【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.40美術科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「生徒の学びを考えた題材設定のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-15付)
◆題材配列で関連もたせる計画的な指導を
ポイント1 題材設定にあたって~生徒先にありき
昔、「教科書なんか使ったことがありません」という先生方が多く見受けられた。確かに他の教科と異なり、美術科では教科書に掲載されている題材は例であって、題材に拘束力はないが、何をやってもよいということにはつながらない。自分で新しい題材を開発することは大切であるし、既存の題材でも生徒の実態に合わせて一部を変えていくことは必要である。
しかし、題材を設定する上で生徒の存在を忘れてはならず、その題材で生徒の資質・能力を育成することができているかということを踏まえて、題材を設定しなければならない。
また、設定した題材を行う時期、順番、他題材との関係性も重要である。中学校3年間の美術科の授業で、生徒の資質・能力を計画的に育成するためには、どの題材を取り上げるのか、取り上げた題材をどの時期に行うのかを年度当初にカリキュラム表として作成しておく必要性がある。題材にかける時間、各題材を行う時期は学校や生徒の状況から年度途中で変える場合もあるが、はじめに授業計画を立てておかなければ、生徒の資質・能力を計画的に育成することはできない。
ポイント2 基礎的なことは早いうちに、そして何度も
例えば道具の使い方に着目した場合、ポスターカラーを使用した題材を行う際に、絵の具の特性や使い方を知って着色するのと、知らないで着色するのとでは生徒の意欲に大きな差ができる。1年生でポスターカラーの特性や扱い方、平塗などの筆の使い方を体験しておけば2・、3年生でそのことについて詳しく説明しなくても、説明にかける時間の代わりに作品の構想を練ることに時間をかけることができ、生徒も今までの経験から、自分なりに工夫することができ、表現に広がりが出る。また、作品の完成度も変わってくる。このように、用具の使い方に関してはとにかく早い段階で生徒に経験をさせ、その経験を積み上げていくことが必要である。また、用具の基本的な使い方を身に付けておくと、生徒が作品制作の段階で表したいことを自分の構想通りに表せるので、達成感、満足感をもった主体的な創造活動につながっていく。自分で発想したことを思い通りに表現したくても表現できないことがきっかけで意欲がなくなる生徒が多い現状を考えた場合、技術的な経験を早い段階で行い、経験を積み重ねていくことは、表現するという行為に自信が加わり、苦手意識の解消にもなるはずである。
このような学びの積み重ねは、用具の使い方などの技能面に限ってではなく、発想し表現する場面にも生かされる。特に抽象表現については導入が重要となってくる。生徒は自分の心の中をいきなり絵や彫刻で表してみようと言われても戸惑うだけである。まず、抽象表現というものがどういうものなのか、教科書や資料集などで作品を鑑賞してみる。さまざまな画材や粘土などで自由な表現方法を試みるなど、3年間1回きりで終わらせず何度か機会をもって体験させることが、知識となり主体的に学びに向かうこととなる。
ポイント3 関連性をもった題材配列と経験の積み重ねを
次に題材配列について考えたい。札幌市教育研究推進事業(札教研事業)中学校美術研究部では各校にカリキュラム表をもとに学習計画表を作成してもらったものを毎年集約し、各校が実践した授業案とともに冊子にして全市の中学校美術研究部員の先生方に配布している。その中の学習計画表には、各題材を描く・つくるに分け、題材の横に時数を記入してある。表を見ていただきたい、1年生で手のクロッキーやデッサン、2年生で人物、そして3年生の自画像で自分の内面まで表現するというように段階的に題材を発展させている。また、1年生で形や色で自分を伝える平面による抽象表現を行い、2年生で粘土による抽象表現を立体物として表す授業をし、抽象表現を段階的に広げていることがわかる。この表は一例であるが、札教研事業中学校美術研究部では、題材ごとのつながりを工夫し、学習計画表を作成している学校も増えてきている。時間的な問題がありスムーズに題材が関連しない部分もあるが、授業をつくる際に3年間を考えて計画を立て、進めていくことが大切である。
ポイント4 生徒主体の授業で資質・能力を育む
世の中が早いサイクルで変化し、生徒たちも変わってきている現状にもかかわらず、美術教師が各校一人体制の中でカリキュラムを作成するのは負担となる場合が多い。
新しく学校に赴任した際、どのように授業を進めていくのか、特に教師自身の経験にかかわらず、戸惑うことが多いはずである。学習指導要領もかわる中、以前からある題材をそのまま実践することは現状にあっているとは言えない。
生徒の実態や地域社会の実情を考え、生徒主体の授業となるようにカリキュラムを更新していくことは、重要なことである。このように生徒のどのような資質・能力を育てるのかを第一に考え授業をつくることが、生徒の学びの成長につながっていくということを私たち教師は忘れてはならない。
(北海道造形教育連盟 研究部副部長 札幌市立八軒東中学校 教諭 石川早苗)
※次回は、北海道道徳教育研究会「道徳科編①」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-15付)
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