【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.33中学校理科編①北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「思考力・判断力を育む工夫 実践のポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-05付)

伝えたい第33回道中理上
ほかの人の考えを参照する

◆必然性・解決意欲のある課題を強く持つ

【思考力・判断力を育むための基盤としての「見方・考え方」】

 中学校理科授業において、思考力・判断力を育む授業づくりのためには、「理科の見方・考え方」が身についていることと、「基礎的・基本的な知識・技能を習得していること」が必要となる。

 思考・判断する場面では、「基礎的・基本的な知識」を使って分析・解釈を行うことで科学的な根拠に基づいた説明が成立するものだからである。特に、未知の事象と出会った場合においては、これまで学んだ既習事項から予想をしたり、類推して自分なりの仮説をたてたりする活動が主体的な学びにつながる。そこで、これまで身に付けた「見方・考え方」を働かせることが必要となる。

 いわば、「理科の見方・考え方」と「基礎的・基本的な知識・技能」は「思考力・判断力」を育むツールともいえる。

 基礎的・基本的な知識・技能とは、現象を説明するために必要な最低限の用語を理解していることや実験装置を適切に使用して実験を行い、得られたデータをグラフなどに表すことである。観察・実験のレポートで言うと「実験方法」「実験器具の操作」「安全注意事項」と「実験結果」「得られた規則性・法則」に記載されることが多い。授業づくりの初期段階から訓練をする必要がある。

 理科の見方・考え方は、エネルギー(物理)、粒子(化学)、生命(生物)、地球(地学)それぞれの領域によって異なる。さらに、各領域の学習する年齢によって学習のめあて(目標)が異なる。例えば、エネルギー(物理)領域では、小学校3年で「風とゴムの力の働き」について力の働きについて初めて学ぶ。ここでは、ゴムで動くおもちゃがどのようにすると速く動くかということから、力の働きの概要を知る。これを元に中学1年の「力の働き」において、力の三要素から力を矢印で示すことで見えない力を可視化できることを学ぶ。さらに、力のベクトル的性質から水圧や浮力を理解する。

 このように中学1年では、力に関する定量的な関係を見出すことと、日常生活全般に関連する力学的現象について理解し気付いていくことを目標としている。中学3年では、中学1年の学びを元に「物体の運動」を学習する。ここでは、力の働きに起因する物体の様々な運動について規則性を見出すことを目標とする。さらに、「仕事とエネルギー」においては、力とエネルギー(仕事)の関連性を見出すことを目標としている。ここでは、仕事からエネルギー量(単位J)の関係性への気付き、さらに、仕事率(単位W)へつながる。これらは、中学2年「電流とそのはたらき」とも関連する。

 授業をつくる上で大切にしたいのは、これらは独立した学習ではなく、相互につながりをもった学びである事を子どもたちに気付かせ、意識させることである。具体的には、過去の学びを現在の学びにつなげるよう促すことである。学んだことが別の場面で活用できることの気付きにつながり、同時に学ぶことの有用性を感じ、次の学びへの意欲を高める。

【具体的な授業づくり】

 思考力・判断力を育む授業づくりについて具体的に述べる。

ポイント1 観察・実験における考察

 結果から考えられることを「科学的な表現を使って自分の言葉で述べる」ことを促す。学習初期段階では記述例を示す。慣れてきたところで仲間同士の確認を行い、教師の介入無しでも正しい論述ができるよう促す。これらを繰り返すことで、実験結果の適切さを相互に確認し合う活動が生じ、実験結果が適切でないことを判断する視点を育むことにつながる。結果が他班と異なる場合も、単なる実験の失敗と捉えずに、「なぜそうなったか」という思考をする機会を生み出す。

ポイント2 思考せざるを得ない課題の設定

 これは、単元(または章)の終盤に設定する。例えば、中学1年のフックの法則を導き出す実験のあとに、未知の質量(重さ)の物体を与えて「ばねばかりを使わずに重さを求めるにはどうすればよいか」という課題を示す。実験では独立変数の「重さ(力の大きさ)」と従属変数の「ばねの伸び」のグラフを得ている。ここから思考を逆転させて、「未知の物体のばねの伸び」から「重さ」を知ることができる。中学1年理科であれば、単元終盤に「浮沈子」というおもちゃを作って物体に働く浮力と体積の関係を見出す学習課題などが考えられる。

