【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.6算数科編②北海道算数数学教育会小学校部会(渡邊悟部会長)、札幌支部(広瀬由実子支部長) 思考を深めるノート指導のポイント
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-05付)

伝えたい算数科編②
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◆子どもの〝書きたい〟思い引き出す

【ノート作りの目的】

 見た目が美しいノートは分かりやすく使いやすい。しかし、美しく作ること自体が目的になってしまっては、意味のない形式的なものになる。書くことで、脳が活性化すると言われる。ただ「書く」だけではなく、そこに「考える」「考えをまとめる」ことが加わらなければその効果は得られない。

 では、どのようなノートを作ることが数学的な思考や表現力、判断力の育成につながるのか。筋道を立てて論理的に考えを進め互いにコミュニケーションを図る上で、表現する力は重要な役割を果たす。そのために、「主体的・対話的で深い学び」につながるノート作りができるような授業を目指していく。具体的な事例を基に、子どもの思考を深める算数のノートについて、その指導方法を考えていきたい。

【1学年 加法と減法でのノート指導】

ポイント1 自分の考えをもつ土台とする

 1学年の加法や減法では、図にしたり数値を操作したりしてイメージをもち、演算を決定する力が大切である。自分の考えをノートに書いて表現できるようにしたい。

 そこで、「図」と「式」と「言葉」とのつながりがノートに表されるよう、単元によって扱う表現方法の順を変える手だてを取る。

 繰り上がりのない加減法では、問題のイメージを共有するために、文章題をノートに書かせ、全員で意味を考える。次に、自分がブロックで操作したことを図に表現させて、式を書かせる。そして、図と式と言葉を結び付けるために、ノートで同じ意味の数値だと思うものを同じ色で囲ませ、気付きを促す。これを全体で交流し、式の意味を深めていく。

 次に、三口の加減法の場面では、問題文を教師が読み、その内容を子どもがノートに書く。「全部を文で書くのは大変」という思いをもたせることで、言葉や絵、数値を使って図式化すると分かりやすいと感じさせることができる。絵の場合、円や四角等単純な形にした方が効果的であることも、子どもが自ら発見していく。

 さらに、順除数や異種の数量を含む加減法の場合には、自ら図をかき、そこから数量の関係を読み取って式をノートに表せるようになっていく。こうした積み上げが数の概念形成につながっていく。

【4学年 わり算の筆算でのノート指導】

ポイント2 相手に説明するために表現する

 ノートに自分の考えを書く時に、式と答えのみの子や長文で考えを書く子がいる。高学年でも数の操作に終始するのではなく、授業で図の有効性をクローズアップしていくと、相手に説明することを意識したノート作りに向かっていく。

 除法の計算の仕方を学ぶ場面で、「ジェットコースターを待つ列に並んでいる。何回目に乗れるか」という文章問題を提示した。この場合、授業の鍵は、三桁割る二桁の筆算の仕方と、余りの処理の二つである。見当を付けて仮商を立て筆算の仕方を解決した時に、「商は8だから答えは8回になるね」と聞くと、「え、違う」「だって、余りがね」と余りの処理についての話し合いが始まった。

 言葉だけのやり取りでは理解に苦しむ子が出た時、友達に分かりやすく説明するツールとして、ノートに図を描いていた子を登場させ実物投影機でテレビに映して説明をさせた。どの子も、図によってどのような状況にある問題なのかをイメージすることができ、図に表すことの有効性を実感していた。

 式のみだった子が言葉を付け足したり、長文に満足していた子が図で考えたり、図と数値と言葉をつなげて表現する姿へと変容していった。長文での表記は、自己との対話には効果があるが、他者から理解されるまでに時間がかかり伝わりにくい。式化の根拠を伝えるために図に表して自分の言葉で説明を加えることでよさが感得された。

【主体的なノート作り】

 文章問題に対して式と計算、答えしか書かない子がいた場合にどのように関わっていくか。そんな時に「必ず二ページ使う」「ここにこれを書き、この色で」等と型を押し付けたり、この子は書けない子だと決めつけたりしてはいけない。

 問題を解く力は高いがノート作りに向かわない子に、自力解決の場で「この考え方は、授業のまとめに必要となりそうだね」と声を掛けた。授業後、ノートに「この考えは友達の考えとつながるね。どんな考えとつながると思う」とコメントを付けた。すると、違いや共通点を意識し、自分の考えを深めノートにまとめることができた。「自分の考えが役に立っている」と自尊感情が高まるように価値付けたことで、自ら「書きたい」という思いを膨らませた一例である。

【思考を深めるノート作り】

 思考を深めるノート指導を行う際には、「図、式、言葉とのつながりを意識させること」「共通点や違いに着目させること」「伝わりやすい表現に工夫させること」そして、「自分が教室で認められているとの思いをもたせること」を意識して子どもに関わっていく。それにより主体的に表現し、思考を深めていくようになる。

(北海道算数数学教育会小学校部会札幌支部研究部 札幌市立日新小学校 教諭 髙橋幸恵)

※次回は北海道算数数学教育会(小)「授業をデザインするポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-09-05付)

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