【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.55音楽科小学校編 北海道音楽教育連盟(横山 学会長)「鑑賞の学習を充実させるポイント」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-08付)
ペープサート楽曲から表出したことを共有し、対話的な学習を展開する
◆主体的に鑑賞する有効な手立てを
ポイント1 まずは、クラス単位で音楽の学習を行う
小学校には様々な行事や活動があり、学年や学校単位で合唱をする機会が多い。毎月の全校朝会では全校合唱を設定している学校が多かったり、学習発表会や地域のイベントなどにも合唱で参加したりしている。そのため、いわゆる「学年音楽」が多く実践されているように感じている。もし、「学年音楽」ばかり行い、大人数で行う合唱練習のみで音楽科の時間を位置付けてしまうのであれば、一人ひとりの「音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育むとともに、豊かな情操を培うこと」という資質・能力を育むことが難しいだろう。
音楽科教育において、とりわけ鑑賞領域では、児童一人ひとりがどのような音や音楽を聴き取り、どのように感じ取ったのかということを大切にしている。
楽曲を鑑賞した際に、例えば「音色」のような音楽を形づくっている要素が、楽曲の曲想や雰囲気とどのように関連付いているのかという「音楽的な見方・考え方」を働かせることが、これからの音楽科教育で求められている資質・能力を育むことになると思う。音楽的な見方・考え方を働かせながら学習することで、より深く楽曲のよさに気付いたり理解したりするからである。
声を合わせる、気持ちを一つにするなど「学年音楽」のよさは十分にあると思うが、クラス単位での音楽の学習を中心に行うという環境や体制を整えることが、子どもたち一人ひとりの音楽に対する感性を育てていくことのポイントになるだろう。
◎「もう一度聴かせて!」を生む手立て~主体的・対話的で深い学びを目指して~
新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」による授業改善が求められている。音楽科においては、「児童自ら」音楽的な見方・考え方を働かせることが明記され、主体的に学ぶことが一層求められている。しかし、鑑賞曲を一方的に聴かせただけであれば、受け身になることは必至である。そのため、子どもが主体的に鑑賞する有効な手立てを講じることが大切である。低学年で鑑賞する「シンコペーテッドクロック(ゆかいな時計)」を実際に指導した場面を紹介しながらポイントを考察する。
ポイント2 演奏させることで、鑑賞曲との「ずれ」を生む
この楽曲は、「カッコッカッコッ」とウッドブロックの音がリズミカルに冒頭の部分で演奏されている。ウッドブロックがどのような音色でどのような感じがするのかという見方・考え方が育まれるように、題材を通して展開しているとよりよいだろう。冒頭部分を鑑賞させてから実際の楽器を提示し、鑑賞曲に出てくるウッドブロックと同じリズムで演奏できるのかを問う。単純なリズムで演奏されているため、子どもは高い音と低い音を交互に叩いて、簡単に演奏するだろう。「ぴったり合っているね。よく聴き取れたね」と価値付けしながら続けて演奏させる。しかし、「カッコッカッコッ」から「カッカカッ」とリズム変化している部分が4小節に一度表れるために「ずれ」が生じる。子どもたちは、ぴったりと合わせようと意識を働かせて鑑賞しているために、「あれ、合わなかったよ。もう一度聴かせて」と確かめたくなるのである。そして、リズム変化に気付いた子どもたちは、「どうしてリズムが変わったのか」という問題意識をもつ。すると「ウッドブロックの音は時計の針が進んでいるように感じていたけれど、壊れそうになっているのかな」など、音色やリズムから聴き取ったことと、自己のイメージとを関連付けて主体的に鑑賞するのである。
ポイント3 感じていることを表出させることで、友達との「ずれ」を生む
鑑賞の学習では、聴き取ったり感じ取ったりしたことを「体の動き」を用いて表出させることは、子ども一人一人の音楽に対する感性を視覚化でき、大変有効だと考える。ただ、私の経験では、「体の動き」を用いると子どもが音楽から離れて動き出してしまうことがあったことも事実である。教師が「旋律の動き」や「リズム」などの音楽を形づくっている要素に着目させたかったり、子どもたちが対話的に学習するように促したりする手立てとしては、少しばかり自由すぎるのかもしれない。
そこで、私は「ペープサート」の使用をお勧めしたい。これを用いることで動き方に制限が生まれ、子どもたちの動き方に共通部分が出やすい。「シンコペーテッドクロック」では、あたかも時計が歩いていたり、目覚まし時計の音を鳴らしながら自由に動いていたりするような、「旋律の動き」や「リズム」を聴き取ることができる。そのため、ペープサートを旋律の動きに合わせて、波のように動かす子どもがいたり、ウッドブロックが演奏するリズムに合わせて、振り子のように動かす子どもがいたりする。子どもが楽曲から感じて表出したことを教師が見取り、「○○くんと○○さんは動き方が似ていたけれど、どうしたの?」と問うことで、聴き取った「旋律の動き」や「リズム」が根拠となっていることを共有でき、対話的な学習を意図的に展開することができるのである。
(北海道音楽教育連盟札幌市小学校支部 研究部長 北海道教育大学附属札幌小学校 教諭 谷坂俊典)
※次回は、音楽科中学校編を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-08付)
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