【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.45中学校社会科歴史的分野編 北海道社会科教育研究会(坪内伸樹会長)「主体的に社会に参画できる生徒 資質・能力育成のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-22付)
◆能動的な話し合いから個の深い学びへ
◎研究のねらい~根拠を明確にし、見える化をはかる
本研究会では、生徒が自らの考えを説明するときに「根拠を明確にすること」を重視している。説明中心の授業では、生徒は教師の話や教科書の内容を深く考えずに理解した気になってしまう危険性がある。
そこで、ポイントになるのが、教師の資料提示の仕方である。生徒が関心を持ち続けることができ、考えを深めることのできる素材を用意しなければならない。「この資料からこのように読み取れるので、僕はこう考えた」「私はこう考える。なぜなら~だからだ」といった自分の考えた根拠をはっきりさせ、それを「見える化」させたい。また、自分の考えを説明した後は、他者の意見に耳を傾けさせることも必要だ。自分とは異なる意見を聞くことで、思考が揺さぶられ、自らの考えが再構築される。以上の2点を踏まえ、日々授業実践に取り組んでいる。
実践例1 「富国強兵をめざして」授業者:札幌市立栄町中学校 鰐渕翔大教諭
ポイント 正解のない問いから意見交流・問題解決へ
明治政府の政策によって生まれた「新しい価値観」について考察させる授業を行った。その際に用いたのが「語句カード」である。それまでの既習知識である「日米修好通商条約」「資本主義」などの語句が書かれたカードを用意し、「地租改正」や「学制」を行った理由を、カードの語句を用いて説明させた。
この活動を通して、生徒は新政府の諸改革をただ事実として暗記するだけではなく、「ヨーロッパと対等な関係を目指した」「中央集権国家を確立しようとした」などのように、改革の意図を読み取ることができる。そしてこれらの判断を材料として、「新しい日本がどのような国を目指したか」という問いに挑むことで、自ら課題を設定し、根拠をもって答えを出すことを目指した。
後半は、日本が目指した国のモデルを考えるために4人グループでの活動を行った。その際に先述の「語句カード」の選択が機能する。既習事項である語句を用いて、政策の理由を説明するという活動では、なぜそのカードを選択したかという思考の過程が重要である。この過程は個人によって異なり、それら他者の意見に耳を傾けることで、新たな気づき、すなわち思考の揺さぶりが発生する。
「協働」とは、ただ単にグループで話し合いをさせるのではなく、「正解のない問い」を自ら立て、その解決に向けて、互いの考えや意見交流をしながら問題解決に向かうというプロセスが重要であると考えている。
実践例2 「産業革命と資本主義の成立」授業者:札幌市立篠路中学校 畑野利典教諭
ポイント 話し合いで役割を与え、最終的に個の学びに
イギリスの産業革命により、社会がどのように変化したかを考察させる授業を行った。ここで言う変化とは単に技術の発達だけではなく、当時の労働における時間の概念を大きく変えたことや、生産活動による環境の悪化なども含まれる。
考えるための素材として、「綿織物の輸出量の変化を示したグラフ」や「テムズ川の汚濁を描いた風刺画」など、インパクトのある図や写真を10枚程度用意した。まず目に付くのは、大量生産が可能になったことで、インドとイギリスの輸出量が逆転していることである。
しかし、変化はそれだけではない。「働き方」という面から考えると、都市に人口が集中したことや、小さな子どもまで労働力として用いていたことに気付くであろう。「環境」という面から考えると生産性の向上は必ずしもプラスの面だけではないという意見が出るかもしれない。
このように、産業革命を様々な面から当時の人々の立場から考えることで、多面的・多角的に考える力を養うことをねらいとしている。
これらの考察を前半は個人で、後半はグループによる話し合い形式で行った。グループによる話し合いで重要なことは、全員に役割を与えることである。今回は4人1組のグループをつくり、①司会②記録③発表④道具―の役割を最初に決めさせた。漠然と話し合いをさせると、発言力の強い一部の生徒のみによって進んでしまうことがあるが、事前に役割を明確に与えておくことで、全員が能動的に参加できる環境をつくることができる。展開としては個人→小グループ→学級全体と広げていき、最終的に個人に戻すことが重要である。話し合い活動はあくまで手段であり、最終的には生徒個人が、学習課題に対してどれだけ考えを深めることができたかを見取り、評価しなければならない。
(北海道社会科教育研究会 中学校研究部 副部長 札幌市立栄町中学校 教諭 大居 雄一)
※次回は、公民的分野「資質・能力育成のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-22付)
その他の記事( 伝えたい!授業づくりの基礎・基本)
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.50小学校家庭科編④北海道小学校家庭科教育連盟(新岡惠会長)「新しい家庭科 内容C 指導上のポイント」
