【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.7算数科編②北海道算数数学教育会小学校部会(渡邊悟部会長)、札幌支部(広瀬由実子支部長)授業デザインのポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-10付)
◆曖昧さや誤答を能動性引き出す〝問い〟へ
【その授業に「問い」はあるか】
算数は、毎日学ぶ教科である。学級担任制の小学校において、その準備を毎日行うことは、容易なことではない。したがって、多くの先生方は、系統立てられている教科書の問題をそのまま使って授業を行っているのが一般的であろう。
しかし、算数の授業が、単に教科書に書かれた問題を解くことに終始したものであったとしたなら、子どもに問題集を与えて解かせることと何ら変わりはない。なぜなら、問題を与えられて解くだけでは、子どもは受動的だからである。与えられた問題から、きまりや仕組みを見付けたり、概念を自分で形成したりすることが出来れば、授業は、能動的なものへと変わる。
今日の授業が、能動的なものであったかどうかの判断の基準となるのが、「問い」である。「問い」とは、子どもの「なぜ○○なんだろう」「どうすればいいんだろう」といった問題意識や「何とか解決したい」といった解決意識のことである。
今日の授業に、「問い」があったのか、なかったのか。そうした視点で授業を振り返り、明日の授業をつくりたい。
二つの実践から、「問い」を生む教材研究の在り方について述べる。
【二学年「100より大きい数」の実践から】
ポイント1 見方の曖昧さを浮き彫りにする
教科書には、運動会の絵があり、赤組463、白組457、青組468と書かれた得点板とともに、「赤組と他の組の点数を比べましょう」という問題文が掲載されている。
このまま与えると、数の大きさを学んできた子どもは、容易に「赤組と白組なら、赤組の勝ち。赤組と青組なら青組の勝ち」と答える。数をひとまとまりの大きさと見ている子どもたちは、どの位を見れば分かるといったものの見方に左右されはしない。
そこで、数の大きさ比べに対する子どもの判断の基準を表出させるために、得点板の数字を全て隠して提示し、「どっちが勝ったかな?」と聞くことにした。=図①=
「数字が見えなきゃ、どっちが勝ったか分からないよ」と子どもたちがざわめいた。そこで、「どの位が見たい?一つだけ見せてあげる」と伝えた。
すると、子どもの見方が表出された。「一の位が見たい。運動会の時は、最後の一の位で勝ったか負けたか分かったから」「十の位が見たいです。十の位で勝ち負けが分かった時もあったから」「百の位が見たいです。一番大きな位で負けたら、絶対に勝てないから」
他の子の見方を聴いて、首を傾げたり、「えっ!」と声を漏らしたりし始めた子どもたち。「本当は、どの位を見れば分かるんだろう?」という問いが立ち上がりつつあった。
そこで、一番多くの子が見たいと言った百の位を見せることにした。百の位を見せると、どちらも「四」と書かれていた。=図②=
「百の位を見れば、どっちが勝ちか分かるんだよね」と念を押すと、「そうだけど…。じゃあ、もう一つの位を見せてよ」と子どもたち。
ここで、もう一組の得点板を出し、「これは、どっちが勝ちかな?」と聞いた。「先生、今度は、二つの位を見せてください」と声が返ってきた。百の位が同じだったら、判断できないと想定できる、そんな期待する姿が芽を出した。周りの子もうなずく。「分かったよ。今度は、二つの位を見せてあげるよ。どの位とどの位を見たい?」と聞くと、十の位と一の位、百の位と一の位、百の位と十の位と意見は分かれ、子どもの見方の曖昧さが浮き彫りになっていった。一番多かった意見の百の位と十の位を見せると、またまた同じ数同士。=図③=
ここで、どの子も、「本当は、どの位を見れば分かるんだろう?」に対する答えと明確な理由を考え始めた。
【五学年「小数のわり算」の実践から】
ポイント2 手続きと意味の違いを浮き彫りにする
計算練習ばかりしていると、その手続きだけが残り、数値の大きさへの気付きが欠落しやすい。こうした子どもの陥りやすい考え方を知っていると、問いのある授業をつくることが可能となる。
初めてのあまりのある小数のわり算。「2.3Lのジュースを0.6Lのパックにつめます。何パックできますか。また、あまりは何Lですか」という問題文の授業である。
どの子も立式して、筆算で答えを求める。子どもに答えを聞く。「3パック、あまり5L」「3パック、あまり0.5L」「えっ?答えが二つある?」
「どっちがあっているんだろう?」子どもの中に、「あまりは5Lかな、それとも0.5Lかな?」という問いが立ち上がった。数直線や図、検算といった方法で、どちらが正しいか、はっきりさせようと動き出す子どもの姿があらわれた。
【曖昧さや誤答は授業の宝】
誤答が生まれないようにする教材研究は、子どもたちの曖昧さやつまずきを予想することが大切である。しかし、私は、子どもたちが本気になる授業を目指すためにも、曖昧さやつまずきを生かす教材研究を大事にしていきたい。
(北海道算数数学教育会小学校部会札幌支部研究部 札幌市立前田北小学校 教諭 宮野正樹)
※次回は、北海道社会科教育連盟(小)「教材研究のポイント」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-10付)
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