【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.37図画工作科編①北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「育む力を基にした授業づくりのポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-09付)

第37回道造形連盟(小)①の1
思い思いに豊かな発想・構想から創造的な技能に結び付ける子どもたち

◆作品の評価から資質・能力の評価へ

ポイント1 感激から落胆へ~日常の授業に潜む問題点

 そもそも造形教育とは、またその初等教育段階を担う図画工作科とは、子どもにどんな力を育むべき教科なのか。その大前提が指導者に正しく理解されていなくては、子どもにとって学ぶ価値のある学習は成立しない。

 年末年始、北海道造形教育連盟が主催する北海道教育美術展及び、旭川市教育研究会図工美術部会が主催する旭川市児童生徒作品展の審査研修会に参加する機会を得た。共に絵画や版画など平面作品を審査する研修会であるが、その過程で同じような場面に出くわした。ある学級の出展を見たときに、「個性的な色遣いだな」「工夫された画面構成だな」と感じる作品に出会った。ところが2枚目3枚目と見ていくうちにその印象は、落胆へと変わっていったのである。子どもたちの作品が皆同じような表現なのである。では、その何が問題なのであろうか。

ポイント2 資質・能力を育む手段と目的を明確に

 現行の学習指導要領を基にすると、図画工作科の授業では導入として教師が、「今日はこんな材料や用具を使ってこんなテーマで取り組みます(題材)」と子どもに提案する。子どもは、「自分はこんなことを表現したいな(発想・構想)」と考える。そして、「こんなふうに表したいな(創造的な技能)」と工夫しながら取り組むという学習の過程を経る。ところが、学級全体として同じような表現になるということは、教師の「こう表現させたい」という思いが強くなり過ぎ、子どもの「発想・構想の能力」「創造的な技能」といった資質・能力が十分に発揮された授業が成立したとは言えないのである。

 つまり、図画工作科の学習において、絵を描いたりものをつくったりすることは手段であり、考えたり工夫したりすることが一番の目的なのである。

ポイント3 あるべき評価を言語活動で明確にする

 「こんなことを表したいな」「こんなふうに工夫してみよう」といった資質・能力が発揮されている場面は、子どもの頭の中で起こっている思考であり、そのままでは知ることができない。子どもに教えてもらうしかないのである。そのため教師は授業中、目の前にある子どもの表現と頭の中で起こっている思考の関係性を取材(対話)したり、それらのことが見て取れるような学習カードや作品カードを工夫したりすることが大切になってくる。また子どもにとっては、思考を言語化することによってやりたいことが明確になったり新たな考えが浮かんだりするきっかけとなるのである。

 指導と評価の一体化とよく言われるが、図画工作科ではこのように言語活動によって子どもの資質・能力を引き出し、それを評価していくことが大切である。

ポイント4 経験の積み重ねから未来を生き抜く力を育む

 造形活動で材料として使われる画用紙・粘土・板・身辺材などは、それ自体には価値はない。しかし、子どもたちが考え工夫し形や色を付け加えることによって、その子にとっての意味が生まれる。その発想のおもしろさや美しさが感動として他者に共有されることによって、価値が生まれる。造形教育の本質は、無から意味や価値を創り出す力を育む教育とも言える。

 新学習指導要領の策定過程では、いろいろなキーワードが話題になった。その一つに「コンピテンシー」という考え方がある。日本語に訳すると「汎用的な能力」となろうか。一つの教科で学んだ見方や考え方が、教科横断的に働いたり日常の生活場面で働いたりする能力を指している。そして今、このような能力の育成が求められているのである。

 人工知能を始めとする技術革新により、未来における産業構造や働き方が大きく変化するだろうと予想されている。

 初等教育の段階で、いろいろな材料を自分の発想で組み合わせて新しい意味や価値を創り出す経験の積み重ねは、子どもたちにとって将来いろいろな知識や情報、技術を組み合わせて新しい価値を創り出すコンピテンシーにつながる素地となっていく可能性を秘めていると考える。

(北海道造形教育連盟 研究部長 札幌市立三角山小学校 教諭 湯浅大吾)

