【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.18音楽科小学校編 北海道音楽教育連盟(横山学会長)器楽の学習を充実させるポイント(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-12付)
4学年「エル・クンバンチェロ」の器楽の学習で、各パートの音量バランスを感じながら演奏について対話的に学習している様子
◆客観的に演奏をとらえさせる手立てを
◎器楽の学習で陥りやすい教師の一方的な指導
小学校では、1年生から鍵盤ハーモニカ、3年生からはリコーダーを用いて器楽の学習を行っている。鍵盤ハーモニカやリコーダーに関しては、運指がうまくできるようにするために時間をかけ、とにかく練習をさせるような指導が多く見受けられる。
また、学習発表会や入学式、卒業式などで器楽合奏をする学校も多い。器楽合奏においても、指揮を行う教師は、ブレスや強弱、フレーズ感などを聴き取り、演奏の質を高めるような一方的な指導をしがちである。教師の力量で子どもにとっても満足度の高い演奏ができるのかもしれないが、教師が身に付けている音楽性を一方的に伝えるような学習のスタイルになってしまい、子どもにとって真に充実した学習になっているとは考えにくい。
そこで、新学習指導要領で示されている、子どもが音楽を「どのように学ぶか」という視点である「主体的・対話的で深い学び」を実現し、器楽の学習の充実につなげるポイントを紹介する。
ポイント1 「どのように楽曲をとらえているのか」という思いを引き出させる
器楽の学習を充実させるためには、子ども自身が「どのように楽曲をとらえているのか」という思いを引き出す発問や場が必要だと考える。
なぜなら、子どもが「楽しい感じの曲だ」「なめらかな感じの曲かな」と楽曲からとらえた音楽イメージを実現していくような学習を展開することで、子ども自身が主体となって学びを進めることができるからである。子ども自身が「こうしてみたい」と考える音楽を何度も演奏していく中で、学びの実感を伴いながら技能を身に付けたり、学習の見通しをもちながら技能を高めていったりすることで、器楽の学習に主体的に取り組ませることができる。
楽譜を渡しただけで楽曲のイメージを膨らませられる子どもは少ないため、CDや教師の模範演奏を聴く活動を学習の中に位置付けた方がよい。「こんなきれいな音で演奏したい」「リズムよく跳ねるように演奏したい」など、子どもが生き生きと器楽に取り組もうとする姿を目指したい。
ポイント2 打楽器の役割に着目させ、合わせることの楽しさに気付かせる
3年生「聖者の行進」を実際に指導した場面を用いて具体的にお伝えする。
この楽曲は4つのパートで構成されており、①主旋律(リコーダー)②副旋律(リコーダー)③低音楽器④打楽器(大太鼓、小太鼓)となっている。
いざ合奏してみると、タイミングは合わず、聴いていたCDとかけ離れた演奏になった。そこで、演奏が全く合っていないという実感をし、強く「合わせたい」と考えている子どもたちに「どのように演奏したら合わせることができるのか」を問うた。
子どもたちが注目したのは「打楽器」であった。なぜなら、全員で打楽器のリズムを確認した際に、拍と打楽器のリズムが結びついていることを実感していたからである。「打楽器のリズムに合わせるとよいのではないか」と発言した子どもに共感したクラスの子どもたち。実際に打楽器を意識して演奏すると、縦が合う演奏へと変わっていき、楽曲がもっている楽しさを味わうことができたのである。
教師が「打楽器に合わせなさい」と言わずとも、子どもに考えさせ、対話を生み、実際に表現をさせて確かめることで、楽曲のもつ価値や学習の目標に辿り着くのである。
ポイント3 演奏を録音して聴かせ、客観的に自分たちを見つめ直させる
4年生で「エル・クンバンチェロ」の器楽を実際に指導した際も、「聖者の行進」と同様、対話的に授業を展開した。
この教材で特に注目させたのは「主旋律」である。自分が担当したパートのみ演奏しているときには、「自分が主旋律である」と考えることが多い。そのため、合奏をした際に全てのパートが大音量で演奏されたために、合奏としては成立していなかった。
ところが、「今の演奏はどうだった」と問うても、半分くらいの子どもたちは「拍が合っていたのでよかった」と答えた。自分の演奏に集中しているために、全体を俯瞰して聴くことができていないのである。
音楽を演奏するときには主観的になりやすい。そのため、客観的に演奏をとらえさせるために、ICレコーダーで演奏を録音して聴かせた。すると、子どもたちがよかったと思っていた演奏は、「主旋律」がわかりにくい演奏となっていることに気付き、他のパートが音量を下げて演奏しなければならないことを深く理解し、共有していった。
◎教師の一方的な器楽指導スタイルの見直しを
教師が一方的に指導するスタイルを改めて見直し、子どもが主体的・対話的に学べるようなかかわりをしていき、教師の手立てによって深い学びへと子どもたちを導いていくことが、これからの器楽の学習にとって大切である。
(北海道音楽教育連盟 札幌市小学校支部 事務局次長(研究)北海道教育大学附属札幌小学校 教諭 谷坂俊典)
※次回は、(中)「音楽的な見方・考え方を働かせた授業のあり方」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-12付)
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