【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.58理科小学校編②北海道小学校理科研究会(永田明宏会長)「対話的で深い学び 実践のポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-13付)

伝えたい小学校理科2
発見すること、疑問を見いだすことへの喜び

◆あらためて問題解決の授業を問う

◎理科における問題解決の過程を考える

 新学習指導要領では、対話的で深い学びが求められている。この学びの具現化を考えたとき、そこにあるのは、やはり「問題解決」である。今号では、あらためて理科における問題解決で何が大切かについてふれていきたい。

 一言に「問題解決」とは、困りや疑問等を何かしらの方法で解決することであり、解決すること自体がゴールである。しかし、ゴールで得られる結果は、子どもにとってどれほどの価値があるかは、どのような問題解決の過程を経たのかによって決まるはずである。そこで、子どもにとって価値ある理科の問題解決の過程とは何かについてあらためて考えてみる。

ポイント1 まず、ものやことにふれること

 まず、問題解決には当然「問題となりうる」場面や状況がなくてはならない。これは「子どもの問題」であり、教師から与えられるものではない。子どもが自らの問題として見出すからこそ、子どもの問題であると言えるのである。

 例えば、3年生が豆電球と乾電池、ソケットを手にして明かりをつけようとしたとする。豆電球をソケットにねじ込み、2本の導線を乾電池につなげ始める。うまくプラスとマイナスにつなげられた子どもが明かりをつけることができ満足する一方、明かりがつかない子どもは、ぎゅっと導線を乾電池に押し付けたり、違う場所に繋げたりしながら何とか明かりをつけようとする。ここで、「全員の豆電球が光ったか」を問うと、「つかない人がいる」「ついたり消えたりする」と、様々な様子が子どもから持ち上がる。

 このように、豆電球をどのようにつなげば明かりがつくか、子どもの切実な問題を引き出すことによって、子ども自らが解決しようとするのである。豆電球と乾電池、ソケットについての説明が長々と続き、それからようやく「さあ、やってごらん」ではなく、まず手にとってやってみること。これが大切である。

ポイント2 問題意識を醸成すること

 6年「人の体のつくりと働き」で、唾液の働きについての問題を解決するために、乳鉢と乳棒を歯、水を唾液に見立てて米をすり潰していく。程なくして「ドロドロになって、飲み込みやすそうになる」ことから、水、すなわち唾液は、噛み砕いた食べ物を飲み込みやすくする働きがあると結論付けられる。「唾液は水なのか」と問うと、「唾液はネバネバしているから、水とは違うのではないか」などと、他の働きについて意識し始める。ここで、ヨウ素液を使ってでんぷんの有無を調べると、唾液を入れた方にもヨウ素反応が現れることから、さらに米をすり潰したり、体温に近づけるために温めたりして唾液の働きを見出していくのである。

 「食べる時の唾液の働きを明らかにすること」から、「消化液としての唾液の働きを明らかにすること」へと子どもの意識が向かった様は、問題が解決していく方向に至ったと考えることができる。つまり、問題意識が醸成されたと言えるのである。

ポイント3 結論に至る

 問題解決では、「はっきりした」より「そうとしか言えない」「そう考えるほかはない」「それが妥当だ」などの結論が出ることが多い。むしろ、こうした結論を出すことができるということは、十分に問題解決の過程を踏んできたとも考えられる。

 例えば、5年「流れる水のはたらき」で考えてみる。斜度5度程度の斜面に蛇行する溝を掘って水を流すと、曲がった所で、溝から水が溢れ出す。子どもは水が溢れないようにと堤防を作ったり、土を盛ったりする。しかし、何度試みても水は徐々に溢れ出てくる。こうした観察や体験を踏むことで、「どうも、水は川の曲がりに働くようだ」と考えることができる。もし仮に、水を流す前に曲がりに棒や旗を立てたり、初めからチョークの粉やおが屑等を水に流したりする実験を教師が仕立てたとすると、水そのものの流れ方や、少しずつ流されていくわずかな土砂の様子には、子どもは決して目を向けることはないのである。

◎目の前の子どもを想定しての授業構築

 これまで述べてきたように、問題解決の問題は、子どもの問題であり、またその問題を引き出したり、見出すきっかけを作ったりするのが教師の役割である。また、子どもの問題は実証性、再現性、客観性といった科学的な方向に徐々に焦点化されながら、醸成していくものである。

 子どもが導き出した結論が、もし教師の意図した方向でなければ、それは授業の再構築の必要性を示唆するものであり、子どもが「ちゃんと実験しなかった」「よく見ていなかった」ではないのである。

