【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.29中学校外国語科編①北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「思考力・判断力・表現力育成のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-01-30付)
◆ワクワク感とこだわりをもてる授業を
ポイント1 自己表現の場を
グローバル化の進展の中で、国際共通語である英語力の向上が、今ほど求められているときはない。新学習指導要領においても「授業は英語で行うことを基本とする」とされ、「授業を実際のコミュニケーションの場面」とし、生徒が英語に触れる機会を充実させることで、英語を実際に使用しながら身に付けさせていくねらいが明確となった。今まで以上に、生徒とのインタラクションを中心とした授業を進めていくことが求められている。
英語の「知識・技能」だけ身に付けても、コミュニケーション能力が育成されるわけではない。英語はツールであり、使用する目的や場面、状況などの必然性がある。状況を判断して適切にコミュニケーションを図ることができるようになるためには、主体的に課題を解決するために必要な「思考力・判断力・表現力」の育成が欠かせない。
しかし、やみくもに考えなさいと言っても、思考力は働かない。「言ってみたい」「聞いてみたい」「読んでみたい」「書いてみたい」と生徒が思うようなワクワク感と自分なりのこだわりをもてる自己表現の場が必要である。
ポイント2 話す活動の工夫
「話す活動」においては、リテリングやパラフレージングが有効である。
内容を咀嚼し、再構成して自分自身の言葉で表出することがリテリングである。正確な再生が要求される暗唱と違い、内容面に着目することから、自分なりのまとめ方をする工夫の余地がある。最後に自分の意見や感想を付け加えるようにすると、さらにこだわりが生まれ、「思考力・判断力・表現力」の育成につながっていく。
パラフレージングは、ある単語が分からない相手に、それがどういうものかを、言い換えて表現することである。実際の会話場面ではよく使われる手法である。連想クイズなどでこうした力を養うことができる。さらに発展して、「けん玉を知らない外国人に、そのおもしろさが伝わるように説明するにはどうしたらよいか」というような課題探究的な活動にすると、よりこだわって表現方法を考えるようになる。
ポイント3 読む活動の工夫
「読む活動」では、英文を日本語にただ変換させるのではなく、読んで内容を理解しなければ達成できないようなタスクに取り組ませたい。例えば、英語のなぞなぞや論理パズルに取り組ませる、アメリカの小学生の算数の文章問題を解かせる、英語で書かれたレシピを読ませて料理名を考えさせるなどの活動を行うと、生徒は解答を求めて自然と何度も英文を読みこんでいく。また、タスクの達成度によって、生徒の理解力が自然と分かる。こうしたワクワクしながら自主的に取り組む活動こそが思考力を高めていく。また、内容中心の活動では英語の苦手な生徒にも活躍するチャンスがある。なお、教材はオーセンティックなものを選びたい。生徒は本物に接するときに本気になるからである。アメリカのサイトにこのような教材はたくさんある。
ポイント4 思考の場の工夫
言語の使用場面を生徒に考えさせる活動も、思考力の育成に有効である。数を聞くときの表現を学習する際、筆入れの中のペンの数を聞き合う活動がよくなされているが、何本ペンを持っているかと聞くような場面は実生活ではあまりないだろう。それよりも、HOW MANYという表現がどのような場面や状況で使用されるかを考えさせることが、「思考力・判断力・表現力」の育成となり、実際に使えるようになるための素地となる。生徒に考えさせると、「ハンバーガーショップで、店員が注文を受けるときに使う」「消しゴムを貸してもらいたいときに聞く」「相手の家に遊びに行ったときに本がたくさんあるのを見て、びっくりして聞く」など、実に生き生きと、想像力を働かせ、こだわりをもって様々な場面を考える。こうしたこだわりのある活動は、思考力を高めると同時に、生徒の中で言語の使用場面と表現を一致させていく。
ポイント5 学習課題の工夫
授業において最も大切なことは、学習課題の工夫である。これからの英語教育は、「英語を使って何ができるようになったのか」が問われる。今までのように、「関係代名詞を理解できるようになる」がゴールではなく、「関係代名詞を使って、自分の友達を紹介できる」というように、具体的にどんなことを表現できるかをゴールとする必要がある。これがCAN―DOである。このとき、もう一歩進んで、「自分の友達の魅力が相手に伝わるように紹介しよう」というような学習課題を設定したい。「~するように」という条件を設定することにより、生徒はワクワク感とこだわりをもって、深く考えるようになり、目的をもって表現しようとするようになる。授業の雰囲気が変わるだろう。
◎資質・能力向上を図る授業を
文法知識や表現方法といった言語形式だけを指導するのではなく、常に意味内容を意識させ、生徒の中で「思考力・判断力・表現力」が働く場面を用意した授業を常に目指したい。魅力ある学習課題を生徒と共有し、「言ってみたい」「聞いてみたい」と思わせる言語活動の機会を提示できるかどうかが英語教師の腕である。
(北海道中学校英語教育研究会会長 札幌市立明園中学校長 中村邦彦)
※次回は中学校外国語科編②「CAN―DOリスト活用のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-01-30付)
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