【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.57小学校理科編① 北海道小学校理科研究会(永田明宏会長)「新学習指導要領読み取りのポイント」
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-12付)

伝えたい第57回北理研
重さと時間の関係を真剣に考え学び合う子どもたち

◆授業改善こそ資質・能力育成の鍵

ポイント1 理科の目標と問題解決

 新学習指導要領告示を機に自らの理科観や授業観を再構築し、今後十年の方向性を見極めたい。

【理科の目標】自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す(新学習指導要領)。

 理科の重要な目標は「問題解決のための資質・能力」の育成である。これまでも変わらず大切にされてきたことである。理科授業では失敗や間違いがあってはならないものだと誤解される場合が多い。毎回教科書通りの結果が全ての班で生じ、結果から得られる考察や結論も画一的な言葉に集約しなくてはと思い込んでいる教師も少なくない。この誤解や思い込みが、「教師の理科離れ」を生み出してしまう。

 第5学年「振り子」を例に考える。振り子の重さを変化させても1往復の時間は変化しない、という内容を理解させる授業を想定する。しかし、重さを変化させると1往復の時間は変化するはずだと信じている子にとっては0・1秒の違いでも、その結果を自分の仮説を裏付ける根拠としてとらえ「重さを変えると1往復の時間は変わる」と結論付ける。教師が「それは誤差としてとらえなさい」「もう一度先生がやるから見てなさい」と結論を覆そうとしても、子どもは頑なになる一方で平行線になり、授業終了のチャイムが鳴ってしまう。このような状況を経験した教師も少なくはないだろう。

 「問題解決のための資質・能力」は自分の見通しとは異なる事物・現象と対峙した場合や、自分のものとは異なる多様な結果や考察に直面した場合において発揮され高まっていく。もし、「重さを変えると1往復の時間が変わる」と結論を出した子どもがいたら、さらに重さを変化させ、自在に1往復の時間を変化させようとする活動に向かわせればよい。子どもは、それならばと喜んでおもりの重さを増やしたり、時には減らしたりしていく。重さの条件を意図的に変化させながら実験を繰り返すと、1往復の時間が重さに伴って変化していくわけではないことに気付く。結果の違いも大きくならず、重さと時間の変化に傾向性や関係性を見いだせない子どもは、やがて「重さを変えると1往復の時間が変わるとは言えないのではないだろうか」と考えるようになる。

 理科は失敗や間違いも内包した多様な結果や考察と向き合いながら、観察、実験を通して問題解決に取り組む学習である、という本質を捉え授業改善を図ることが、「問題解決のための資質・能力」を育成する鍵となる。

ポイント2 問題解決のための資質・能力の育成

 では問題を科学的に解決するために必要な資質・能力が、それぞれどのように育まれるのか具体的に考えてみたい。

(1)知識及び技能

 第6学年に移行した、水中の微生物の観察を例に考えてみたい。まず、池などの水を採取し顕微鏡を使って低倍率で観察する。すると何やら動くものが確認できる。子どもは驚きの表情を浮かべ、「もっと拡大できるだろうか」「他にも微生物が見つかるだろうか」と期待を膨らませ観察に熱中する。プレパラートの位置やレンズの焦点を定めることと、倍率を変化させたりすることを繰り返しながら微生物の観察に取り組むことを通し、顕微鏡の操作方法を身に付けていく。倍率を上げると、比較的大きなミジンコしか観察できなかった活動が、藻や珪藻の仲間まで観察できるようになる。喜んだ子どもは、教科書に例示されている複数の微生物の仲間を全て見つけられるだろうかと観察を繰り返す。このようにして、顕微鏡の使い方の「技能」や、微生物の名称と特徴についての「知識」が獲得されていく。

 理科の知識や技能は、観察、実験を通した問題解決によって獲得される知の総体である。知識や技能の獲得は、活動の中心である「観察、実験」「問題解決」と切り離すことが出来ない。

(2)思考力・判断力・表現力等

 問題解決の資質・能力について、各学年で育成を目指す姿が明示されている。第3学年では主に差異点や共通点を基に、問題を見いだす力を養うこと、第4学年では主に既習の内容や生活経験を基に、根拠のある予想や仮説を発想する力を養うこと、第5学年では主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想する力を養うこと、第6学年では、より妥当な考えをつくりだす力を養うことである。

 ここでは、発達や学習内容の特性を考慮して各学年で重点的に育成を図りたい。例えば、第3学年の子どもの思考は、見かけの様子に影響を受けやすい特性をもつが、これは理科だけではなく他の学習でも見られるし、その特性に注目しながら問題を見いだす力の育成を図りたい。

 見かけ上では同じように見える物でも磁石に引きつけられる物とそうでないない物があることや、見かけ上は別の生物に見える昆虫でも、体のつくりを比較していくと幾つかの共通点が浮き彫りになることなどに問題を焦点化して学習を展開する。

(3)学びに向かう力、人間性等

 いわゆる「理科好き」の子はどの学級でも一人はいるだろう。時として、「学びに向かう力、人間性等」の資質・能力は、「理科好き」という言葉だけで片付けられてしまう場合も少なくはない。しかし、見通しをもって問題解決に取り組んでいたか、学んだことを自然の事物・現象や生活に当てはめてみようとしていたか、など理科の具体的な目標と結びついた視点も意識しながら子どもをとらえていきたい。

(北海道小学校理科研究会 本部研究次長 札幌市立発寒西小学校 教諭 播磨義幸)

※次回は、小学校理科編②を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-12付)

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