【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.44中学校社会科地理的分野編 北海道社会科教育研究会(坪内伸樹会長)「主体的に社会に参画できる生徒資質・能力育成のポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-21付)
◆21世紀型学力への変換目指す
1 はじめに
第4次産業革命。後世から振り返れば、「現代」は大きな時代の転換点であろう。情報化やグローバル化、少子高齢化の進展に伴う社会の大きな変化。さらにAIの進化・普及とIoTの進展により、現代社会では劇的な変化が起きている。子どもたちの65%が将来、今は存在しない職業に就く。衝撃的な研究報告もある。
これまでの常識が通用せず、社会から求められる学力も変わった。過去の成功パターンは通用せず、予測困難な時代を生き抜く力を子どもたちに身につけさせなければいけない。それこそが、私たち教師が担う重責ではないだろうか。
2 どのように学ぶか
では、子どもたちに育成すべき力とは何か。これからの時代に必要な資質・能力をどのように学ぶべきなのか。
新学習指導要領が示す、「育成を目指す資質・能力」。その一端が「21世紀型学力」であり、その力を培うためには「主体的・対話的で深い学び」が必要であろう。
本研究会では平成29年度までの3か年、「主体的に社会に参画できる児童・生徒の育成」を主題に継続研究を進めてきた。その理論と実践は、新学習指導要領と軌を一にするものである。以下に、昨年10月に札幌市立栄中学校の大野玄徳先生が行った実践を報告させていただく。
3 授業構成
(1)題材 「世界都市 TOKYO」
(2)本時の目標
東京都が世界都市として高い評価を受けている理由を他者との関わりの中で ワークシートに書くことができる。
首都「東京」が世界都市ランキング3位という点に着目させ、なぜ世界都市として高い評価を得ているのかを考えさせる。その学習を活かしながら、「札幌」の都市機能の向上について考えることで生徒の社会参画につなげる構成となっている。
手順1 解決すべき課題を明確にする
生活の利便性の高い「都市」は多様な問題も抱えている。人口が集中する過密、都市型の災害や都市化に伴う水やごみ処理といった問題がある。古都京都では、都市化と伝統的な街並みの保存、調和が難しい問題になっている。世界に目を向けても同様だ。世界の大都市はその多くが問題を抱えている。このような状況で、東京が高い評価を得ていることは生徒が自ら解決したいと思う課題ではないだろうか。
手順2 学んだことを生かして課題を解決する
単元を通した学習で、関東地方の自然、首都東京の役割、東京大都市圏や関東地方の産業等について学習している。そこで習得した知識・技能を活用して課題解決に向かわせる。
例えば、東京以外の関東圏からの労働力が東京の経済を支えていること。これは「人口」という視点から結びつきを捉えることになる。東京と隣接する県に空と海の「玄関」があり、日本有数の工業地帯が発達していること。これは「産業」という視点からの結びつきを捉えることになる。このように既習事項を視点として、課題解決に迫るものとした。
手順3 自己決定の場面を設定する
協働学習は他者の意見や考えが自己に作用し、より深い思考の学びとなる。本時でも、個人→集団(協働学習)→個人というながれで課題に取り組んだ。
協働の手立てとして、「ジグソー学習的」な手法を取り入れた。二段階で、動きのある協働学習を行うことで、効率よく多様な意見に触れることができていた。6つのキーワードから2つを選び、関連付けて説明することで、東京を多面的・多角的に捉えることになる。そして、グループ発表後に、複数の意見の中から「自分が納得する解決」「他者を納得させられる解決」を自己決定する生徒の姿が見られた。
手順4 振り返りの場面を設定する
自己決定の際にワークシートを用いて授業を振り返る。その時に、誰の意見に影響を受けたか、納得したか。また、誰の意見で自分の考えが変わったか。というように他者との関わりを意識した振り返りをさせ、「□□の資料からこう考えられる」というように根拠が明確な解決を目指すことにした。
手順5 課題を広げる場面を設定する
東京が他地域と結びつきながら、世界都市として発展してきたことを学び、理解する。そこで習得した知識を活かし、最後に自分たちの「札幌」の発展を考えさせた。多少なりとも意識は高まった。将来の主体的な社会参画につながったのではないだろうか。
(北海道社会科教育研究会 中学校研究部副部長 札幌市立月寒中学校 教諭 佐藤元基)
※次回は、公民的分野「資質・能力育成のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-21付)
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