【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.36中学校理科編④北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「評価を活かす授業のポイント~探究のプロセスシートの活用」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-08付)

第36回道中理④図版資料
探求のプロセスシートで自分の思考や探求の過程を明確にする(クリックすると拡大表示されます)

◆探究過程の検討から総合的に振り返る力を

【今求められる生徒の自己評価力】

 新学習指導要領では、思考力・判断力・表現力等の資質・能力の一つとして、「自然事象の中に問題を見いだして見通しをもって課題や仮説を設定する力」「探究の過程における妥当性を検討するなど総合的に振り返る力」を育成することが求められている。探究の過程において、実験方法が仮説を検証する方法として適切だったのか、実験資料の選択や実験操作、測定の仕方、分析の仕方に間違いはなかったのか、結果から考察したことが課題の解決に結びついているのか、仮説自体が適切だったのかなどを生徒自身が振り返り、どこをどのように修正する必要があるのかを明確にしていくことが、生徒の自己評価力を高めることにもつながると考える。また、修正する点が分かるからこそ、次の探究への見通しが明確になり、探究への意欲がより高まる。このような力を育むために、①見通しを明確にした仮説の設定と、②生徒自身が探究の過程を振り返ることができるワークシート(探究のプロセスシート)の工夫を行った。

【第1学年の実践から】

 「探究の過程を振り返る」ことは、おもに第3学年の重点とされているが、その基礎を育むために、第1学年の身のまわりの物質「金属・非金属の分類」において実践を行った。

ポイント1 見通しを明確にした仮説の設定

 学習課題は「金属と非金属はどのような方法で区別することができるだろうか」と設定した。生徒達は小学校での学びや技術・家庭科で学んだ金属の性質を活用して仮説を設定した。仮説は「電気を通すことで金属と非金属を区別することができる。電気を通せば金属で、電気が通らなければ非金属だといえる」というように、仮説を検証する方法と、その結果がどのようになれば仮説を検証することができるのかを明確にし、探究の見通しをもてるようにした。

ポイント2 生徒自身が探究の過程を振り返ることができるワークシート(探究のプロセスシート)

 探究のプロセスシート(図表参照)には学習課題、仮説、検証方法、結果、考察、結論を記していく。探究の過程でつまずづいたときには、仮説、方法、結果のどこを、どのように修正する必要があるのかを考え、新たな方法等を記して探究の過程を道筋として表現していく。このことで、自分の思考や探究の過程を明確にすることができる。また、その内容を学級全体で情報交流することで、自分が行っていない検証方法やその結果を得ることができ、多面的、多角的に課題解決に向かうことができる。さらに、教師にとって、一人一人の探究の過程を正確に把握することができ、個に応じた支援をすることが可能になる。

〈Aさんの探究〉

 「電気を通せば金属で、通らなければ非金属である」「磁石につけば金属で、つかなければ非金属である」という2つの仮説を立てたAさんは、2つの方法で実験を行った。電気を通すについては、仮説を検証することができたが、磁石につくかどうかでは、アルミニウムのように金属でも磁石につかないものがあることが分かった。この結果から、磁石では金属と非金属を区別することはできないと考えたが、考察するにはデータが足りないため、実験する試料を増やして追実験を行った。その結果、磁石につくものは金属であることは分かるが、つかないものが非金属であるとは言えないという結論を出した。

〈Bくんの探究〉

 「ハンマーでたたいてみて、曲がったりのびたりしたら金属で、変化がなければ非金属である」という仮説を立てたBくんは、身近な金属、非金属を選択して実験を行った。その結果、鉄や銅の金属は曲がり、紙やプラスチックなどは変化がなく、アルミ缶とペットボトルはつぶれるという結果が出た。また、さびた鉄は粉々にくずれることが分かった。ペットボトルは非金属なのに、どうしてつぶれたのかという疑問を持ったBくんは、実験方法を変更してすべての資料を同じ大きさの形にそろえて追実験を行なった。その結果、アルミ缶は鉄や銅と同様に曲がり、ペットボトルは変化がないことが分かった。この結果から、たたくという方法は金属、非金属を区別することができる。そのためにはは大きさや形状を同じようにして実験をする必要があるという結論を出した。また、さびたものは粉々にくずれたことから、さびると金属ではないものに変化したのではないかという新たな疑問が生まれた。