※次回は図画工作科編②「〝こと〟をつくる図工の時間 指導のポイント」を掲載します。

この記事の他の写真

第37回道造形連盟(小)①の2
思い思いに豊かな発想・構想から創造的な技能に結び付ける子どもたち

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-09付)

その他の記事( 伝えたい!授業づくりの基礎・基本)

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.42道徳科小学校編②北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「道徳科 評価のポイント」

第42回北道徳研(小学校②) ◆時間軸、考えの広がり・深まりの視点で ◎学校が直面している課題  文部科学省教科調査官等を歴任した赤堀博行氏は、著書「『特別の教科 道徳』で大切なこと」の中で「体もそうであったように、...

(2018-02-19)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.41道徳科小学校編①北海道道徳教育研究会(松井毅会長)「中心的な発問を軸にした読み物資料活用のポイント」

伝えたい、第41回北道徳研・小学校 ◆教師の舵取りで中心発問の時間確保を ◎心情理解の授業からの脱却  平成30年度の道徳の特別教科化全面実施に向けて準備が進んでいる。大きな変化としては、教科書の配布がある。今後、道徳科で...

(2018-02-16)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.40美術科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「生徒の学びを考えた題材設定のポイント」

伝えたい、第40回造形連盟中 ◆題材配列で関連もたせる計画的な指導を ポイント1 題材設定にあたって~生徒先にありき  昔、「教科書なんか使ったことがありません」という先生方が多く見受けられた。確かに他の教科と異なり...

(2018-02-15)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.39美術科編①北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「美術科 授業づくりのABC」

第39回造形連盟中① ◆評価の工夫と支持的風土で深い学びへ ポイント1 授業の前にすべき事柄をしっかり押さえる  美術科の授業づくりにおいて、事前の仕込みや環境整備、生徒の実態把握については、とても重要で、生...

(2018-02-14)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.38図画工作科編②北海道造形教育連盟(阿部時彦会長)「〝こと〟をつくる図工の時間 指導のポイント」

第38回造形連盟②写真「授業風景」 ◆「ものづくり」から「ことづくり」へ ポイント1 子どもの造形的な見方・考え方を深い学びへ  「先生、黒い画用紙ないの?」この言葉は、私が1年生を担任した時の子どもの言葉である。色画用紙...

(2018-02-13)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.36中学校理科編④北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「評価を活かす授業のポイント~探究のプロセスシートの活用」

第36回道中理④図版資料 ◆探究過程の検討から総合的に振り返る力を 【今求められる生徒の自己評価力】  新学習指導要領では、思考力・判断力・表現力等の資質・能力の一つとして、「自然事象の中に問題を見いだして見通し...

(2018-02-08)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.35中学校理科編③北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「生徒を探究に向かわせる観察・実験のポイント」

第35回道中理③写真 ◆探究過程のある学習活動で考察を深める ポイント1 理科の目標と「観察、実験」の関わりをつかむ  平成29年3月公示(2021年度全面実施)の新学習指導要領において、理科の目標は、次のよ...

(2018-02-07)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.33中学校理科編①北海道中学校理科教育研究会(本間玲会長)「思考力・判断力を育む工夫 実践のポイント」

伝えたい第33回道中理上 ◆必然性・解決意欲のある課題を強く持つ 【思考力・判断力を育むための基盤としての「見方・考え方」】  中学校理科授業において、思考力・判断力を育む授業づくりのためには、「理科の見方・考え...

(2018-02-05)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.32中学校外国語科編④北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「授業のイロハ 実践のポイント」

伝えたい北中英研武富教諭 ◆授業こそ実際のコミュニケーション場面だ ポイント1 見通しをもたせ振り返りを大切にする  授業においては、授業の始めに目標を示し、子どもたちに見通しをもたせることが大切である。目標は、...

(2018-02-02)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.31中学校外国語科編③北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)「コミュニケーション能力を育てる仕掛け 実践のポイント」

伝えたい北中英研 ◆即興的なやりとりができる生徒を育てる ポイント1 生徒が英語を使えるようになるために  教員になって、在籍生徒数800人の学校にも8人の学校にも勤務してきたが、地域や学校規模がどうであ...

(2018-02-01)  全て読む