【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.39美術科編①北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「美術科 授業づくりのABC」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-14付)

第39回造形連盟中①
生徒は自分と異なる他者の発想にふれることで思考の幅が広がる

◆評価の工夫と支持的風土で深い学びへ

ポイント1 授業の前にすべき事柄をしっかり押さえる

 美術科の授業づくりにおいて、事前の仕込みや環境整備、生徒の実態把握については、とても重要で、生徒主体の学習を支える基盤となる。

(1)教材、教具の準備

 生徒が使用する教材・教具の準備と美術室の環境設定の計画を行う。教材・教具の用意では、物品の発注・点検、素材のカッティングや学級ごとの振り分け、ワークシートの印刷、参考作品の用意、鑑賞画像や動画の編集など多岐にわたる。美術室の環境設定については、座席の隊形、板書計画、生徒の動線の確保、安全面での配慮、作品の保管場所、後片付けの仕方などについて見通しをもって授業に臨むことが肝心である。

(2)生徒や学級の特徴の把握

 生徒がどのようなところで行き詰まっているのか、各々の作品に見られる課題などを、生徒の振り返りの記述や制作途中の作品に目を通して事前に把握し、机間指導や生徒に質問を受けた際に適切な助言ができるようにしておく。また、同じ学習内容でも、学級によって授業の反応が異なることがある。生徒の様子を想定しながら、意欲を喚起、持続する手立てを盛り込んだ指導案を作成する。

ポイント2 生徒主体の学びとするための条件を工夫する

 生徒が黙々と制作していれば、それが主体的に学ぶ姿とは一概には言い切れない。生徒がどのような課題をもち、その解決に向かって、どのように造形的な見方、感じ方を働かせて作品を制作したり鑑賞したりしているのかが重要である。表現の活動で鍵になるのは、題材のデザインと授業の導入である。教科書の内容を基にし、本校生徒の成長が期待できる題材の構成、素材の選択、指導目標や計画についてデザインする。

 授業の導入において意識したいのは、「おもしろそうだ」「やってみたい」という状態をつくり出すことである。そのためには、生徒の心を揺さぶるよう、画像や物を提示するなどの働きかけや、クイズ形式にする、素材に触れてみることから始めるなど授業への入り方を工夫する。また、教えるべき内容と生徒に考えさせることとを吟味することも肝心である。

 次に、導入から展開に至る過程での留意点は、各々の生徒に他者との関わりを制限した中で考える時間を確保することである。「A表現」であれば構想を練る時間、「B鑑賞」であれば、作品から感じ取ったことを整理する時間である。この時間が一定時間確保されることと、互いの考えが述べやすい支持的風土が学級に築かれていることで学び合いが機能するのである。教師から生徒に、急に普段とは異なる形式やタイミングで物事を要求しても、よい反応は期待できない。繰り返して習慣化し、その活動を行う必然性や自然な流れが生まれてこそ生徒主体の学びが成立するのである。

ポイント3 協働的、対話的に学び、深い学びへとつなげる

 作品を制作する過程では、自分とは異なる他者の表現にふれる、相互評価するなどの手立てを講じる。そうすることで、生徒は、自分に必要な情報を選択したり、これから作品に表そうと思っていることについての思考・判断したりする場となり得る。また、自分とは異なる他者の発想にふれることは、生徒の思考の幅を広げ、生徒の資質・能力をより一層広げる効果が得られるものとなるし、作品を通した他者理解や自己理解の一助にもなる。

 新しい学習指導要領では、「「A表現」及び「B鑑賞」の指導については、相互に関連を図り、特に発想や構想に関する資質・能力と鑑賞に関する資質・能力とを総合的に働かせて学習が深められるようにすること。」とある。表現の活動の中で仲間と作品を鑑賞し合う場面や、提示した作品の鑑賞を基に課題解決に役立てる場面を効果的に取り入れる。なお、そのような協働的、対話的な学びの展開にあたっては、必然性を重視し、言語活動そのものが目的とならないよう留意する。

ポイント4 板書、自己評価シートでの見通し・振り返り

 生徒が授業のはじめに目標をもち、その評価を行うことは、生徒が自己の学びをとらえて見通しをもち振り返るなど自己を客観的に見つめる力を育むうえで重要なことといえる。その手立ての一つに自己評価シートがある。項目としては、目標の設定、成果や課題、次時の課題等があり、毎時の振り返りが積み重なると、自己の学びの過程や成長を捉えられるものとなる。ただし、その記入に時間をかけすぎて制作の時間の妨げにならないようにする。整理された板書も大切である。生徒は、振り返りを行う際、板書を手掛かりとして見直している。そのため、題材名や学習課題、制作のポイント、参考作品などをシンプルかつ視覚に訴えるように構成した計画をすることがポイントである。

ポイント5 生徒の意欲を高める評価のポイント

 教師は前述の自己評価シートや作品にコメントを入れる。それが無理であれば、伝えたい助言を机間指導の際、直接伝えるなどして適時、評価を行う。また、作品を校内に展示し、定期的に入れ替えることも行いたい。多くの人の目にふれて評価されることで、生徒の自尊感情は高まるし、授業への意欲の喚起へとつながるのである。

(北海道造形教育連盟 事務局次長 札幌市立真栄中学校 主幹教諭 寺田実)

※次回は、美術科編②「生徒の学びを考えた題材設定のポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-14付)

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