【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.3国語科・中学校編③北海道国語教育連盟(若松広美委員長)情報の取り扱い方に関する指導の基礎・基本
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-08-27付)

伝えたい「情報の取り扱い」
既習事項を理解し、実際に学習過程の中で使う生徒たち

◆言語活動に理解・活用の必然性を生む

▼ポイント1 「情報の扱い方に関する事項」の指導

 平成29年に告示された学習指導要領において、「学習過程の明確化」や「語彙を豊かにする指導の改善・充実」等とともに、「情報の扱い方に関する指導の改善・充実」が明記された。これは、話や文章を正確に理解し適切に表現するために、国語科において育成すべき重要な資質・能力の一つとして、情報の扱い方に関する〔知識及び技能〕が不可欠であることを意味している。

▼ポイント2 「情報の整理」の指導

 どのような授業においても、生徒の実態を捉えることから授業作りが始まる。ただし、ここでいう実態とは、「テストで○点取れる」などの数値化された基準や「活発に発表する」などの主観的な判断を指すものではなく、生徒がこれまでに何をどのように学んできたか、どのような力が身に付いていて、今後どのような力が必要なのかを授業者が適切に把握することを指す。情報の扱い方に関する指導においても、目の前にいる生徒のどのような点に課題が見られるのかを事前に明らかにしておく必要がある。

 具体的な指導を想定しながら授業作りを考えていく。例えば中学校第1学年で話すこと・聞くことの指導を展開する場合、立場が明確になるような話の内容を構成するためには、「中心的な部分と付加的な部分との関係」などについて注意する必要がある。この場合には、話題設定の際に集めた複数の情報を「話したいことの根拠になりそうだ」という観点で分類したり、ある事柄を細分化して関係付けたりしていくことで、話したいことの構成を明確にしていく指導が考えられる。構成を検討する際には、重要な情報を厳選し伝える順序などを工夫する機会が生まれるため、伝えようとする内容を付箋にメモしたり、情報カードなどに書き込んだりしておくと、分類や関係付けるといった思考を用いやすくなる。

 また、中学校第2学年においては、情報同士の関係を可視化する方法を理解し、使うことが求められる。分類した情報カードを集めて線で囲んだり、矢印を用いて関係性を示したり、包含関係を階層性が分かるように示したりすることで、思考過程を視覚的に表現する。場合によっては思考ツールなどを利用して、主張とそれを支える根拠との関係性を明確にしたりする授業展開などが考えられる。

 前述してきたように、「情報の扱い方」の事項を含めた〔知識及び技能〕を育むためには〔思考力、判断力、表現力等〕との関連を図りながら指導していくことが重要である。「関連を図る」という抽象度の高い表現が用いられているものの、取り立てて複雑な、難易度の高い指導を要求されているのではない。むしろ、実際の経験を通して実感を伴いながら身に付けていくという、学ぶ側の視点としてはごく自然な学習過程を描きながら指導することを求められているのである。話す・聞く、書く、読むといった国語科の学びの文脈の中で、言語活動に〔知識及び技能〕を理解したり活用したりする必然性が生まれるような機会を埋め込む工夫をしていく必要がある。

▼ポイント3 「情報の信頼性」の指導と今後に向けて

 中学校第3学年では、イ「情報の信頼性の確かめ方を理解し使うこと」の指導を行う。出典の示し方や複数の情報源を照合しながら情報の信頼性を確かめるといった既習事項を「理解」するとともに、実際に思考、判断、表現する学習過程の中で「使う」ことが求められている。

 例えば、書くことの授業において、伝える相手や目的を明確にして書くために、「地方自治体に提言する文章を書こう」という言語活動を設定する。この場合、読み手が実在するため、適切に伝わる構成や表現を工夫する他、自分の意見の根拠がどれほど信頼できるものかという裏付けを示す必然性が生まれる。出典は何か、他の情報にはどのようなものがあるか、いつ、どれだけの人を対象としたデータなのかなど、根拠として適当であることを示す方法を用いて実際に示していく場が形成される。

 情報の信頼性を確かめるという思考は、言葉に対して自覚的になり、発信する言葉に責任をもとうとする意識の醸成を促す。さらに、自分自身も情報を受信する側としての意識を高めることで、受け取る表現に誇張がないかという視点をもち、批判的に読もうとする意欲を育む。

 喫緊の課題として新たに改善・充実を求められた「情報の扱い方」に関する指導は、まだ実践の蓄積が浅いのが現状である。道内の若手教師による柔軟な発想力でよりよい指導の在り方を模索し続けていくこと、それによって情報を的確に理解し、自分の考えの形成に生かしていける生徒が多く育っていくことを願っている。

(北海道国語教育連盟 札幌地区 北海道教育大学附属札幌中学校 教諭 鈴木真之介)

※次回は「小中の連携に着目した国語科指導」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-08-27付)

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