【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.46中学校社会科公民的分野編 北海道社会科教育研究会(坪内伸樹会長)「主体的に社会に参画できる生徒 資質・能力育成のポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-23付)

伝えたい北社研裁判員制度
裁判員制度や裁判の判例について対話的に学ぶ生徒たち

◆現代社会の見方・考え方を働かせた学習を

1 研究の3つのポイント

 本研究会では、平成29年度までの3年間、主体的に社会に参画できる生徒の育成を目指し、次の3つをポイントとして研究を進めた。

ポイント1 生徒が主体的に解決に向かう問いの設定~その問いとは、生徒が解決したいと思う問いである。つまり、生徒自身がその社会的事象を切実にとらえ、解決の必然性のある問いである。また、既習事項の知識や生徒の経験値との差異から生じる問いである。一般的に「なぜ」や「どうして」といった知的好奇心によって生まれる問いである。

ポイント2 習得した知識・技能を活用する学習~身に付けた知識や技能が問題解決に関わったり、役に立ったりする学習で、学んだことが生かされた経験を伴うものである。その結果、自分の学びを意識することにより、自ら学ぼうとする意欲の向上を期待することができる。

ポイント3 協働して問題解決に向かう学習~共有化された学習課題に対して、他者とともにその解決に取り組む活動である。自分と他者が関わることで、考えの相違などから思考が揺さぶられたり、事象に対して自己判断した内容をとらえ直したりすることになる。

2 実践例1 社会的事象の利害関係が具体化された教材の工夫

 「スノータイム実施条例」という架空の条例を示し、その条例の適切さについて、独居老人や小さな子がいる共働きの家庭など様々な立場から考察するという授業である。

 この条例には、地域の中学生は率先して近所の雪かきをしなければならず、雪かきをしなかった場合には罰則が定められている。除雪問題を解決するための条例であるため、生徒たちは条例の趣旨には納得している。しかし、中学生にとって不都合なことも含まれているため、条例内容の改善を自ずと考えることになる。あえて、立場によって都合の悪いことやよいことを含めることで、生徒自身が「なぜそうなるのだろうか」「どのようにすればよいのだろうか」などと生徒自ら問いを生み、その解決に対して、主体的に向かうことになる。

 このように社会事象における利害関係を具体化した教材の活用によって、生徒が主体的に解決に向かう問いが生まれるのである。

3 実践例2 多角的な視点と「効率と公正」を用いた価値判断

 裁判員裁判の判決内容が高等裁判所で覆った事例から、裁判員制度について考える授業である。

 この事例について、肯定の主張をする弁護士と否定の主張をする弁護士の新聞記事を読み、それぞれの立場になって討論するのである。肯定・否定・観察の立場を設定し、生徒が多角的に事例をとらえられるように、それぞれの立場を替えて、マイクロディベート的な討論を行った。その後、この討論を通して、「裁判員として判決を出すときに大切なことは何だろう」という課題を、「効率と公正」を視点として、社会的事象を価値判断する。このような活動により、自分の学びを意識することで、学習への意欲の向上が期待できるのである。

4 実践例3 限られた条件の中での優先順位の決定

 校区にある駅周辺で行われている再開発を通して、地方財政のあり方を考える授業である。再開発にかかる費用は地方財政からの支出である。そのため、その支出には公共性や公平性などを十分に配慮しなければならない。「図書館が欲しい」「コンサートホールがあるといい」など、生徒は地域住民として再開発にさまざまなものを要望する。しかし、お年寄りや障がいのある人、小さな子を持つ共働き家庭などさまざまな立場の人が地域に住んでおり、財政の予算には限りがあることに気付くことになる。そして、立場により設置すべき施設の優先順位が異なることを踏まえ、望ましい再開発のあり方を考えることになるのである。

 このように異なる立場で考え、地方財政に関して共通した課題に取り組むことで、協働して問題解決に向かう学習の成立となるのである。

5 公民的分野の「見方・考え方」を活用した学習活動

 新学習指導要領では各分野の「見方・考え方」は、「内容」の「○○に着目して」という表現で示されており、公民的分野では、「現代社会の見方・考え方」を働かせた学習を行うこととされている。

 現行の学習指導要領では「対立と合意」「効率と公正」が見方や考え方の基礎として示されている。今回の改訂では、「位置や空間的な広がり、推移や変化」(A 私たちと現代社会)、「分業と交換、希少性」(B 私たちと経済)、「個人の尊重と法の支配、民主主義」(C 私たちと政治)、「協調、持続可能性」(D 私たちと国際社会の諸課題)などに着目するとして示された。これからの公民的分野の授業づくりにおいて、これらの「見方・考え方」を活用した学習活動が求められる。

(北海道社会科教育研究会 事務局次長 札幌市立平岡緑中学校 教諭 菅谷昌弘)

※次回は、北海道小学校家庭科教育連盟①を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-02-23付)

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