【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.16体育科小学校編 北海道学校体育研究教育連盟(中野正毅委員長)子どもの思考を大切にした単元構成のポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-05付)
◆大局観を念頭に自ら学びのデザインを
◎主体的・対話的で深い学び実現のために必要な大局観
「大局観」(たいきょくかん)という言葉がある。将棋や囲碁などの世界でしばしば目にする言葉である。全体の様子を判断して的確な形勢判断をする力であり、部分を見て、全体を類推するということである。
体育科において主体的・対話的で深い学びを実現させていくためには、この「大局観を念頭に置いた単元構成」を大切にしていくべきではないかと考える。
ポイント1 大局観を念頭に置いた単元構成を
悠然と流れる大河のような単元構成であるとイメージしていただきたい。児童はその大河を様々な方法(個の課題設定、課題解決)で下り、海(単元の終末)を目指す。
ご存知の通り、それぞれの運動には、技能の習得や向上のためにいくつか押さえるべきポイントが存在する。これを私たち教師は「こつ」「技能ポイント」と呼ぶことが多い。単元を構成していく際に教師は、児童の思考の流れを想定しながら、毎時間に一つずつこれらのポイントを配置することが多いように思われる。
高学年、陸上運動「走り幅跳び」を例に挙げてみよう。学習指導要領の例示には、「リズミカルな助走からの走り幅跳び」と示されてあり、「7~9歩程度のリズミカルな助走をすること」「幅30~40㎝程度の踏切ゾーンで力強く踏み切ること」「かがみ跳びから両足で着地すること」と解説されている。運動の特性から、「助走」「踏み切り」「空中姿勢」「着地」という4局面が見えてくる。これら順次性のある局面が子どもにとっても順序に従った課題となっていくかというと、そうならないことの方が多い。つまり、「まずは、助走に目が向いて、助走がクリアできたら、その次は踏み切りの場面に問題意識をもって、その次は空中姿勢が…」とはならないのである。したがって、各時間には、その子に応じた局面での課題に取り組める学習課題を設定することが必要になる。個に課題が生まれなければ、主体的・対話的で深い学びの実現は難しいと考える。
ポイント2 個に応じた課題探究を
同じ走り幅跳びに取り組んでも、一人一人が感じる問題意識はそれぞれ違う。A君は踏み切りの仕方に問題意識が生まれるが、Bさんは、助走が合わなくて困りを感じているといったようにである。そこに、先述したような教師からの学習課題が与えられても、全員にフィットしないのは当然である。今後、主体的・対話的で深い学びを実現させていくためには、「練習方法を工夫して、自分の課題を解決しよう」など、これまでの学習課題より広さを感じさせるものを設定し、2~3時間継続させてみてはどうだろう。こうすることで、A君は力強い踏み切りのための練習に取り組み、Bさんは、巻き尺を活用しながら、自分に合った助走距離を試し見付けることができる。個の課題設定から課題解決までを十分に保障するのである。児童が教材から課題を生み出し、自ら運動や仲間とかかわりながら学びを深めていくには、これくらいの広い学習課題とまとまった時間を提供していく必要があると考える。悠然と流れる大河のような単元構成とは、このことである。
ポイント3 指導と評価の一体化を
このたび紹介している単元構成の考え方は、学習カードと教師の見取りが重要な役割を担う。走り幅跳びの例のように、同じ時間にA君とBさんは違う課題を解決しようとしている。教師はそれを把握しなければならないのは言うまでもない。これがなければ、学習として成立はしないだろう。走り幅跳びの学習カードであれば、助走、踏切、空中姿勢、着地といった一連の流れを図で示すべきである。自分は今どの部分に問題意識をもっているのか考える手助けとなる。自分の課題、本時の活動のふり返りを書きこむ欄と、次の時間どんなことに取り組みたいかを記入する欄は必須となるだろう。個の課題設定はここから生まれるのではないだろうか。
個の課題解決に取り組む際、児童が適した活動を選択できるように、教師は多様な練習方法を事前に準備しておくとよい。また、これらを準備運動に取り入れることで、解決のための活動を選択する見通しももちやすくなる。
「大局観を念頭に置いた単元構成」は、児童が自らの学びをデザインする学習過程だと言える。
(北海道学校体育研究連盟事務局研究部 札幌市立稲穂小学校 教諭 前田 潤)
※次回は、「中学校短距離走・授業づくりのポイント」を掲載します。
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(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-05付)
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