【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.17保健体育科中学校編 北海道学校体育研究連盟(中野正毅委員長) 〝深い学び〟を目指した中学校短距離走の授業づくり
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-10付)

伝えたい体研連①
本時の課題を明確にして、練習に取り組む生徒たち

◆探究し合い、成長欲求を伴った学びへ

1 保健体育科の授業改善に向けて

 学習指導要領の改訂に伴い、「どのように学ぶか」という、学び手である生徒の学びの過程や思考の流れを意識し、「主体的・対話的で深い学び」の実現による授業改善が求められている。そこで今回は、保健体育科における「深い学び」の一例を示すこととした。ただし、「主体的・対話的で深い学び」は、あくまで資質・能力の育成のための手立てであって目標ではない。「活動あって学びなし」では意味がなく、育成すべき資質・能力の手立てとしての「主体的・対話的で深い学び」であることを付け加えておく。

2 保健体育科で求められる「深い学び」とは

 保健体育科で求められる「深い学び」とは、新たな知識や技能を習得したり、それらの知識や技能を活用して思考・判断・表現したりしながら、運動や健康に関する課題を解決するための探究的な学びである。そのためには、自らの力で運動や健康に関する課題を明確化し、試行錯誤しながら解決の方法を思考し、学びの過程や解決の姿について自分の考えを深めたり、広げたりし、学びの過程や自らの成長に自信をもつことが重要である。よって、一単位時間で「深い学び」を実現するというよりも、単元を通して設定したり、過去に学んだことを関連付けたりしていくことが「深い学び」となり、保健体育科で目指す資質・能力の育成へとつながるのである。

3 具体的な授業像

 中学校の第1学年の短距離走(50m走)の技能における資質・能力は、腕振りと脚の動きを調和させた全身の動きで速く走ることである。この腕振りと脚の動きを調和させた全身の動きを、学び手である生徒全員でより具体的に検討しながら目標とする動きを共通確認すること、そして、その目標とする動きと自分の動きとの比較から自己の課題を明確にし、動き方や練習方法の工夫、改善や練習後の評価を行い、探究のプロセスを構築することで「深い学び」とすることができると考える。

ポイント1 目標の動きを設定する

 まず、目標とする動き、いわゆる滑らかな走り方の具体像の共通確認を図った。腕振りをしないで走ったときと、腕を振って走ったときを比較することで、腕振りの重要性を理解するとともに、腕と脚の連動性を実感することができる。そして、腕を速く振るには、マット運動で身に付けた知識を活用し、速い回転を得るにはより体を小さくすることの理解を関連させ、腕の長さを短くするために様々な角度で腕を曲げて速く腕を振る方法を試した。また、推進力を生むための体の使い方について、腕を振る方向を横や斜め、そして進行方向などを試したりすることで、腕を直角に曲げ、進行方向に前後に振ることが重要であることを生徒の言葉で確認していく。加えて、脚も上げ過ぎると前傾姿勢が保てないことを観察や比較を通して確認し、前傾姿勢を保ちながらも、より地面を強く押すことができる脚の位置を、ふとももが地面と平行になる位置にするという目標の動きを設定した。

 これらの目標とする動きの共通確認が、自己の走り方の課題をとらえることにつながり、探究的な学びの入り口となるのである。

ポイント2 自己の課題を明確化する

 次に自己の課題の明確化である。自己の課題の明確化には、目標とする動きと自己の動きとの比較が必要となる。それには、動画の活用や相互評価により他者との協働的な学びが効果的である。それは、他者の動きの観察は、自らの学びに転用できるだけではなく、観察の視点を交流したり、自己の考えを伝えたりするなどの思考・判断・表現が伴うからである。

ポイント3 試行錯誤の場と時間を確保する

 本実践では、3人1組で実践・援助・評価の役割を交替しながら進めるようにした。意識した部分の観察や評価を協働的に進めたり、課題に応じた練習方法を選択できたり、組み合わせたりできる試行錯誤の場と時間の確保が重要である。動き方を工夫したり、目標とする動きを確かめたりすることは、知識と技能を定着させるだけではなく、運動の行い方のポイントを見付けたり、仲間のよい動きを伝えたりし、記録の向上や競争することの楽しさにもつなげることができる。このとき、観察や評価の内容は学習シートに記録できるようにすることも大切である。

ポイント4 他者との協働から探究的な学びへ

 目標とする動きの共通確認から課題を明確化し、他者と協働して練習や観察を行うことが課題を解決するための探究的な学びとなると考える。なお、実践後、記録の向上のほかに、他者と探究することの価値についての振り返りの記述も見られることから、深い学びには他者との協働的な学びの関連性も見取ることができる。課題解決に向けて協働的・探究的に学びを進めることで、単に知識や技能の一方的な教え込みの授業から、生徒の成長欲求を伴った深い学びとしていくことができると考える。

(北海道学校体育研究連盟 中学校研究部長 札幌市立東栄中学校 教諭 髙橋 正年)

※次回は、北海道音楽教育連盟「器楽の学習を充実させるポイント」を掲載します。

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伝えたい体研連②
本時の課題を明確にして、練習に取り組む生徒たち

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