【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.26中学校技術・家庭科編技術分野②北海道技術・家庭科教育研究会(岩本正美会長)「授業改善のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-01-25付)
整理された教室は、生徒が「自ら学びに向かう」学習の場となる
◆見方・考え方を働かせ資質・能力育む
【教室環境整備と授業改善へのヒント】
技術分野の授業は、木工室やコンピュータ室などの特別教室で授業することが多い。そこを生徒が「自ら学びに向かう」学習の場とすることは、教師の大切な準備の一つである。ここでは、教室環境を整えるヒントと次期学習指導要領で授業改善の手立てとして挙げられている「主体的・対話的で深い学び」について考えてみたい。
ポイント1 教室環境の整理
「生徒が主体的に学ぶ」ためや「作業の安全性を確保する」ためには、教室環境の工夫が大切である。何年も前の掲示物が変色したまま貼られていたり、最近使用せず今後も使う予定のない機械類が置かれていたり、過去の教材がダンボールの中に入ったままになっていたりすることがある。
教室のスペースには限りがあるので、要らないものは事務職員等と相談し、廃棄処分したい。そこで生まれたスペースに、学習している題材に合わせて、教師や先輩の作品やさまざまな見本(各種素材やその接合の見本、各種機械類の内部が見られるようにしたもの、機構模型等)を展示したり、学習の作業手順や注意事項を拡大したものを掲示したりする。そうすることで、技術を学ぶことに興味や関心を持ち、授業中に分からないことがあるとその掲示物を見て解決するようになる。
授業で使用する工具や機器の保守・点検と教室内の清掃、机などへの破損等の確認は、できるだけその日のうちに終わらせたい。特に工具の数は、必ず授業中か授業後すぐに確認するようにすべきであるが、授業と授業の間の休み時間は短いので、簡単に確認できる方法の工夫が必要となる。テーブルや班ごとに小さなトレイやケースを利用し準備や片付けをする方法の場合、班の中で班長・工具係・材料係などの役割を決め、準備した担当者が片付けとチェックをするのが望ましい。進度や作業内容によって一人一人違う工具を使う場合は、数が一目で分かるような入れ物を準備し、教卓などで集中管理する方法もある。しかし、使用後に元の場所に戻すように指示をしても正しく戻らないことも多いため、工具等の配置を示した写真を印刷して貼っておくなどの工夫により、片付けや整理整頓にかかる時間を減らすことができる。
ポイント2 主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善
これまで技術分野の授業では、問題解決的な学習に取り組んだり、生活上の問題を解決する題材を設定したりしてきた。今後はさらに、授業全体を技術分野の「見方・考え方」を働かせるような問題解決の流れにすることで、主体的・対話的で深い学びの授業に近づく。「ここではみんなと意見交換をする」「ここでは振り返る」「深い学びの中でこの場面で対話的、この場面で主体的」というようなことを意図的に設定・計画し、技術の「見方・考え方」を鍛えていくことに留意する。
今年度の北海道地区技術・家庭科教育研究大会における「エネルギー変換に関する技術」分科会では、「北海道に適した新エネルギーによる発電について考えよう」を学習課題として、この問題を解決するため、以下のような授業を行った。
①【今までの学習内容を振り返る場面】研究授業前までの授業で学習した新エネルギー(風力、太陽光、バイオマス)による発電のメリットとデメリットについて着目する点を踏まえて、グループ内で発表、交流し、ワークシートにまとめる。
②【自分で考える場面・・・主体的】技術の「見方・考え方」を働かせ、この三つの新エネルギーに補助金を与えることになったとして、どれぐらいの割合で配分するかを考える。
③【グループ内で意見交換をする場面・・・対話的】②で考えた意見をグループ内で交流し、一つにまとめる。
④【各グループが発表する場面・・・対話的】他のグループの意見を聞くことで自分の考えを深めていく。
⑤【授業を振り返り自分の考えをまとめる場面】技術の「見方・考え方」を働かせ、適切な解決を見出す。数名に発表させる。
このような学びの流れを用いることで「見方・考え方」が働き、資質・能力がさらに伸びたり、新たな資質・能力が育まれたりし、さらに「見方・考え方」が豊かなものになる。
【早めの整備を】
次期学習指導要領は、平成33年度全面実施である。平成31年度に入学する1年生が3年生になったときには、すべてを次期学習指導要領で履修していることになる。平成31年度から3年間を見通した計画を立て、次期学習指導要領への移行を進めなければならない。
どんな題材や教材を選ぶのか。その題材や教材を扱う上で用意しなければいけない教具や備品は計画的に予算化し、早めに整備を進めなければならない。
最後に、道内の中学校では技術分野の教員免許を持つ教員が、校内に一人もしくは一人もいない学校が多いと聞く。一人では教材選択や授業の進め方で悩んでもなかなか解決しないことも多い。技術分野を指導する教員の研究会等に足を伸ばし、ネットワークを広げたり、さまざまな情報に直接触れたりすることで、授業へのヒントをたくさん得ることができる。
(北海道技術・家庭科教育研究会 参与 札幌市立栄町中学校 主幹教諭 小笠原健司)
※次回は家庭分野①「授業構築のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-01-25付)
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