【伝えたい!授業づくりの基礎・基本】NO.25道徳科①北海道道徳教育研究会(鹿野内憲一会長)板書づくりのポイント
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-29付)

伝えたい第25回・道徳①
板書写真(クリックすると拡大表示されます)

◆構造的板書を生かし、深い学びを目指す

 いよいよ、道徳の教科化が始まった。「主体的・対話的で深い学び」の実現に向け、「考え、議論する道徳」へと、質的転換を図ることが求められている。授業で欠かすことのできない板書の活用方法を基に、「考え、議論する道徳」へと向かう手立てを述べていく。

◎道徳的問題を明らかに

 他教科の授業でも、教科書やノートなどを使用するが、それぞれに使用の目的がある。板書にも、授業において子どもの思考を促す大切な役割がある。道徳科では、登場人物の行動や心情、子どもの考えや問題意識等を板書に構造的に位置付けることで、教材を通して考えるべき道徳的問題が明らかになり、子どもが自分の考え方や感じ方をより明確にするための手立てとなる。

◎構造的板書のポイント

ポイント1 対比構造で板書を考える

 板書には様々な書き方があり、これという正解があるわけではない。これから述べることについても、板書の一例であると押さえていただきたい。

 よく行うのが、対比構造で板書を考えることである。学習指導要領解説にも、「なお、例えば、発達の段階に応じて二つの概念が互いに矛盾、対立しているという二項対立の物事を取り扱うなど、物事を多面的・多角的に考えることができるよう指導上の工夫をすることも大切である」と、書かれている。二項を板書上に意図的に位置付け、それぞれの考えの違いを明確にするだけでも、対比を生かした板書となる。子どもの思考を整理し、なぜそう考えるのかと問題意識を生むことにつながる。

 その他にも、教材中の登場人物の心情の変化を取り上げ、変化の前後を比べて考えることで、子どもの思考を深めることができる。板書に何を位置付け、何と何を対比構造としていくかを考えることは、授業者が指導観(価値観、児童観、教材観)を明確にすることにつながる。

 私が行った授業を基に、対比構造を生かした板書の一例を紹介する。

 教材は、6年「ここを走れば」、内容項目は、「C 規則の尊重」である。基本的に教科書の流れに沿って授業を行った。今回の板書では、「(あなたは)父の考えをどう思いますか」という中心発問に対しての考えが二項に分かれると想定し、子どもの考えを対比構造で板書の中心に位置付けた。また、ネームカードを板書上に位置付けたことで、自分の考えを明確にしながら話し合うことができるように工夫した。

◎指導と評価の一体化へ

ポイント2 板書に子どもの考えを位置付ける=見える

 今回の授業では、父の行動について「分かる」と「なんで(父の考えが分からない)」という2つの立場を基に考えるよう、子どもに伝えた。板書の中心には、2つの立場を対比して位置付けた。

 「自分ならどうするか」と、自分自身と向き合い、自分事として考えると、同じ立場でも、その理由は違ってくるであろう。そこで、ネームカードを自分の考えと近いところに貼らせ、一人一人の子どもの考えが見えるよう工夫した。こうすることで、自分の考えをうまく言葉にできない子でも、自分の考えを示すことができる。

 また、友達の考えが見えたことで、「なぜ、そちらの立場なのか」「どんなことを考えているのか知りたい」という思いが子どもの中に自然と生まれた。当然、友達と関わらなければ、その思いは解消できない。友達と話し合うことで、それぞれが自分の納得解を見つけていく。二項対比の板書とネームカードの活用が対話を生み、学びを深めるきっかけにもなるのである。

ポイント3 評価に生かす

 子どもたちが十分に友達と話し合った後、ネームカードの張り直しをさせた。自分の考えが変わった子と変わらなかった子、まちまちであった。ここでは、考えを変えることが大切なのではない。主体的・対話的な学びを通して、「やはり自分は、これが大切だと思う」と深く自覚すれば変化はなく、友達の考えを聞いて、「そういう考えもあるのか」と思えば、変化するであろう。

 また、ネームカードの活用で、「一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか」「道徳的価値の理解を自分自身とのかかわりの中で深めているか」という視点で子どもたちの学習状況を評価することもできる。授業中の発言や記述などに注目しつつ、子どもの考えをしっかり見取っていきたい。