◆かしこい消費者か振り返り、極意の獲得を ポイント1 題材を貫く課題意識から見方・考え方へ 本稿では、C「消費生活・環境」について、改訂のポイントをなぞり、その授業実践について紹介する...(2018-03-01) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.49小学校家庭科編③北海道小学校家庭科教育連盟(新岡惠会長)「新しい家庭科 内容B 指導上のポイント」
◆調理実習も課題解決的な展開を ポイント1 内容B「衣食住と生活」は、体験的・実践的活動が展開しやすい B「衣食住と生活」では、生活の自立の基礎として必要な衣食住に関する知識及び技能を...(2018-02-28) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.48小学校家庭科編②北海道小学校家庭科教育連盟(新岡惠会長)「新しい家庭科 内容A 指導上のポイント」
◆他内容と関連させての題材構成を ポイント1 内容A(家族・家庭生活)の重要性を知る 新学習指導要領の目標で目を引くのは、現行指導要領の目標には無かった言葉である。「日常生活の中から問...(2018-02-27) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.47小学校家庭科編①北海道小学校家庭科教育連盟(新岡惠会長)「新しい家庭科学習指導のポイント」
◆課題探究型学習で深い学びへ ポイント1 改訂の内容をおさえる 今回の改訂では、家族や家庭生活の多様化をふまえ、これからの社会の変化に子どもたちが主体的に対応できるように、目標や内容の...(2018-02-26) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.46中学校社会科公民的分野編 北海道社会科教育研究会(坪内伸樹会長)「主体的に社会に参画できる生徒 資質・能力育成のポイント」
◆現代社会の見方・考え方を働かせた学習を 1 研究の3つのポイント 本研究会では、平成29年度までの3年間、主体的に社会に参画できる生徒の育成を目指し、次の3つをポイントとして研究を進...(2018-02-23) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.44中学校社会科地理的分野編 北海道社会科教育研究会(坪内伸樹会長)「主体的に社会に参画できる生徒資質・能力育成のポイント」
◆21世紀型学力への変換目指す 1 はじめに 第4次産業革命。後世から振り返れば、「現代」は大きな時代の転換点であろう。情報化やグローバル化、少子高齢化の進展に伴う社会の大きな変化。さ...(2018-02-21) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.43道徳科中学校編 北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「道徳科の授業づくり 大切な2つのポイント」
◆多くの目で教材を読み取り、発問を磨く ◎道徳を目指した動機 初めは、道徳の授業が苦手だった。用意された指導案をなぞるように、当たり前とも思えるようなことを発表させ、眠そうな生徒の顔を...(2018-02-20) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.42道徳科小学校編②北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「道徳科 評価のポイント」
◆時間軸、考えの広がり・深まりの視点で ◎学校が直面している課題 文部科学省教科調査官等を歴任した赤堀博行氏は、著書「『特別の教科 道徳』で大切なこと」の中で「体もそうであったように、...(2018-02-19) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.41道徳科小学校編①北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「中心的な発問を軸にした読み物資料活用のポイント」
◆教師の舵取りで中心発問の時間確保を ◎心情理解の授業からの脱却 平成30年度の道徳の特別教科化全面実施に向けて準備が進んでいる。大きな変化としては、教科書の配布がある。今後、道徳科で...(2018-02-16) 全て読む
【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.40美術科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「生徒の学びを考えた題材設定のポイント」
◆題材配列で関連もたせる計画的な指導を ポイント1 題材設定にあたって~生徒先にありき 昔、「教科書なんか使ったことがありません」という先生方が多く見受けられた。確かに他の教科と異なり...(2018-02-15) 全て読む