 これらは、「基礎的・基本的な知識・技能」と「理科の見方・考え方」に基づく必然性のある課題であり、子どもが主体的に「解決したい」思いを強く持つ課題だと考える。このような学びが思考力・判断力の育みにつながると考える。

(北海道中学校理科教育研究会研究部副部長 札幌市立中央中学校 教諭 三浦雅美)

※次回は中学校理科編②「能動的な学び 実践のポイント」を掲載します。

この記事の他の写真

伝えたい第33回道中理下
仲間同士で考えを確認し合う

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-05付)

その他の記事( 伝えたい!授業づくりの基礎・基本)

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.39美術科編①北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「美術科 授業づくりのABC」

第39回造形連盟中① ◆評価の工夫と支持的風土で深い学びへ ポイント1 授業の前にすべき事柄をしっかり押さえる  美術科の授業づくりにおいて、事前の仕込みや環境整備、生徒の実態把握については、とても重要で、生...

(2018-02-14)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.38図画工作科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「〝こと〟をつくる図工の時間 指導のポイント」

第38回造形連盟②写真「授業風景」 ◆「ものづくり」から「ことづくり」へ ポイント1 子どもの造形的な見方・考え方を深い学びへ  「先生、黒い画用紙ないの?」この言葉は、私が1年生を担任した時の子どもの言葉である。色画用紙...

(2018-02-13)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.37図画工作科編①北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「育む力を基にした授業づくりのポイント」

第37回道造形連盟(小)①の1 ◆作品の評価から資質・能力の評価へ ポイント1 感激から落胆へ~日常の授業に潜む問題点  そもそも造形教育とは、またその初等教育段階を担う図画工作科とは、子どもにどんな力を育むべき教科な...

(2018-02-09)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.36中学校理科編④北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「評価を活かす授業のポイント~探究のプロセスシートの活用」

第36回道中理④図版資料 ◆探究過程の検討から総合的に振り返る力を 【今求められる生徒の自己評価力】  新学習指導要領では、思考力・判断力・表現力等の資質・能力の一つとして、「自然事象の中に問題を見いだして見通し...

(2018-02-08)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.35中学校理科編③北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「生徒を探究に向かわせる観察・実験のポイント」

第35回道中理③写真 ◆探究過程のある学習活動で考察を深める ポイント1 理科の目標と「観察、実験」の関わりをつかむ  平成29年3月公示(2021年度全面実施)の新学習指導要領において、理科の目標は、次のよ...

(2018-02-07)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.32中学校外国語科編④北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「授業のイロハ 実践のポイント」

伝えたい北中英研武富教諭 ◆授業こそ実際のコミュニケーション場面だ ポイント1 見通しをもたせ振り返りを大切にする  授業においては、授業の始めに目標を示し、子どもたちに見通しをもたせることが大切である。目標は、...

(2018-02-02)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.31中学校外国語科編③北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「コミュニケーション能力を育てる仕掛け 実践のポイント」

伝えたい北中英研 ◆即興的なやりとりができる生徒を育てる ポイント1 生徒が英語を使えるようになるために  教員になって、在籍生徒数800人の学校にも8人の学校にも勤務してきたが、地域や学校規模がどうであ...

(2018-02-01)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.30中学校外国語科編②北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「CAN―DOリスト活用のポイント」

第30回北中英研②児玉1 ◆「できる感」高める活動設計を ◎授業改善が喫緊の課題  平成23年、「国際共通語としての英語力向上のための五つの提言と具体的施策」を受け、文部科学省は、平成25年に作成した手引きの中で...

(2018-01-31)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.29中学校外国語科編①北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「思考力・判断力・表現力育成のポイント」

第29回北中英研①図版 ◆ワクワク感とこだわりをもてる授業を ポイント1 自己表現の場を  グローバル化の進展の中で、国際共通語である英語力の向上が、今ほど求められているときはない。新学習指導要領においても「授...

(2018-01-30)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.28中学校技術・家庭科編家庭分野②北海道技術・家庭科教育研究会(岩本正美会長)「調理実習のポイント」

伝えたい・物品収納 ◆生徒の信頼をもとに見通しある授業を 【家庭科教師としての心構え】  生徒から「すごい!」「さすが!」と思われる授業の武器をつくることが大切。例えば、針にパッと糸を通す、正確なミシンがけ...

(2018-01-29)  全て読む