【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】No.59理科小学校編③北海道小学校理科研究会(永田明宏会長)「新しい理科授業の具体像を探る」(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-14付)
試行錯誤しながら観察実験を繰り返す子どもたち
◆主体的・対話的な学びが深い学びの両翼
◎新しい授業とは
新しい学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の充実が重視されている。理科における「主体的・対話的で深い学び」の具体像を考えてみたい。
ポイント1 問題解決に支えられた主体的な学び
子どものどのような姿を「主体的に学ぶ姿」と判断したらよいか。例えば、実験の準備や後片付けを率先して行う姿や、実験結果や考察を丁寧にノートに記述する姿は、学習へ意欲的に取り組む模範的な姿であることは間違いない。しかし一方で、自然の事物現象に対し知的好奇心を働かせながら追究を深めていく姿にも注目したい。
そこで重要なのは「問題解決」に取り組む姿である。理科は、教科の目標においても「問題解決の力」の育成が明記されている。「主体的な学び」は、活動が「問題解決」に支えられているかどうかで判断できる。
ポイント2 2つの側面における子どもの問題解決
観察や実験などの活動には夢中になって取り組むのだけれども、結果について考察したり結論を導き出したりする局面になるとそれまでの意欲が急激に減退してしまう。かつては自分の授業についてそんな課題性を感じたことがあった。授業を振り返ってみると、子どもに問題解決が生まれていない場合がほとんどであった。意欲的に見えた子どもの姿は、現象や活動の新鮮さによって生じていたものであり、問題解決に向けられた意欲ではなかったのである。
なぜ子どもの意欲が問題解決に向かわなかったのだろうか。さらに詳しく分析してみたい。
当時は授業で強烈な「問題」を生み出したいと考えるあまり、子どもの驚きや意外性をあおるようなある特定の事象を見つけ出すことに躍起になっていた。休日にはホームセンターを一日中探索し、何かを見つけてはこれで授業づくりは完璧だと心躍らせたり、何の収穫も得られないままがっくりと肩を落として帰宅の途についたり、といった経験を繰り返していた。
このようにして驚きや意外性だけに注目して生み出された教材や授業は、授業者の意気込みとは対照的に、子どもの主体的な学び、つまり問題解決にまで高まっていかない場合が多い。たとえねらい通りに驚きや意外性が引き出されたとしても、子どもにとっては未知なるもので終わってしまい、その後の問題解決にまで発展していかないのである。
では、子どもの問題解決はどのような状況において生み出されるのであろうか。注目すべき側面は2つあると考えている。
1つ目は、問題解決は「目的に向けた活動の過程」において生じるという側面である。2つ目は、問題解決は「子どもの論理に沿った追究の過程」において生じるという側面である。
第3学年の「風とゴムの力の働き」を例に考えたい。
風の力を使って台車を走らせる活動では、台車の走行距離を伸ばすことに目的意識をもって活動に取り組む。しかし、活動の過程で、思い通りに走行距離を伸ばすことができない状況に直面する場合がある。うちわを2枚に増やして扇いだり、送風機を2台に増やしたりしたら走行距離が伸びるはずだと見通しをもって取り組んだのに、走行距離が思ったほどに伸びない状況である。
問題意識をもった子どもは、本当に風が強くなっているのか、しっかり風が当たっているのか、など試行錯誤しながら観察実験を繰り返す。そして、風と台車の走行を関係的に捉えるようになる。
台車の走行距離を伸ばすという「目的」と、強い風を当てれば走行距離が伸びるはずだという「論理」に沿った追究の過程で問題解決が展開される。驚きや意外性ばかりをあおっても、子どもの問題解決を生み出すことは難しい。教師自身が子どもと同じように観察実験に取り組み、どのような目的や論理が生まれるか考えながら教材研究を繰り返すことが重要である。
ポイント3 科学的な概念形成のある対話的な学び
理科では,数名ずつのグループで観察・実験を行い,意見交換や議論を行う学び方が定着している。よって、何についての対話が深い学びに結びつくか,という方向性に重点を置いて考えてみたい。
理科の対話は、「科学的」な概念の形成に向けられているかが重要である。
「科学的」の条件は次の3つの側面に整理されている。
1つ目は実証性。これは仮説が観察,実験などによって検討することができるという条件である。2つ目は再現性。これは仮説の実証が、人や時間や場所を変えて複数回行っても,同一の実験条件下では同一の結果が得られるという条件である。3つ目は客観性。これは,仮説が多くの人々によって承認され,公認されるという条件である。
この3つの側面は、他者との関わりによって検証される。対話的な学びは、科学的な概念の形成において不可欠なのである。
同じ仲間と同じ事物現象を見つめても、結果についての判断は個々に異なる。故に、「実証性」「再現性」「客観性」について意見交換・議論を繰り返す必然が生まれ、より科学的な概念が形成される。理科室でグループごとに観察実験を行う意義はこの点が極めて重要なのである。
「可能ならば実験は一人一つずつ取り組むのがよいか」「結果が画一化されないから教師による演示実験がよいのか」といった議論を稀に耳にすることがある。しかし、複数名の小集団で観察実験を行うことの本質的な意義は、「対話的な学びによる科学性の検証にある」ということを忘れないようにしたい。
(北海道小学校理科研究会 本部研究次長 札幌市立発寒西小学校 教諭 播磨義幸)
※次回は、小学校理科編④を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-03-14付)
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