【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.11社会科中学校編 北海道社会科教育連盟(新保元康委員長)資料活用のポイント
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-21付)

伝えたい道社連(中)
教科書や資料集から資料の見方を磨き、分析し合う子どもたち

◆資料の「窓」から社会を見つめる目を

◎情報化社会だからこそ~今こそ必要な教科書資料の活用

 情報化社会の進展で様々な情報を容易く得ることができるようになったが、裏付けとなる根拠が不十分なものもあり、情報との関わり方は難しくなっている。子どもたちが本当に必要な情報を取捨選択して活用することは、これからますます重要になっていくだろう。だからこそ、教室で学ぶ意味や意義がある。

 例えば教科書の資料は、客観的な視点によって整理された情報の一つである。資料の見方を磨き分析力を高めるためにも、教科書を効果的に活用したい。

 また、資料の読み取りが生かされ、仲間との学び合いを通じて社会的事象をより多角的に理解することにつながれば、その学習内容が深く残り、自分の成長を実感できる。「社会をよく見つめる窓」としての魅力的な資料を準備・提示し、子どもたちの心に残る授業を構築したいものである。

ポイント1 資料の読み取り~どんな資料をどの場面で活用するか

【資料を選択する時の視点】

・ねらいや目的に合っているか

・生徒の思考の流れに沿っているか

・生徒の考えの根拠になるものか

・わかる楽しさ、気づく楽しさがあるか

・汎用性があるか

〇どんな資料を活用するか~教科書で学ぶ方法

 教科書だけでも写真・地図・グラフ・図式・年表など、多くの資料のパターンがある。目的に応じてより適切な資料を選択する。単位や縮尺、メモリ、年度、出典に注意したい。

1 写真

 教科書を開くと、はじめに写真資料が掲載されていることが多い。これは学習内容に関わる象徴的な場面を提示することでイメージの共有化を図ったり、授業の問いを生み出したりするのに効果的だからである。時代や地域の違いに注目する等、教師の投げかけ方によって様々な活用ができる。

2 主題図・各種グラフの読み取り

 生徒が自分の考えを裏付ける根拠として活用できる。経年変化を分析したり「この資料は何をわかりやすくするために工夫されているか」、「この資料からはわからないことは」等、資料を活用したりする際に大切な客観的な視点を養える。

3 読み物資料

 描かれた人々の姿を通して、社会的事象を自分事としてとらえられる。

4 年表

 大小様々な時代区分でまとめられた年表を活用し、時系列を読み取るだけでなく、出来事の因果関係や時代の転換点を考えさせる。

〇「生きた資料」にするひと工夫を

 グラフで注目させたい部分を拡大機等で大きくしたり、色を加工したり、一部分を隠して予想させたりすると、より効果的である。

〇どの場面で活用するか

 一つの授業を3つの場面に分け、活用方法を例示する。

1 問いを生む場

 学ぶ意欲を喚起するような魅力ある導入にするために、子どもの予想とは異なる資料や視点を提示し、「なぜ」「どうして」等の学習課題を引き出す。

2 多様な考えを引き出し、つなぐ場

 「なぜ」「どうして」「どのように」等の学習課題を考えるために、具体的な資料を提示し、読み取ったことを根拠に各自の意見をやり取りする。「君はどう思うのか?」と問いかけ、各々の考えを引き出し交流すると、多様な考え方や価値観に触れ、さらに各々の見方や考え方が深まることにつながる。

3 既習事項を生かし、思考を広げる場

 既習事項との関わりを意識させると、ばらばらに見えていた事柄が関連付けられたり、様々な視点や立場で考えられたりする。

ポイント2 資料活用の様々な効果~情報の再構成力を磨く

 学習内容を各自が白地図や略年表、主題図などにまとめる活動を通して「情報を再構成する力」も磨きたい力の一つである。この力は書く(描く)ことでより鍛えられるが、不得意な子どもには教科書の資料をまねる等から始め、抵抗感を緩和させたい。得意とする子どもには、様々な情報がつながった時の楽しさを感じさせたい。

 また、資料の読み取りは、子どもがもつ数量や時間の感覚を養える。例えば1万人の人・10年後の自分・50年後の日本等、人の数や時間、距離、範囲等の数値は、身近なことに例えたり、既習事項との比較等を通したりして実感的にとらえさせたい。各々の中に物事を理解するためのスケールや地図があると、より自分事として理解する姿勢にもつながっていくだろう。

ポイント3 単元や分野を見通した資料活用を

 新学習指導要領では、子どもが「何に着目して、どのような事実(情報)をとらえ、どのように考えるのか」が具体的に示された。最終的に目指す子どもの姿を意識すると、分野ごとに社会的な見方や考え方を働かせた資料の活用方法が見えてくる。そのような視点で教科書を一通り見つめ直し、掲載されている各種資料の意図を考え、より適切な活用方法を検討してみたい。

