【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.35中学校理科編③北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「生徒を探究に向かわせる観察・実験のポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-07付)

第35回道中理③写真
問題をみいだし、見通しをもちながら観察、実験を行う生徒たち

◆探究過程のある学習活動で考察を深める

ポイント1 理科の目標と「観察、実験」の関わりをつかむ

 平成29年3月公示(2021年度全面実施)の新学習指導要領において、理科の目標は、次のように示されている。

 自然の事物・現象に関わり、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(中略)(2) 観察、実験などを行い、科学的に探究する力を養う。(以下省略)

 生徒が自然の事象・現象に進んで関わり、問題を見いだし見通しをもって観察、実験を行うなど、自ら学ぶ意欲を重視した表現となっている。「見通しをもって観察、実験を行うこと」とは、観察、実験を行う際、生徒が観察、実験を何のために行うか、観察、実験ではどのような結果が予想されるかを考えることなどであり、観察、実験を進めていく上で大切である。観察、実験を単なる活動とするのではなく、探究のツールとして活用していくことが求められている。

 北海道中学校理科教育研究会(道中理)としては、研究主題「自然と人間との調和をめざし、未来を創造する力を育む理科教育」のもと研究を行っている。理科の学習は常に自然との関わりの中で行われる。具体的に自然から学び、自然を理解し、自然と人間との関わり方、未来を考え行動する生徒の姿を描いている。自然との調和をめざすためには、生徒自らが、自然に関わりその中から問いを見いだすことが入口となる。

 生徒が主体的に活動していくためには、教師による生徒自身が探究につなげることができるような観察、実験の工夫が必要不可欠である。

 課題の把握、課題の探究、課題の解決という探究の過程を進める一つの切り込み口として、理科の学習において「予想や仮説を基に観察、実験を行い、その結果から考察する」というサイクルを実践していくことが有効である。

 生徒が自ら課題を見いだすことにより、学習意欲が高まり、予想や仮説を基に主体的な観察、実験を行い、その結果から考察することにより、基礎的・基本的な知識・技能を活用する力が育まれる。

ポイント2 探究の過程の例から確かで深い学びを考える

 具体例として、脊椎動物や節足動物との共通点や相違点を考慮しながら、軟体動物の体のつくりの特徴を調べるための観察の流れの例を紹介する。脊椎動物、節足動物の体のつくりや特徴については、確かな知識として身に付いている前提である。

①【自然との関わり(自然事象に対する気付き)】「イカは墨をどんなときにどのように使うのでしょうか」と問いかけ、いくつか意見が出たところで、イカの墨袋から中の墨を絞り出してペトリ皿に入れた水の中に静かに落とす。すると、水中で広がらないことが確認できる。イカは、墨を煙幕として使うのではなく、吐き出した墨を自分の分身のように見せかけて捕食者を惑わせるために使うのである。

②【課題の設定】「この後、イカについてどうしたいですか」と投げかけ、生徒は自ら「軟体動物の体のつくりにはどのような特徴があるのだろうか」という課題を内在化する。

③【検証計画の立案】言語活動を充実させ、小グループごとに「骨格について、脊椎動物や節足動物とつくりを比較する」などの観察の目的とその手順を計画する。

④【観察の実施】事故防止のため、安全指導を徹底する。

⑤【結果の処理】外套膜に内臓が被われており、骨格も節もないことを見いだす。

⑥【考察・推論】生活様式に応じた運動器官や消化器官があることを言語活動等で見いだすとともに、外套膜に付いている薄く透明な板は何なのかという次の課題を発見する。

⑦【振り返り】考察が設定した課題と対応しているかどうかなど、探究の過程を振り返る。

⑧【表現・伝達】レポートにまとめたり、観察結果・考察をプレゼンしたりする活動も考えられる。

 注意点として、観察の流れの例に①~⑧の番号を振ったが、必ずしもこの番号順の流れではなく、必要に応じて戻ったり、繰り返したりする場合があること。また、授業においては、全ての探究の過程を実施するのではなく、その一部を取り扱うこともある。観察、実験の実施が目的なのではなく、観察、実験を行う必要があるので実施するという意識をもつことが大切である。

◎観察、実験の前後で位置づけが決まる

 このような探究の過程を通じた学習活動を行う上で、観察、実験は重要な体験であり、これらの体験は言語によって伝達されたり、表現されたり、さらには話合いや議論を通して深められたりして、確かなものになると考えられる。

 「観察、実験」は重要な要素である。観察、実験の前後の学習活動が、観察、実験の位置付けを明確にする重要な意味をもつと考えられる。

(北海道中学校理科教育研究会 研究部副部長 札幌市立もみじ台南中学校 教諭 渋谷啓一)

※次回は中学校理科編④「評価を生かす授業のポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-07付)

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