【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.56音楽科中学校編 北海道音楽教育連盟(横山学会長)「主体的な音楽の学びを実現する手立てと評価」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-09付)

伝えたい第56回北音連・下
感じ方を交流し合う生徒たち

◆ぶれない題材観・評価観をもつ

◎授業改善の視点

 音楽を歌う、演奏する、つくる、鑑賞する…。これらが学校でなくても比較的容易にできる時代となった。現に、生徒の中には自ら様々なジャンルの音楽を聴いたり、趣味でコンピューターを使って作曲してみたりする者などもいて、思う以上に多様な音楽体験が可能になっていると感じる。より一層、学校教育で音楽を学ぶことの意義を教える我々がしっかり理解していくことが必要だと感じる。また、「主体的・対話的で深い学び」は、音楽科において、どのような授業を重ねていくことで実現するのかを考えていかなければならない。このような視点から「歌詞の内容をとらえ、全体の響きを感じ取りながら表現を工夫しよう」という合唱題材の実践を紹介する。

ポイント1 題材観を明確に

 教材を混声3部合唱曲とし、まずは範唱を聴くなどして楽曲全体の雰囲気をとらえたり、歌詞を音読し詩の内容について理解したりする活動を行う。考え方として「この楽曲が歌えるようになること」が目標であるならば、この活動は、練習の見通しを持ち、その後の活動を効果的に考え、音取りなどの活動に意欲をもつために行うことになる。

 しかし、「自らが思いや意図をもって、表現を工夫できるようになること」が目標であれば、最初に音楽に出会ったときの初発の感受はとても大切である。「あなたはどう感じたの?」「音楽のどんなところからそう感じたの?」と確認したり、仲間と交流したりすることも必要となる。ねらいからぶれない題材観、評価観をもつこと、「指導言」はそれに従って十分に精査する。

ポイント2 技能は生徒が必要と感じた時に高める

 学習が進み、全体で合唱できるようになったところでやってしまいがちなのは、つい一方的に技能を伝授してしまうことである。「そんな声の出し方はダメ」「大きすぎる!」と、考える前に「どうするべきか」が次々提示され、生徒は自らの感性を働かせる以前に「こう感じるべきなのだ」と示されることになる。すぐに指摘したくなるのをぐっとこらえ、生徒が音や音楽からぼんやりと思考・判断していたことを拾いあげ、生徒同士が交流できる機会をつくる。「歌詞が〝静かに〟なのでPで歌うとよいと思う」「ここはユニゾンから音が増えてふわっと広がる感じがする」など生徒から出てきた声を取り上げ、具体的にどうしたらそれが実現できるかを教師がきっちりと指導していく。「静かに歌うと言っても、Pはただ息を弱めてはいけないよ。たくさん吸って言葉をはっきり発音するようにしてごらん」など、こうしたいけれどどうしたらいいんだろうという風に、生徒自身が思考・判断したことと技能を高める指導を一体に行うことを心がけている。

ポイント3 探究したくなる課題の提示

 学習が進むにつれて、楽曲はまとまり、「みんなで歌うことができた」という一種の達成感を味わうことができるようになる。しかし、先に述べたように、この題材は歌えることがゴールではない。自分なりの思いや意図をもって表現を工夫することがねらいである。「フェルマータをどのように演奏するとよいだろう」という課題をグループごとに実際に歌ってみながら追究し、それを交流するなどして、音楽がどのように形づくられているか、それを自分自身や仲間がどう感じているかを明らかにしていく過程を積み重ねていく。そのために、生徒が意欲を持続し、「やってみよう」と思える課題を提示することが必要だと思う。

ポイント4 他者との協働と個人の評価

 「対話的で深い学び」は一人ではできない、学校ならではの学びである。合唱を扱う題材などは、教師と生徒、生徒同士が関わり、協働しながら音楽表現を生み出すことに必然性を伴う題材だと思う。だからこそ、ただ一緒に演奏するから協働なのではなく、一緒に何を学ぶか、どれくらい学び合いの手立てを仕組めたかを考えたい。また、集団で表現するだけではなく、一人ひとりの感じ方や考えを「もし、あなたが指揮者だったら?」となげかけて整理させ、「その他大勢」なのではなく「私はこうしたい」と思いや意図をあきらかにさせたい。「みんなで歌って楽しかった」はとても大切だが、それだけではなく「自分はこれを理解した」「これができて、それが演奏にこう反映した」とはっきり実感し、それによって達成感を感じられるような授業にできたら、それを適切に評価することもそんなに困難ではないと思っている。

ポイント5 小学校との接続、連携

 生徒は小学校で6年間様々な音楽の学習を重ねている。今、取り組むこの題材が9年間の義務教育の中だとどのような位置づけになるのか、ついては生徒はどのような経験をし、どんな力をつけてきているのかきちんと把握していくことが大切だと思う。せっかく、小学校で様々な手立てで主体的に学習してきていたのに、中学校にきたら頭ごなしに教え込まれた、などというようなことになったらとてももったいないことである。ただでさえ、時数も少ないのだから、地域の小学校の先生と連携し、効果的な指導計画を作成するのも大切だと感じている。

(北海道音楽教育連盟札幌市中学校支部 事務局長 札幌市立稲積中学校 主幹教諭 川原明子)

※次回は、北海道小学校理科研究会①を掲載します。

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伝えたい第56回北音連・上
表現を工夫し合う生徒たち

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-09付)

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