することができる。
道徳科の評価は、人格の基盤である道徳性を養うものとして、子どもたちが意欲的に学習に向かえるように行われなければならない。教師は子どもを多面的にとらえ、充実した評価を子どもに返したい。しかし、そのためには、教師の充実した授業が不可欠である。評価の在り方について考え、それを実現する授業の在り方についても今後考えていきたい。
(札幌市道徳教育研究会 研究副部長 札幌市立栄東小学校 教諭 田澤裕子)
※次回は、道徳科中学校編「道徳科の授業づくり 大切な2つのポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-19付)
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