【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.20英語科編①北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)国際バカロレア(IB)の枠組みを活用した課題探究的な学習(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-17付)
◆深い学びへ導く“探究・行動・振り返り”
◎はじめに
新学習指導要領においては、外国語(英語)科の指導においても大きな変革を求められている。学習の基盤となる資質・能力においても言語能力は最上位に位置づけられ、学びにおいて非常に大きな役割を担うものになると考えられる。外国語科においては、これらの資質・能力を主体的・対話的で深い学びを通してどのように育成するのかが問われているが、ここでは本校の国際バカロレア(以下IB)の枠組みに照らし合わせて、“深い学び”に焦点を当てて話を進めていく。
ポイント1 IBでの探究サイクルを“深い学び”と捉える
新学習指導要領によると、“深い学び”とは、「習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた『見方・考え方』を働かせながら、知識を相互に関連づけてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう」学びであると定義されている。
これらをはぐくむ過程の中では、課題探究的な学習の一連のプロセスが重視されており、それらは正に本校が日常の授業において推進する「探究・行動・振り返り」の探究サイクルに他ならない。また、“深い学び”が成立する要素として、各教科における「見方・考え方」を働かせることは重要な要素となるが、IBで実施している概念学習がこれに相当する。本校の授業では、知識・技能の習得だけでなく、この「概念」を重要視している。つまり、概念学習を通じて、教科のものの「見方・考え方」を働かせることが生徒の生涯を通じた学ぶ力の育成や本質的な内容の理解につながるということである。
ポイント2 “概念”を考え探究サイクルを繰り返す
それでは、“深い学び”につながる本校の実践を一部紹介する。
各単元のはじめには、上述した「概念」について「探究」する機会を設ける。
例えば、2年生のある単元においては「主要な概念」を「コミュニケーション」と設定し、探究の主題を「日常的に親しんでいる大切な物を分析し紹介することは、他の人に自分を理解してもらうだけでなく、自分自身や自国について深く考えることにつながる」とし、コミュニケーションの本質について考える機会を与え、総括的評価課題として、大切なアイテムを紹介するShow and Tellプレゼンテーションを行う。そのため、「発表ではどんな言葉を使うとよいか。どんな構成にすると効果的か」「身近な物や一見単純な物について紹介する時は丁寧な説明が必要であるか」「他国にある物について学ぶ際には、その国の人々や慣習について理解する必要があるだろうか」といった補助的な質問を与え、協働学習を通じて「概念」にアプローチを行う。この段階において、子どもたちは理由も含めて自分自身に問いかけたり、友達と考えを比較して深め合ったり、「実際はどうなんだろう?」と学習に期待したりする姿が見られる。
次に「行動」として、聞くこと、読むこと、話すこと(やり取り・発表)、書くことの五つの領域を育成する活動に取り組んでいくが、ポイントとしては活動と総括的評価課題をつなげることが挙げられる。
一例として、他国の伝統的なアイテムを紹介するAuthenticな記事を読み、そのアイテムとその国の文化や慣習との関係性について学ぶ。その後、自分の紹介するアイテムと日本の文化や歴史との関わりを考え、発表の内容に組み込む。また、必要となる文法事項として、接続詞のwhen、It構文等を学ぶ活動を行い、それらの活用を評価項目に含めることにより、活動、課題、評価の一体化を図る。この「行動」の段階においては、改めて選んだアイテムの重要性を自分自身に問いかけたり、そのアイテムと自国との関係性に気が付いたり、受け手を配慮した発表とは何かを考え、活かしたりといった姿が見られる。
単元の終わりには、はじめの段階と同様に「概念」について考え、「振り返る」機会を設けている。「探究」「行動」を踏まえた上での「振り返り」のため、はじめの段階と比べるとより具体的に深く考えを表すことができると同時に、さらなる学びへの意欲も示すといった姿が見られる。
これからの世の中を生きていく子どもたちにとって、英語を学ぶ意義は何かと考えた時、英語の力を身に付けてそれらを活用する力を育成することと同時に、物事を捉え考える視点である「概念」について思考し、仲間と共に「探究・行動・振り返り」を繰り返しながら学び合う経験は非常に意義があると考える。
この「探究・行動・振り返り」のサイクルは、IBだけではなく、英語の一般的な授業にも導入が可能である。主体的に学ぶ姿勢を育成する上で参考になれば幸いである。
(札幌市中学校英語教育研究会 研究部副部長 市立札幌開成中等教育学校 教諭 大澤たまみ)
※次回は、「豊かな表現力を育成するポイント」を掲載します
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-17付)
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