【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.41道徳科小学校編①北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「中心的な発問を軸にした読み物資料活用のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-16付)
読み物資料で子どもの考えを引き出していく授業
◆教師の舵取りで中心発問の時間確保を
◎心情理解の授業からの脱却
平成30年度の道徳の特別教科化全面実施に向けて準備が進んでいる。大きな変化としては、教科書の配布がある。今後、道徳科では主に教科書の資料を活用して授業を展開するが、資料の種類としては読み物資料がその大半を占めている。しかし、特別教科化に向けた話し合いの中では、従来の授業の方法が読み物の登場人物の心情を理解させるだけなど型にはまったものになりがちであることなどが課題として指摘されており、扱い方にはいくつかの注意が必要になる。
道徳科では、子どもたちが自己を見つめ、多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深める学習が求められているが、読み物資料をどのように活用すれば「考え、議論する道徳」の学習を実現できるのだろうか。今回は、子どもが自己の生き方について考えを深める中心的な発問を軸に、読み物資料の基本的な活用の仕方について述べていきたい。
ポイント1 子どもが考えを深める発問
授業のねらいに迫るよう意図した発問はどの教科においても重視されている。道徳科においては、その授業で重点となる内容項目とそれに沿った目標があり、子どもが考えを深める発問が授業の中心的な発問にあたる。道徳科では、よりよい中心的な発問を効果的に働かせることで授業の質が高まるのだが、授業を行う際、まず手掛かりとなるのは教科書に示された中心的な発問の例だろう。では、この発問例が意識していることは何なのだろうか。
(1)内容項目の設定
1つ目は子どもが内容項目について考えを深めるよう配慮して設定されている点である。つまり、読み物の展開を生かし、話し合いが目標に向けて収束する見込みをもって設定されているのである。授業の際には、本時で扱う内容項目について指導要領解説または指導書等で確認し、どのような考え方や子どもの反応が目標になっているのか具体的にイメージすることが大切だろう。そうすることで、中心的な発問に対して表れる子どもの様々な反応の中から、何を価値付け、励ましていけばよいのかが明らかになり、子どもに対して効果的に関わることができる。
新指導要領から内容項目を表す「感謝」「相互信頼,寛容」等のキーワードが示されているが、そこから想起した曖昧な印象で授業をすることは是非避けたい。教師自身のとらえ方を確かめる上でも、道徳的諸価値の拠り所である内容項目の確認は重要だろう。
(2)多様な反応を
2つ目は子どもの多様な反応を引き出すよう配慮されている点である。読み物資料に書かれていることを問うのではなく、子どもが自分で考えたり、経験を振り返ったりする必要があるように配慮されている。探しても書いていないことを自分の生活経験を基に補い、他の友達の考えを聞くことを通して、自分のこととして考え、多面的・多角的に考える子どもの姿をねらうのである。
ポイント2 登場人物の立場で判断・心情を考える利点
教科書には登場人物の立場で判断や心情を考えるものを示している例が多いが、その利点について説明したい。まず、共通の登場人物の立場で考えるので、子どもたちの発言にある程度の方向性があってまとめやすく、お互いの立場も理解しやすい。反面、反応の多様性は抑えられてしまうことが多く、同じように表れている反応の中身を問い返す関わりが必要になる。特に、中心的な発問が判断(主に行動に表れるもの)を問う内容である場合には意識して根拠(行動に向かう心情)を引き出し、考えの違いを明らかにしたい。
ポイント3 発問と展開を考える上での教師の舵取り
読み物教材に対して子ども自身の判断を問う発問も例としてよく挙がる。この場合、子どもの反応は多様で、様々な考えが出されるが、反面、まとまり辛い。この場合、その中心的な発問の意図をよりはっきりと確かめる必要がある。子どもの考えのどの要素に焦点を当て、どんな考えを引き出していくのか、何が大切だと確認するのか、目標に向けて教師が意図をもって行う舵取りがなければ、ただの発表で終わってしまうだろう。
ポイント4 発問にかける時間の確保
読み物資料によって違いはあるが、例示された発問の意味を上記の様に把握することで展開の見通しをもつことができる。実際に授業を行い中心的な発問を生かすために、あと1つ留意点を挙げておきたい。それは、中心的な発問にかける時間を確保することである。読み物資料では、細かい部分まで教師が発問しながら確かめてしまう場合が多く、授業の大半の時間をかけてしまうことも少なくない。内容の確認は中心的な発問に必要な部分だけに控え、なるべく早く済ませてしまいたい。そのために、挿絵を使った場面把握や板書の工夫などが行われており、道徳科の授業を参観する上での1つの観点にもなっている。
今回は、教科書の発問例を軸に読み物資料の活用法を述べたが、道徳の授業に慣れてくるとクラスに合った、自分の考えた発問を試したくなるだろう。失敗もあるだろうが、子どもたちが目を生き生きと輝かす道徳科の授業を作り上げるためにも是非挑戦して欲しいと思う。
(札幌市道徳教育研究会 組織部長 札幌市立西宮の沢小学校 教諭 樫岳樹)
※次回は、道徳科小学校編②「評価のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-16付)
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