 情報を取捨選択し自分の判断・決断につなげていく力は、今をよりよく生き、未来を切り拓く資質・能力として欠かせない。公平公正に、そして希望を抱いて、資料という「窓」から社会を見つめる目を養いたいものである。

(北海道社会科教育連盟札幌地区 札幌市立向陵中学校 教諭 長尾美保子)

※次回は、北海道算数数学教育会(中学校編)「問題と問題提示のポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-21付)

その他の記事( 伝えたい!授業づくりの基礎・基本)

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.16体育科小学校編 北海道学校体育研究教育連盟(中野正毅委員長)子どもの思考を大切にした単元構成のポイント

伝えたい・上 ◆大局観を念頭に自ら学びのデザインを ◎主体的・対話的で深い学び実現のために必要な大局観  「大局観」(たいきょくかん)という言葉がある。将棋や囲碁などの世界でしばしば目にする言葉である...

(2018-10-05)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】No.15数学科中学校編④北海道算数数学教育会中学校部会(中山勝喜部会長)確実に定着させるための〝振り返り〟の工夫

伝えたい ◆試行錯誤から自己評価を次に生かす 工夫1 生徒の発言をほめて発問の工夫をする  「実は、人生はTry(トライ)&Error(エラー)である。だが、それを知っている人は少ない。そして、君...

(2018-10-03)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】№14数学科中学校編③北海道算数数学教育会中学校部会(中山勝喜部会長)数学的活動を軸にした授業のポイント

伝えたい!北数教③ ◆外化・内化の往還で交流活性化を 【1 はじめに】  数学的活動とは、「生徒が目的意識をもって主体的に取り組む数学に関わりのある様々な営み」であり、北海道算数数学教育会中学校部会では、数...

(2018-10-01)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】№13数学科中学校編②北海道算数数学教育会中学校部会(中山勝喜部会長)学び合う授業づくりのポイント

伝えたい13・釧数教学習会風景 ◆日常的に授業研究できる環境へ  釧路算数数学教育研究会では『「主体的・対話的で深い学び」の視点を生かした集団思考の在り方』を研究主題として設定し、日々の授業研究に取り組んでいる。  こ...

(2018-09-28)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.12数学科中学校編①北海道算数数学教育会中学校部会(中山勝喜部会長)問題と問題提示のポイント

伝えたい!北数教① ◆小学校の学習内容を意識した授業構成を  旭川市教育研究会(以下旭教研)算数・数学部は、昨年の北数教研究大会(上川・旭川大会)において、これまでの研究の成果を全道に発信すべく6本の授業を公...

(2018-09-26)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.10社会科小学校編③北海道社会科教育連盟(新保元康委員長)学力定着のポイント

伝えたい道社連授業風景 ◆問題意識と解決の見通しもち振り返りを ◎社会科で求められている学力とは何か  新学習指導要領では、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の三つの資質・...

(2018-09-19)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】社会科小学校編②北海道社会科教育連盟(新保元康委員長)課題探究的な学習のポイント

伝えたい道社連② ◆意味理解伴う知識の積み重ねから習得へ 【意味理解を伴う知識の習得を】  平成32年度より全面実施となる新学習指導要領では、各教科において「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を...

(2018-09-14)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.8社会科小学校編①北海道社会科教育連盟(新保元康委員長)教材研究のポイント

伝えたい社会科小学校編1 ◆現地で生の声を聞く深い教材研究を 【学習指導要領と教科書が鍵】  『社会科は人間の営みの中に隠れている知恵や工夫、苦労を学ぶ教科である』。先輩からの教えだ。授業で取り上げた人物に対して...

(2018-09-12)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.7算数科編②北海道算数数学教育会小学校部会(渡邊悟部会長)、札幌支部(広瀬由実子支部長)授業デザインのポイント

伝えたいNo.7北数教(小)③ ◆曖昧さや誤答を能動性引き出す〝問い〟へ 【その授業に「問い」はあるか】  算数は、毎日学ぶ教科である。学級担任制の小学校において、その準備を毎日行うことは、容易なことではない。したがっ...

(2018-09-10)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.6算数科編②北海道算数数学教育会小学校部会(渡邊悟部会長)、札幌支部(広瀬由実子支部長) 思考を深めるノート指導のポイント

伝えたい算数科編② ◆子どもの〝書きたい〟思い引き出す 【ノート作りの目的】  見た目が美しいノートは分かりやすく使いやすい。しかし、美しく作ること自体が目的になってしまっては、意味のない形式的なものになる...

(2018-09-05)  全て読む