【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】No.1国語科・中学校編①北海道国語教育連盟(若松広美委員長)読むこと指導の基礎・基本(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-08-20付)
自分なりの意見をもって読み進める生徒たち
◆欠かせない対話的な学び
ポイント1 新学習指導要領の「読むこと」
新学習指導要領解説では、「読むこと」の学習過程として〈構造と内容の把握〉、〈精査・解釈〉、〈考えの形成、共有〉の三つが示された。それぞれ、〈構造と内容の把握〉は「叙述を基に文章の構成や展開を捉えたり、内容を理解したりすること」、〈精査・解釈〉は「文章の内容や形式に着目して読み、目的に応じて意味づけたり考えたりすること」、〈考えの形成、共有〉は「文章の構造と内容を捉え、精査・解釈することを通して理解したことに基づいて、自分の既有の知識や様々な経験と結び付けて考えをまとめたり広げたり、深めたりしていくこと」とある。つまり、〈構造と内容の把握〉と〈精査・解釈〉の上に〈考えの形成、共有〉が成り立つという構図である。
中学校第3学年では、「批判的に読む」「評価する」「自分の意見をもつ」などの指導事項が並ぶ。義務教育の最終段階には、文種を踏まえて文章を対象化し、より客観的な目で捉え、自分の考えをもつ力が求められている。
ポイント2 「読む力」をつけるために
まず、単元の学習を通して身に付けさせたい「読む力」を明確にする。これは主に、〈構造と内容の把握〉と〈精査・解釈〉の力である。言語活動を通して汎用性のある「読む力」を生徒に身に付けさせる。生徒自身にも、身に付いた力と活用場面を自覚させたい。
また、「批判的に読む」意識づくりを学年の発達段階に応じて行いたい。これは「文章を対象化して、吟味したり検討したりしながら読むこと」であり、文章のあら探しをすることではない。およそ「教科書に掲載されている文章は正しい」と考えがちである生徒が、筆者の考えや論理展開と対峙し、自分なりの意見をもって読み進める。こういった読みこそが読む意欲を高め、主体的に学習に取り組む足がかりとなる。その際、文章に表現されているものの見方や考え方にふれるとともに、その根拠を言葉や文章に求める姿勢は貫かなければならない。
説明的な文章の学習では、三段構成、事実と意見の読み分け、要旨の読み取りなど、「論理的に思考する力」の基本を学び、その力を運用していくために繰り返し活用する。また、「批判的な読み」につながる言語活動についても設定する。例えば、『君は最後の晩餐を知っているか』(2年)という評論では、ダヴィンチの『最後の晩餐』を「かっこいい」という筆者の意見に対して自分は共感できるか否かを問い、『社説を比較して読もう』(3年)では複数の社説を読み比べ、その説得力について評価する。どちらの学習も、既習の読む力を生かして読み解き、積極的に自分の考えを論じる学びが生まれる。
文学的な文章の学習では、心情の読み取りや物語の展開、人物や情景の描写などの基本事項を「読む力」として身に付けつつ、第3学年の目標にある「豊かに想像する力」を育みたい。文学作品を自分の感じるまま好き勝手に解釈するのは「読むこと」ではない。しかし、一方的に画一的な読みを肯定するだけでは、「豊かに想像する」とは言い難い。一つの文や一つの言葉を基に解釈する中にも、個々の読みのイメージの違いが感じられたり、考え方が多様であったりする。そこに豊かな想像が生まれ、読む楽しさがある。
例えば、『星の花が降るころに』(1年)という物語では、「第二の作者になりきって続き話を書く」という言語活動を設定する。「作者らしい続き話」と限定することで、作中の登場人物の行動や情景描写、物語の展開などの意味を考え、第3学年での「批判的な読み」につながる思考力を養うことができる。生徒は本編にのめりこんで読み解き、さらに他の人が書いた文章を読んで、自分のイメージとは違う続き話の世界に夢中になっていくことになる。
ポイント3 「考えの形成」を強化する
「読む」ことの先に求められている「考えの形成」をより確かにしていくためには、対話的な学びが欠かせない。他者と自己との考えの共通点や相違点を知ることが、考えの深まりや広がりにつながる。
対話的な学びを促すには、3~5人程度(できれば4人以内が対話しやすい)の小グループで考える活動を取り入れたり、思考の可視化ができるような図表やホワイトボードを用いたりすることが有効である。
全ての教科の要となる「言葉の力」を国語科で育むとともに、「読むこと」の授業を通して生涯にわたり読書に親しみ、読書を自分の糧とする姿勢や態度を育てていきたい。
(北海道国語教育連盟旭川地区 旭川市立東光中学校教諭 北真紀)
※次回は、「古典指導の基礎・基本」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-08-20付)
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