【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.10社会科小学校編③北海道社会科教育連盟(新保元康委員長)学力定着のポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-19付)
既習を生かし、対話をもとに学びを価値づけていく授業場面
◆問題意識と解決の見通しもち振り返りを
◎社会科で求められている学力とは何か
新学習指導要領では、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の三つの資質・能力の育成が重視されている。
これらはどの教科においても求められている資質・能力の基本である。では、社会科に求められている資質・能力、そして学力とは何かを考え、それらをどのように定着させるのかを考えたい。
◎社会科における「知識や技能」とは何か
ポイント1 教えることから逃げずに単元計画をデザインする
身の周りの社会事象ついての知識を理解することや、観察したり資料を活用したりする技能こそが社会科だけに求められている固有の学力である。そのために活用したいのは、特に知識に焦点を当てて、多様な知識を階層的に構造した「知識の構造図」である。
「知識の構造図」は自分で作ってみるとより教科書の内容を理解したり、効果的に使えたりすると思うが、教科書の指導書にもしっかりと掲載されているのでぜひ利用したい。単元の中で、「どの時間に何を指導したらよいのか」「どの語句を重点的に扱ったらよいのか」が明確になり、授業もしやすくなる。
かつての社会科には、「知識を暗記させる教科」とのイメージが少なからずあり、その反省からか「教え込むこと」に臆病になるきらいが見られたが、「知識や技能」を子どもたちに身に付けさせるためには「教えること」から逃げないことも重要である。そのためにも、教師がどの場面でどの知識や技能を身に付けさせるのか、単元計画をしっかりデザインしておくことが大切である。
また、技能については、情報を「収集する」「読み取る」「まとめる」技能を資料や取り上げる社会的事象の難易度を変えながら繰り返し取り組んで習熟させていく意識が大切である。
◎社会科における「思考力、判断力、表現力」とは何か
ポイント2 子どもたちの質的な変容をとらえる
「知識や技能」は比較的見えやすい学力(量的な学力)だといわれる一方で、目に見えにくい学力だと言われているのが「思考力、判断力、表現力」である。これらは質的な学力とも言われ、学習が進むにつれ、質が深まり成長していく。
しかしながら、市販テストを評価の材料にしている小学校の場合、「思考力・判断力・表現力は従来のペーパーテストでの評価だけで十分なのか」という不安もある。過去に導き出した知識を思い起こせば答えられる「知識・理解」に似た問題になっている場合もあるからだ。そこで必要となるのが“一単位時間の最初と最後で”“単元の最初と最後で”、場合によっては“学期の最初と最後で”子どもたちが質的にどのように変容したのかをとらえることだ。
そこで、ワークシートやノートを工夫して活用したい。ワークシートの最大のメリットは“一目でわかること”である。単元を通して使えるものを一枚用意し、知識としてのキーワードやまとめ、振り返りが一目でわかるように作成する。子どもたちも教師も自分の思考の積み上げを視覚的にとらえることができるようになる。また、ノートにおいても、学習問題(課題)を振り返って、調べたことや分かったことをまとめたり、自分の学習状況を振り返って考えたことをまとめたりすることをしっかりと残すことが大切である。
◎社会科における「学びに向かう力、人間性」とは何か
ポイント3 学習が連続する単元の指導計画を立てる
「学びに向かう力」は、各学年の目標に「社会的事象について主体的に問題を解決しようとする態度」「よりよい社会を考え学習したことを社会生活に生かそうとする態度」の二つで示されている。「脳みそに汗をかかせるような授業をしなさい」と新卒で勤務した学校の先輩によく言われたが、そのために、切実な問題意識をもたせ、子どもたちが課題解決の見通しをもって粘り強く学習に取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげることができるよう、「単元の指導計画」をしっかりと立てたい。
「社会科における人間性」は、各学年の目標に示されている「自覚や愛情」と言い換えることができる。例えば小学校三年生目標(3)には、「地域社会に対する誇りと愛情」「地域社会の一員としての自覚」を養うとあり、小学校五年生目標(3)には、「我が国の国土に対する愛情」「我が国の産業の発展を願い我が国の将来を担う国民としての自覚」を養うとある。
見方や考え方を働かせて、小学校では複数の立場や視点から「多角的に考えること」を重視し、それを踏まえて中学校では複数の側面から「多面的・多角的に考えること」につなげていく。複数の立場や意見をもとに考えることを通して、社会科では学びに向かう力を育てていくということを意識したい。
子どもたちは「未来からの留学生」である。変化の激しい社会を生き抜くため、今こそ社会科を通して必要な力をしっかりと身に付けさせたい。
(北海道社会科教育連盟上川地区 当麻町立当麻小学校 教諭 松浦達也)
※次回は、(中)「資料活用のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-19付)
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