【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.48小学校家庭科編②北海道小学校家庭科教育連盟(新岡惠会長)「新しい家庭科 内容A 指導上のポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-27付)

伝えたい小学校家庭科2
模擬体験で問題点を見つけ、家庭での整理・整頓に意識を高める子どもたち

◆他内容と関連させての題材構成を

ポイント1 内容A(家族・家庭生活)の重要性を知る

 新学習指導要領の目標で目を引くのは、現行指導要領の目標には無かった言葉である。「日常生活の中から問題を見いだして課題を設定し、その課題を解決する力を養う」と「家族や地域の人々との関わりを考え、生活をよりよくしようと工夫する」の二点である。

 このことを受け、内容Aに「家族・家庭生活についての課題と実践」が新設されたり、「家族や地域の人々との関わり」において、幼児または低学年の児童、高齢者など異なる世代の人々との関わりに関する内容が新設されたりしている。

 内容Aは、今回の改訂の影響を大きく受けている。家庭科の目標を達成するために内容Aは重要で、私たち教師は、どのようにして学習させるとよいのかをしっかりと考えていく必要がある。

ポイント2 他内容と関連させた題材計画を工夫する

 中には、内容Aをどのように組み合わせて題材を構成するとよいのかと、頭を悩ませている教師も少なくはないであろう。

 内容Aを単独で題材構成することは、体験的・実践的活動を通して学習するという点で、難しい。

 そこで、他の内容項目と組み合わせた題材構成を提案したい。内容A「家庭の仕事の計画を考え、工夫すること」と「快適な住まい方」を組み合わせて題材を構成した授業実践を紹介する。

 5年生児童21名を対象に、内容C(快適な衣服と住まい)の「かたづけよう 身の回りの物」と関連させて授業実践を行った。

 この題材は一般的に、①『整理・整頓の必要性を捉える』→②『自分の身の回り』→③『校内の共有スペース』→④『家庭実践』というような構成になるであろう。

 しかし、本実践では、次のように題材を構成した。①『整理・整頓の必要性を捉える』→②『自分の身の回り』→③『校内の共有スペース』→④『家庭での整理・整頓模擬体験』→⑤『家庭実践』という構成である。

 この構成のよさは、④にある。家庭の事情により、実際に家庭で整理・整頓の実践を行うことが難しいという児童もいる。しかし、仮想の家庭の様子をもとに整理・整頓の工夫を考えていくことで、児童全員が同じ土俵に立って、工夫を考えられるようになるのである。さらに、散らかっている様子の写真を見て出た「わたしもとりあえずボンっとおいちゃう」「うちの延長コードもこんな感じでぐちゃっとしている」というつぶやきに「そうそう」という言葉が聞かれた。

 これまで主に学校生活に目が向いていた児童も、自分の家庭に目が向き始めていることが分かる。

 今回の題材構成の工夫により、学校生活の中から生まれた問題意識を家庭生活での問題意識へと高めることができたのである。

ポイント3 家庭生活に意識を向ける導入を工夫する

 このような児童の姿が見えるには、題材の導入部分にも仕掛けがある。実践前に行ったアンケートに自分の身の回りだけでなく、家の様子に対する質問項目も入れておいたのである。子どもたちの問題意識のスタートには、ぼんやりではあるが、家庭生活が想定されていたのである。そうしたことで、題材を通して家の中を整理・整頓して気持ちよく生活したいという思いが、児童らの意識の中に常にあったのである。

 内容Aと他内容を組み合わせて題材を構成するときには、題材の導入から家庭を意識した問題意識をもたせることが重要である。聞く人によっては「家庭科なのだから、そんなこと当然だ。」と思われるかもしれない。その当然なことを当然に行っていくことが、重要なのである。題材の途中で、家庭生活と結び付けようとしても難しいものである。児童の出発点に家庭生活への問題意識が無いのだから。

ポイント4 家庭生活に返っていく展開を考える

 授業は、これまでの活動を通して身に付けた整理・整頓のポイントを確認し、散らかっている様子の写真を提示した後、それらのポイントを活用して、どのように整理・整頓するとよいかグループに分かれて考えていった。

 「文房具や紙類、衣類などを分類して置く場所を決めるといい」「このコンピュータにつなげる物は、きっとお父さんのものだから、お父さんの部屋にもっていくとよい」「ダンボールの中身は何だろう。気付いた人が、中身を出して分類すると使いやすくなりそう」というように、家庭生活ならではの整理・整頓の工夫を考えることができていた。

 最後に、「自分の家庭で整理・整頓するとしたらどのようにするか」と授業者が尋ねると、「共有の物と個人の物では、整理整頓の仕方を変えないといけない」「自分のものじゃないときには、家族に尋ねてから片付ける」など、家庭を意識した工夫は考えられていた。

 内容A「家族・家庭生活についての課題と実践」が新設されたことからも、内容Aがこれまで以上に注目されることは必至である。内容Aと他内容をどのように組み合わせていくとよいのか、これからも考えを深めていきたいと思う。

(北海道小学校家庭科教育連盟 研究部Aグループ長 北海道教育大学附属札幌小学校 教諭 海野康之)

※次回は、北海道小学校家庭科教育連盟③を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-27付)

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