【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.19音楽科中学校編 北海道音楽教育連盟(横山学会長)音楽的な見方・考え方を働かせた授業のあり方(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-15付)
グループ内の中間発表で、お互いに感じたことを伝え合う生徒たち
◆他者とのかかわりを効果的に活用して
「音楽的な見方・考え方」については、学習指導要領の解説で次のように示されている。「音楽に対する感性を働かせ、音や音楽を、音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え、自己のイメージや感情、生活や社会、伝統や文化などと関連づけること」。
この「音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え」の部分は、〔共通事項〕を支えとした音楽の捉え方をすることであると考えられるのではないか。つまり、〔共通事項〕を支えとし、知覚・感受したことを自己のイメージと関連付けた学習を進めていくことである。
〔共通事項〕を支えとした音や音楽の捉え方をし、自己のイメージと関連付けながら進める創作の授業を紹介する。以前自分は創作の授業に対し、抵抗感を感じていた。生徒が思った通りのリズムや音高を記譜することができない、作品をつくり上げたとしても、自分がつくった通りにリコーダー等で演奏することができない、何をどのように評価すべきかがよくわからないといったことが原因であった。しかし、ゴールを明確に設定し、生徒が記譜や演奏技能が弊害にならないような工夫を凝らすことによって、歌唱や器楽の音楽表現とは異なる充実感をもって、授業に臨むことが可能となるのではないかと考える。
「言葉のリズムや抑揚を生かし、簡単な旋律を作ろう(オリジナルCMソングをつくろう)」の旋律創作の授業を例に、ポイントを考察する。この学習では、レミソラドの5音(授業の初期段階ではミソラの3音)を使用して旋律創作を行うが、記譜をせずに、マス目の中に歌詞を書き込むことで、楽譜の代用とした。
ポイント1 探究心を高める課題の設定
言葉には、リズムや抑揚があることを確かめる活動を行う。「トマト」や「トラック」などの言葉を例に出し、抑揚を手の高さを変えることで捉えたり、手拍子をしたりしてリズムを確認する。実際に身体を使うことで、実感を伴った理解につなげることができる。その後、宣伝したいもののキーワードや、そのキーワードをもとにしたCMソングの歌詞に、言葉のリズムや抑揚を生かして旋律をつくる。この時点では、ミソラの3音を使用し、一定の旋律が出来上がるが、生徒の思いや意図が存分に反映されている状況ではない。出来上がっている旋律も、これといったインパクトが無い。
そこで、「宣伝したいものをより強調するためには、旋律をどのように工夫したらよいだろうか」(生徒用〓CMのスポンサーからインパクトが足りないというクレームがきた)という課題を設定する。このように、日常耳にするCMソングとまではいかずとも、もう少し改良していきたいという状況を作り出すことが必要である。
ポイント2 知覚・感受したことを共有する場面の設定
改良するためのアイディアを出し合い、その中から出てきたリズムや音高の工夫、反復することによって生まれる効果などを、参考作品で試す。
例えば、カリカリという言葉が8分音符の連続でしかなかった場合、「カリを16分音符にし、その後に8分休符を入れるとカリカリした感じが増す」といった意見や、「同じ言葉を4回反復させ、最後の1回だけ音を高くすると、強調したい言葉が伝わる感じがする」といった意見をどんどん交流し、音楽を形づくる要素が変化することによって生まれる効果を共有する。共有した後、自分の作品ではどのような工夫をしたら、イメージに近づけることができるかをいろいろと試し始める。この場面があるからこそ、工夫したくなる意欲が生まれる。
ポイント3 主体的な学びを引き出す他者との交流
イメージに近づけるための試行錯誤を繰り返している途中で、他者との交流場面を設ける。互いの作品を聴き、音や音楽から喚起されたイメージなどを伝え合うことによって、表したいイメージが一層明確になり、新たな工夫の余地を見出すことにつながる。知覚したことと感受したことが結びついているからこそ、もっとこうしたいという思いを強くもつことができるようになり、学習を充実させることができる。
ポイント4 評価の視点の明確化
音楽表現の創意工夫の観点であれば、どう旋律をつくるかについて思いをもっていることが読み取れるか、さらにはその意図が具体的であり、複数の視点から検討されているかなど、質的な高まりがみられるかどうかで評価する。
また、音楽表現の技能の観点であれば、宣伝した言葉をマスのルール(1マスを8分音符の枠として捉える)に従って書き記すことができているか、思いや意図が反映されていると読み取ることができるかといった視点で評価する。したがって、教師の主観で作品を評価するのではなく、目標に対して判断するものである。
普段の授業で、どんな音や音楽の捉え方をしていくのかが大切であり、その積み重ねがその子どもの「音楽的な見方・考え方」を形成させていくことになるであろう。
(北海道音楽教育連盟 札幌市中学校支部事務局長 札幌市立西岡中学校 教諭 河合博子)
※次回は、北海道中学校英語教育研究会「IBを活用した課題探究的な学習」を掲載します
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-15付)
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