【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.38図画工作科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「〝こと〟をつくる図工の時間 指導のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-13付)
見方・考え方を働かせ、活動に浸る
◆「ものづくり」から「ことづくり」へ
ポイント1 子どもの造形的な見方・考え方を深い学びへ
「先生、黒い画用紙ないの?」この言葉は、私が1年生を担任した時の子どもの言葉である。色画用紙を切ってできた切り紙を組み合わせて飾りをつくる「チョキチョキかざり」の授業で私は、材料として赤や青、緑や橙などのいわゆる「鮮やかな色」の画用紙を準備していた。先ほどの質問をした子に、「どうして黒色を使いたいの?」と、聞くと「4枚つくって春夏秋冬にするの」と、答えてくれた。その子はどの季節に黒を使おうとしたのか。私は、「鮮やかな色が少ない冬かな」と考えたが、答えは夏であった。その理由は、「夏は影の色が他の季節よりも黒いから」と教えてくれた。子どもには子どもの論理があり、その根底にあるのは、子ども一人一人の感性や想像力である。この子が夏を「黒色」という造形的な視点で捉えた姿がまさにそれで、これが「造形的な見方・考え方」を働かせている姿である。
次に、子どもが造形的な見方・考え方を十分に働かせながら、主体的・対話的で深い学びへと向かうための教師の手立てについて、4年生の題材「とろカチ・アート!」を基に述べる。本題材は、紙を液体粘土で固めた形の面白さを基に、LEDライトで照らした際の光のよさや美しさを自分なりに追究する学習である。
ポイント2 子ども理解を基にした題材化を図る
子どもが主体的に造形活動に取り組むためには、子ども理解が重要となる。なぜなら、子どもに提案する題材が「作品づくり」を目的とするあまり、教師が形式的な指導に陥り、子ども本来の表現から外れてしまう恐れがあるからである。そのために、目の前の子どもはどのような発達の段階にいるのか、そして、これまでの造形的な活動の経験を基に、「どのような表現方法を習得しているのか」などを、総合的にとらえることが大切である。それらを前提として、目の前にいる子どもたちに育みたい資質・能力である「発想や構想の能力(思考力、判断力、表現力等)」「創造的な技能(技能)」、「鑑賞の能力(思考力、判断力、表現力等)及び共通事項(知識)」について考え、題材化を図る。
「とろカチ・アート!」は6月に行った題材である。それまでに子どもは、紙を支持体としてスパッタリングや吹き流し、スタンピングなどの表現方法を経験している。本題材でも、それらの表現方法を子どもが既習事項として活用することができるように、液体粘土で固める素材を紙とした。そうすることで、自分が表したいことに合わせて、既習の技能や、切る・穴を空けるなどの表現方法を工夫して表す“創造的な技能”をより発揮させることができると考えた。
このように、子どもの実態→育みたい資質・能力→材料や行為、活動等の吟味という流れで題材化を行うことで、子ども一人一人が「自分だったら、こうしたいな!」と、造形活動に主体的に取り組む授業をつくっていくのである。
ポイント3 表現と鑑賞を行き来する学習展開を図る
図画工作科における対話的な学びには、子ども自身が「ここの色は、どうしようかな。」「もっと形は変えた方がいいかな」と自分に問いかける自己内対話や、「それ、どうやってつくったの」「とてもきれいに見えるね」と、他者との関わりの中でお互いの表現のよさや美しさを認め合う姿などがある。そしてこれらの対話を独立したものでなく、表したこと(表現)と、見たこと(鑑賞)をつなげ、さらに表したいこと(表現)へと向かうような一連の流れとしてとらえることが重要である。そのために、子どもが表現と鑑賞を常に行き来する学習展開を図る。
「とろカチ・アート!」では、製作途中のランプシェードを鑑賞する場を設定した。グループの机ごとにランプシェードが一つ入る“鑑賞ボックス”を設置し、自分のランプシェードをその中に入れて鑑賞できるようにする。そうすることで、着色や形をつくりかえたことによってどのように光り方が変わったのかを感じ取りながら、自分なりの表現を追究するのである。また、授業の中盤では教室の全ての明かりを消す“鑑賞タイム”を設定する。そうすることで、自分と友人のランプシェードを見合い、互いの表現の面白さや美しさをとらえたり、それらを自分の表現へとつなげたりするのである。
このように、子どもの表現は一方通行ではなく、行きつ戻りつしながら「つくり、つくりかえ、またつくる」を繰り返す。このことで、自分なりの表現を追究していくのである。
◎図画工作の時間で意味や価値をつくりだす
図画工作科は、「ものづくり(作品)」ではなく、「ことづくり(意味や価値)」が大切である。子ども一人一人が自分なりの造形的な見方・考え方を働かせながら、自分の表したいことを形や色を使ってつくりだす喜びを味わう中で、自分なりの意味や価値を創造したり、更新したりするかけがえのない時間なのである。
(札幌市造形教育連盟 研究部長 札幌市立伏見小学校 教諭 十亀健)
※次回は美術科編①「授業づくりのABC」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-13付)
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