【探究のプロセスシートの効果から】

 実践を終えて、生徒からは「探究のプロセスシートを使ったおかげで、自分の探究のどこが違ったのか、どこを改善すればよいのかが明確になった」「次に何をすればよいのかが明確になって、今までよりも見通しをもった探究になった」などの感想があった。このような実践を積み重ねていくことで、生徒自身の自己評価力を高め、「探究の過程における妥当性を検討するなど総合的に振り返る力」を育成することに結びつくと考える。

(北海道中学校理科教育研究会 研究部副部長 北海道教育大学附属札幌中学校 教諭 小路美和)

※次回は北海道造形教育連盟「図画工作科編①」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-08付)

その他の記事( 伝えたい!授業づくりの基礎・基本)

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.41道徳科小学校編①北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「中心的な発問を軸にした読み物資料活用のポイント」

伝えたい、第41回北道徳研・小学校 ◆教師の舵取りで中心発問の時間確保を ◎心情理解の授業からの脱却  平成30年度の道徳の特別教科化全面実施に向けて準備が進んでいる。大きな変化としては、教科書の配布がある。今後、道徳科で...

(2018-02-16)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.40美術科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「生徒の学びを考えた題材設定のポイント」

伝えたい、第40回造形連盟中 ◆題材配列で関連もたせる計画的な指導を ポイント1 題材設定にあたって~生徒先にありき  昔、「教科書なんか使ったことがありません」という先生方が多く見受けられた。確かに他の教科と異なり...

(2018-02-15)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.39美術科編①北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「美術科 授業づくりのABC」

第39回造形連盟中① ◆評価の工夫と支持的風土で深い学びへ ポイント1 授業の前にすべき事柄をしっかり押さえる  美術科の授業づくりにおいて、事前の仕込みや環境整備、生徒の実態把握については、とても重要で、生...

(2018-02-14)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.38図画工作科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「〝こと〟をつくる図工の時間 指導のポイント」

第38回造形連盟②写真「授業風景」 ◆「ものづくり」から「ことづくり」へ ポイント1 子どもの造形的な見方・考え方を深い学びへ  「先生、黒い画用紙ないの?」この言葉は、私が1年生を担任した時の子どもの言葉である。色画用紙...

(2018-02-13)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.37図画工作科編①北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「育む力を基にした授業づくりのポイント」

第37回道造形連盟(小)①の1 ◆作品の評価から資質・能力の評価へ ポイント1 感激から落胆へ~日常の授業に潜む問題点  そもそも造形教育とは、またその初等教育段階を担う図画工作科とは、子どもにどんな力を育むべき教科な...

(2018-02-09)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.35中学校理科編③北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「生徒を探究に向かわせる観察・実験のポイント」

第35回道中理③写真 ◆探究過程のある学習活動で考察を深める ポイント1 理科の目標と「観察、実験」の関わりをつかむ  平成29年3月公示(2021年度全面実施)の新学習指導要領において、理科の目標は、次のよ...

(2018-02-07)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.33中学校理科編①北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「思考力・判断力を育む工夫 実践のポイント」

伝えたい第33回道中理上 ◆必然性・解決意欲のある課題を強く持つ 【思考力・判断力を育むための基盤としての「見方・考え方」】  中学校理科授業において、思考力・判断力を育む授業づくりのためには、「理科の見方・考え...

(2018-02-05)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.32中学校外国語科編④北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「授業のイロハ 実践のポイント」

伝えたい北中英研武富教諭 ◆授業こそ実際のコミュニケーション場面だ ポイント1 見通しをもたせ振り返りを大切にする  授業においては、授業の始めに目標を示し、子どもたちに見通しをもたせることが大切である。目標は、...

(2018-02-02)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.31中学校外国語科編③北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「コミュニケーション能力を育てる仕掛け 実践のポイント」

伝えたい北中英研 ◆即興的なやりとりができる生徒を育てる ポイント1 生徒が英語を使えるようになるために  教員になって、在籍生徒数800人の学校にも8人の学校にも勤務してきたが、地域や学校規模がどうであ...

(2018-02-01)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.30中学校外国語科編②北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「CAN―DOリスト活用のポイント」

第30回北中英研②児玉1 ◆「できる感」高める活動設計を ◎授業改善が喫緊の課題  平成23年、「国際共通語としての英語力向上のための五つの提言と具体的施策」を受け、文部科学省は、平成25年に作成した手引きの中で...

(2018-01-31)  全て読む