 ある子の振り返りには、「もし、自分の母や父の命が危なくなったら、いくら規則だったとしても、会うために路側帯を走ってしまうかもしれない」と記されていた。この子ははじめ、父の行動に対して「分かる」という立場をとり、規則を守ることは当然だと考えていたが、友達と議論し、自分自身とのかかわりの中で考えたことで、価値を実現することの難しさを実感したことが分かる。教師は、このような子どもの姿に注目し、認め励ます評価をしていきたい。

 板書はあくまでも子どもの思考を深めるためのツールの一つである。しかし、意図をもって活用していくことで、学びの可能性を広げていくことができると考える。

(北海道道徳教育研究会 研究部長 札幌市立石山南小学校 教諭 北山達大)

※次回は「教科書教材を活用するポイント」を掲載します。

(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2018-10-29付)

その他の記事( 伝えたい!授業づくりの基礎・基本)

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.30図画工作科②北海道造形教育連盟(森長弘美会長)創造性を重視した授業づくりのポイント

◆何を表すか、教師でなく子どもが決める  図画工作科では、子ども一人一人の創造性を重視した授業づくりが求められている。示された手順や方法の通りにつくったり、何かの模倣をしたりすることで終わ...

(2018-11-09)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.29図画工作科①北海道造形教育連盟(森長弘美会長)確かな資質・能力を育む授業

伝えたい29回造形教育連盟1 ◆〝教師のさせたい学習〟からの転換   新学習指導要領では、すべての教科において目標を資質・能力で構造化し、指導すべきことが明確にされている。図画工作科はこれまでも「発想や構想の能力」「創...

(2018-11-07)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.28道徳科④北海道道徳教育研究会(鹿野内憲一会長)〝考え、議論する道徳と評価〟のポイント

伝えたい!評価研修会 ◆共感や客観的に捉えさせる学びを大切に ◎道徳科における評価  特別の教科 道徳(以下、道徳科)の評価について、すでに実際の通知表での文例が様々な雑誌や書籍で紹介されているが、今一度道徳...

(2018-11-05)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.27道徳科③北海道道徳教育研究会(鹿野内憲一会長)指導と評価の一体化におけるポイント

伝えたい!北道研 ◆記録の累積化・生徒の振り返りを生かす ◎大切なのは授業  中学校で平成31年度から始まる「特別の教科 道徳(道徳科)」において、多くの先生方が最も不安に思っているのは、評価であろう。ど...

(2018-11-02)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.26道徳科②北海道道徳教育研究会(鹿野内憲一会長)教科書教材を活用するポイント

伝えたい!北道研②板書 ◆授業を子どもと作る視点を大切に  今年度から、小学校では道徳の時間が「特別の教科」となった。多くの教師が教科書を中心に週1時間の実践を積み重ねてきている。しかし、実践の中心となる教科書に...

(2018-10-31)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.24総合的な学習の時間編 北海道生活科・総合的な学習教育連盟(礒島年成会長) 探求的な学習 充実のポイント

伝えたい2道生総連、上 ◆授業の基本原理を重視した単元づくりを  総合的な学習の時間における「深い学び」は「探究の過程」が主体的に繰り返され、子どもが探究課題に関わる概念を獲得し,社会参画を目指していく姿のことで...

(2018-10-26)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.23生活科編北海道生活科・総合的な学習教育連盟(礒島年成会長)生活科 授業改善のポイント

伝えたいNo2生活科のコピー ◆気付きを見取り、つなげ、深い学びへ  生活科における「深い学び」は、「気付きの質を高める」ことである。児童の気付きを見取り、つなげ広げることが「深い学び」への入り口なのである。今回は、気...

(2018-10-24)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.22英語科編③北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)教科書の題材活用のポイント

No2黒谷図表・上 ◆教科書を使って4技能の統合を図る ポイント1 入門期に英語学習の基礎を作る  1年生の1学期に小学校と中学校の接続を意識した授業づくりを行う。外国語活動を経験してきた生徒たちは発音が上...

(2018-10-22)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.21英語科編②北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)豊かな表現力を育成するポイント

伝えたい!第21回中山 ◆〝表現できた〟と喜びのある授業を  現行の学習指導要領では、「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4領域を総合的に育成することをねらいとして英語科における目標が設定されている...

(2018-10-19)  全て読む

【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】NO.20英語科編①北海道中学校英語教育研究会(中村邦彦会長)国際バカロレア(IB)の枠組みを活用した課題探究的な学習

伝えたい!第20回 ◆深い学びへ導く“探究・行動・振り返り” ◎はじめに  新学習指導要領においては、外国語(英語)科の指導においても大きな変革を求められている。学習の基盤となる資質・能力においても言語能力...

(2018-10-17)  全て読む