 こうして、新学習指導要領の目指す対話的で深い学びの具現化を鑑みると、やはり「目の前の子どもを想定して」問題解決の授業を構築し、自然の事物・現象を通して、子どもと向き合うことが、時代に不偏しない理科学習を繋ぐ要になるのだと、あらためて考えさせられる。

(北海道小学校理科研究会 本部研究次長 札幌市立北野小学校教諭 新澤一修)

※次回は、小学校理科編③を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-13付)

その他の記事( 伝えたい!授業づくりの基礎・基本)

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】No.1国語科・中学校編①北海道国語教育連盟(若松広美委員長)読むこと指導の基礎・基本

伝えたい読むこと指導 ◆欠かせない対話的な学び ポイント1 新学習指導要領の「読むこと」  新学習指導要領解説では、「読むこと」の学習過程として〈構造と内容の把握〉、〈精査・解釈〉、〈考えの形成、共有〉の三つ...

(2018-08-20)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.62生活科編②北海道生活科研究会(山本豊会長)「生活科でひびき合う活動 教師の手だて」

伝えたい生活科学校探検 ◆地域教材を模索する努力を惜しまずに ◎実践から具体的な手だてを  人と人とがひびき合うためには教師の手立てが欠かせない条件となる。次の2実践から、具体的な手立てを示したい。 ポイント...

(2018-03-19)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.61生活科小学校編①北海道生活科研究会(山本豊会長)「3つの視点を基にした生活科の授業構築」

伝えたい北生研生活科授業 ◆話を聞き、発見を価値付け、次への意欲を ◎3つの視点  これまで、本研究会は視点1「ときめく出合い」、視点2「ひびき合う心」、視点3「かがやく瞳」の3つの視点を設定して研究を進めてきた...

(2018-03-16)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.60理科小学校編④北海道小学校理科研究会(永田明宏会長)「授業や単元構成における見方・考え方の位置付け」

伝えたい北理研地層観察 ◆子どもの学びを教師が見取り、価値付ける ◎主体的に問題解決しようとする態度  新学習指導要領では、「一連の問題解決の活動を、児童自らが行おうとすることによって表出された姿」としている。...

(2018-03-15)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.59理科小学校編③北海道小学校理科研究会(永田明宏会長)「新しい理科授業の具体像を探る」

伝えたい北理研観察実験 ◆主体的・対話的な学びが深い学びの両翼 ◎新しい授業とは  新しい学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の充実が重視されている。理科における「主体的・対話的で深い学び」の具体像を考...

(2018-03-14)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.57小学校理科編① 北海道小学校理科研究会(永田明宏会長)「新学習指導要領読み取りのポイント」

伝えたい第57回北理研 ◆授業改善こそ資質・能力育成の鍵 ポイント1 理科の目標と問題解決  新学習指導要領告示を機に自らの理科観や授業観を再構築し、今後十年の方向性を見極めたい。 【理科の目標】自然に親しみ...

(2018-03-12)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.56音楽科中学校編 北海道音楽教育連盟(横山学会長)「主体的な音楽の学びを実現する手立てと評価」

伝えたい第56回北音連・下 ◆ぶれない題材観・評価観をもつ ◎授業改善の視点  音楽を歌う、演奏する、つくる、鑑賞する…。これらが学校でなくても比較的容易にできる時代となった。現に、生徒の中には自ら様々なジャンルの...

(2018-03-09)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.55音楽科小学校編 北海道音楽教育連盟(横山 学会長)「鑑賞の学習を充実させるポイント」

伝えたい第55回北音連研 ◆主体的に鑑賞する有効な手立てを ポイント1 まずは、クラス単位で音楽の学習を行う  小学校には様々な行事や活動があり、学年や学校単位で合唱をする機会が多い。毎月の全校朝会では全校合唱を...

(2018-03-08)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.54小学校外国語科編②札幌小学校英語活動研究会(綱渕友也会長)「We can! 2 6年生 指導のポイント」

◆小学校段階は「聞く」「話す」を中心に ◎ 高学年外国語科の特徴  「聞くこと」「話すこと」に加え、「読むこと」「書くこと」の技能を扱うことが高学年外国語科の特徴の一つである。小学校では...

(2018-03-07)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.53小学校外国語科編①札幌小学校英語活動研究会(綱渕友也会長)「We can! 1 5年生 指導のポイント」

◆必要感をもって主体的に取り組ませる ポイント1 Small Talkで英語力アップを図る  第5学年におけるSmall Talkの趣旨は、指導者によるまとまりのある話を聞いて分かったり...

(2018-03-06)  全て読む